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25. スピアの思惑

 スピアはパソコンの画面を見つめている。これからの計画を練るためだ。

 イノテックの取締役は社長を含めた9名いる。そのうちの7人は行きつけの店があったので直接協力を仰いでいる。その全員に個別に探偵をつけている。


 報告内容によるが、イノテックの社長に付けている探偵からは週に1度、あとは何か動きがある度とお願いしている。他の取締役についている探偵からは月に1度だ。直接会ったり、伝番で画像を使いながら報告を受けたりしている。


 念のため、イノテックからやってきた出向取締役にも探偵を最近依頼し始めた。すると面白いことが分かってきた。


 注目するのはアリソンという男の方でイノテックのメディアディスプレイ部門の黄金時代を築いた人物であり、その後小型魔道具こまど部門にいたのだった。


 知り合いの記者にアリソンのメディアディスプレイ部門の頃の直属の部下だった人に話を聞いてくれたのだ。すると、メディアディスプレイ部門が黄金期にもかかわらず、アリソンは小型魔道具こまど用のディスプレイの開発を提案したそうなのだ。


 しかし、イノテックの反応は良くなかった。ディスプレイは「大きいこそ、価値がある。競技場や音楽のライブなど大きいものがこれからは重要視される」と一蹴した。


 時代が流れて通信機器である伝番のサイズが縮小されて小型魔道具こまど製品と認識され始めたころ、そのディスプレイはまさに重要なものだった。通信機器としての性能を上げる中でそれを映し出すディスプレイは魔道半導体との親和率を魔石の効果で上げるというのが主流になっていた。


 イノテックは大きく出遅れたのである。それでもアリソンはディスプレイ部門からの移動先に自ら小型魔道具こまど部門をしてきた。


(先見の目もあって興味深いわね。マルクとお父様に相談しましょう)


 マルクという男はスピアの父の元秘書である。今は父と共に取締役となり、いくつかのグローリアホールディングスの子会社の社長をしている。そのマルクを育てたのはスピアだった。スピアはスピアの父の会社に契約社員という形で入っていた。


 スピアは個人的に分析が好きなので情報収集してはその情報をまとめてグラフや表に出来るようにまとめている。それを対外的にスピアの父に提出するという形で、管理部門の情報分析担当という名で勤務している。


 スピアが15歳の頃にはもう才覚はめきめきと目に見えていたので、スピアの父は試しに秘書であったマルクの補佐役という形でスピアを付けた。マルクは頭の回る方で、スピアの父も秘書としての能力を買っていたが、将来隣に共に立って会社を引っ張っていっていく存在になってほしいと思っていた。


 それはスピアの父がぼんやりと希望していたことだが、マルクの成長ぶりには驚かされた。秘書としてのスケジュールや資料の準備は元々業務としていたが、スピアの父の意図を先にくみ取るように準備をしてくれるようになった。


 そして、その意図も頻繁に確認してくれている。そのうち、スケジュールや会議の議題についても提案をし始めたのだ。それも改善の提案でスピアの父が納得するものも多かった。


 スピアの父がマルクに仕事について聞いてみると「スピアさんは厳しい」と言葉をこぼしていた。



 そんなマルクを含めてホテルの最上階の個室でスピアの父とスピアは3人で食事を取った。初めに口を開いたのはスピアだった。


「お父様、ニューテックの件、マルクも巻き込んでもよろしいですか?」

「是非は後で決めるにしても、話はしてもいいよ。マルクは口の堅い男だからね」


 いつもオールバックで隙のないマルクは眼鏡の端を上げて2人の様子を窺った。



 ■



 マルクとスピアの父にも動き始めてもらってから様々なことがあった。


 まずはニューテックが衝撃緩和率80%を誇る衝撃緩和素材”ニアリーゼロ”が発売されたのだ。それと反比例するようにイノテックはじわじわと業績を下げてく。


 業績の補填にニューテック株の売却利益を当てにしてもらえるかもしれない。これには下準備が必要だった。


 それからニューテックは近い将来プレミアム市場への上場を果たすだろう。そこをチャンスと捉えてイノテックのニューテック保有率を下げなければ、次のチャンスは来ないかもしれない。


 ここはニューテック自身で気が付くとは思うが、スピアの父にもイノテックがニューテック株を売却しないのなら新株発行しかないだろうという話をした。もし機会が近づいてきたら、スピアの父からも口添えをしてほしいとお願いした。


 他の材料では、スピアの父は“魔道半導体”部門を買収したいと言っていることだ。スピアの見立てではイノテックの小型魔道具こまど部門も悪くはない。だがそこまで骨を抜いてしまえば、倒産まっしぐらだ。


 その材料を使ってイノテックの取締役の首を縦に振らせるのに、自分が出来ることは…。



 ■



 スピアは喫茶店でとある男女に会っていた。それは経済系の記事に強い会社の記者たちだった。


「最近は、親会社が子会社にしがみつくことも多いでしょう? それを疑問視するような記事をぜひ書いてほしいんですの。報酬についてはしっかりお話させていただきますわ。私の入れてほしい事柄を入れていただければ入れていただくほど…報酬に反映させますわ」


 そう言いながらスピアはエスプレッソに口をつけた。それを聞いた記者は身を乗り出し、スピアを見続けながら詳しいことを聞いてくる。


 スピアは次の3点は入れてほしいと口にした。


【子会社の株を多く保有しているほど、親会社は子会社にしがみついていると思われる】


【関係が良好であれば、子会社の株保有率は高くなくてもいい】


【連結決算で利益が出ていても、親会社単体で赤字のところは不調だ】


 これに関する記事について5つほど人を分けて書いてほしいと伝える。1つではわざとらしい。調べた時にランダムに違う記事が見えた方が良い。それに時期をずらして掲載してほしい。


 そして時期を分けながら取締役全員にどれかの記事ついて目に触れるようにする。行きつけのお店がある人は簡単だった。その記事の話をするなり、その雑誌を“落とし物”という形で見せても良い。


 そういう意見をイノテックの取締役の頭の片隅にでも持ってもらうことで、実際にニューテックからの報告時の受け取り方が変わるはずだ。


 その初めの記事が出る少し前にスピアはオリバーと結婚した。


 スピアの希望で、家族だけの結婚式をしたいと提案した。スピアの父にとっては大々的な結婚式の方が良かったのかもしれないが、スピアは前世のことを思い出していた。


 しきたりと形に縛られた豪華絢爛な結婚式はこの人生には要らない。自分の信頼した大切な人だけが来てくれれば良い。そう感じていた。オリバーにスピアは素直な気持ちを告げた。


 するとオリバーはスピアの手を優しくとり「君のそばにいられるなら、どんな形でもいい。結婚式も君の望むものにしたい」と言ってくれた。


 スピアは人生で2回目の涙を流した。1回目は前世の最愛の人・レオン、今のオリバーに出会った時だった。

 スピアは人生で涙など政略の道具と思っていた。だが、オリバーの優しさに触れて身体の中から感情が溢れてきたのだ。


 オリバーの腕の中で肩を震わせながら泣くスピアは年相応の女の子そのものだった。オリバーはスピアを優しく抱き続けた。

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