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27. オリバー、グレイブと会う

「オリバー、ニューテックへようこそ」

「これからご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします」


 王都歴2040年4月、オリバーは今日ニューマテリアルテック株式会社へ入社した。


 ニューマテリアルテック株式会社、通称ニューテックは父が作った会社だ。もともとはその親会社に勤めていたが、ニューテックを設立しようと親会社が100%株を保有する形で子会社として設立されたのだ。


 王都の中でも少し下町寄りに立つニューテックのビルは8階建てだった。どこにでもありそうなビルだ。


 父は少し変わっている。父がいる社長室は7階にある。そのフロアには他の取締役の部屋と試験室があるのだ。1番上にあるがフロアには会議室とフリースペースがある。何でも「1番見晴らしが良いところで皆に仕事をしてほしい」と言って、普通であれば社長室は最上階に入るはずが7階に入っているのだ。


 それからなぜか父のデスクは2つある。4階にも大きなデスクがあって、父とスグロ取締役が半分ずつ使っている。


 今日は入社式も終わり7階の父の部屋へと挨拶をしに来たのだ。オリバーはドアが開いていたので、中を覗いてみる。するとこの前上げたばかりのスピアとの結婚式の写真を入れた写真立てを愛おしそうに見ていたのだ。


 オリバーが2歳の頃に母が交通事故で人形化ザドールとなった。父は母のことを愛していたみたいで、未だに母から貰ったネクタイピンをつけている。


 目の前にいる父は50歳の時にプレゼントしたカフスをつけている。最近老眼が進んでいると言っていたので、60歳の誕生日には衝撃緩和素材のメガネケースを上げようか考え中だ。他社製品は嫌がるかもしれない。


 予定では明日から新人研修と言うマナー研修が2週間会った後、現場で先輩に教えてもらいながら業務をすることになっている。研修は外部の会社のもので会場が決まっているため、この会社に来るのは2週間後なのだ。



 ■



 オリバーは新人研修を終えてまたニューテックのビルに戻ってきた。オリバーの希望通り配属先はニューメタル部門とメタル部門だ。ニューメタル部門とメタル部門は同じ人が配属しており、5人しかいない新しい部署だ。


 ビルの4階にそのデスクがある。オリバーを直接教えてくれるのは、なんと部門長であるグレイブと言う人だった。オリバーは勢いよく頭を下げた。


「グレイブ部門長、オリバーと申します。これからご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします!」

「オリバーくん、僕も入社してまだ1年だ。同じ新参者同士良い物をつくっていこう。部門長はやめてくれ、せめてさん付けで頼むよ」


 物腰の柔らかい目の前の部門長は細身の若さが残る優しそうな人だった。短い黒髪に黒い目をしている。それでいて背筋が伸びていて立ち振舞が綺麗だった。


 グレイブは部門のメンバーを紹介した後、ビルの中を案内した。試験室は各階にある。それは部門ごとにその階のものを使うことが多いので、4階の試験室が1番よく使うことを教えてくれた。


 そして最上階に行くと大きい窓のある会議室へと入った。大きい窓からは太陽の光がたくさん流れこみ温かい。それに見晴らしのいい部屋だった。


 グレイブは会議室を閉めると、居心地が悪いのか頭の後ろに手を当てている。外を眺めていた視線をオリバーへと移した。


「早速初めていいのかな⋯⋯話せる部分だけでいいからアイスブレイクしてもいいかな?」

「⋯⋯はっはい!」


 オリバーは肩に力が入っていた。それを見たグレイブは自分の前世から話始めた。前世では鍛冶屋をしていたと説明した。魔王が住む世界に1番近い村で勇者が使う剣を作り続けていた。


 自分の打った剣で勇者は魔王を倒したところで話を結んだ。


「その経験もあって、今は主に包丁を作っているんだ。その話は後で詳しくするよ」


 グレイブの声は少しこだまして消えていった。オリバーは話し始めるタイミングを見ているようだ。少し目線を落として話始めた。



 ――――――



 オリバーの前世では、レオンと言う名前で男爵家の5男だった。家族は多くレオンを気に掛ける者はほとんどいなかった。父は仕事が忙しくて1年に数回しか会わなかった。


 母はレオンが物心つくと掃除、洗濯、炊事などを教えると、すぐにそれを押し付けた。レオンには妹と弟が1人ずついたので、自分は手をかけさせまいと思って首を縦に振った。


 学校には一般教養を身につけるのに通わされた。家に帰ると毎日炊事に追われ、週末は洗濯と掃除、弟と妹の世話をした。


 母は兄たちを気に入っており、お金を惜しまなくかけた。そのうち兄の内の1人からレオンは要領が良いから将来執事が向いているんじゃないかと母に話したようで、それを聞いた母はすぐにその手配をした。


 ――――――



「そして、王宮の人員募集で執事の枠があり応募して今の妻の前世であるその時の側室のグローリア様に仕えたんです」

「えっじゃぁ今の奥さんとは前世から繋がっているんだ」


 オリバーは優しく微笑んだ。


「えぇ、叶わぬ恋でしたが想い合った仲でした」


 オリバーは前世に思いを馳せる。

 誰にも言えないオリバーの影――。


 グレイブは嬉しそうに口角を上げて腕を組んだ。


「素敵な話だな! ⋯⋯なぁオリバー、真剣な話をしてもいいか?」

「えっ⋯⋯えぇ」


 オリバーはグレイブの様子を探ろうとすると、グレイブは真剣な顔を向けた。


「僕はワイズさんを慕っている。彼の志に共感しているんだ。それでニューメタル部門でこの会社の衝撃緩和素材“ニアリーゼロ”とメタルを掛け合わせた素材を開発したいんだ」


 オリバーは頷いた。それを見たグレイブは横を向いて何かを考えているようだ。少し間があった後でオリバーに顔をずいっと近づける。


 グレイブの瞳が視界を覆う。


「僕の瞳には白い線が無いだろう? ⋯⋯僕の人生はこれで終わりなんだ」


 オリバーの瞳は左右に動く。


 意味が分からない


「終わりってどういうことですか? 終わったらまた別の世界へ転生しますよね?」


 それを聞いたグレイブは苦しそうな顔に変わる。オリバーは分からなかったが、自分は失言したように感じ心がツキンと痛んだ。


「僕はこの人生が最後なんだ。転生ポイントがつかないから転生しないんだよ。死ぬそうだ」


 そこでグレイブは目を見開き、バツの悪そうな顔に変わった。オリバーから後ろに離れると両手を上げて謝った。


「すまない、驚かせちゃったよな。僕は全力で仕事をするってことを伝えたかったわけで⋯⋯。もし、君にやりたいことが見つかったらいくらでも協力するから」


 そう言うとグレイブは言葉を探して周りを見渡したが、見つからなかったようで頭の後ろを掻きながらオリバーから背を向けた。


 オリバーはそんな話をしてくれる人がいなかったので驚いた。初対面だが、この人がこれが最後の人生っていうことを冗談で言っているとは思えなかった。


(病気の一種なのだろうか⋯⋯)


 オリバーは心の内を見せられて心が熱くなった。


(この人になら、誰にも言えなかったけど話してもいいかも⋯⋯)


 オリバーは顔を上げてグレイブを見た。グレイブの顔は気まずそうだ。


「前世の話で言っていないことがあるんです⋯⋯」


 

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