24. クズ魔石とワイズとの対面
ニューテックがアベレージ市場へ上場を果たすと、ニューテックは役員報酬をニューテックの株式譲渡に変更すると聞いた。それを聞いたスピアは口元を緩めた。
(何としてもニューテックはイノテックから離れたいようね。私も協力しないとだわ)
それからニューテックがディベロップメント市場からアベレージ市場へ移行となった際に、イノテックから出向社員50名と出向取締役2名を送り込んできたのだ。
スピアはパソコンの情報を見比べて頬杖をついた。
(出向社員だなんてイノテックの手先って見え透いているわね。でもどんな人かは確認しないとだわ。後でどのような優遇にするか決めないといけないものね)
2人のニューテックへの出向取締役について探偵に経歴等を洗ってもらうことにした。調べてもらったことをまとめた紙をスピアは眺める。
1人はイノテックのメディアディスプレイ部門の黄金時代を築いた人物だった。出向前は小型魔道具部門にいたようだった。
もう1人は家庭用魔道製品部門にいたようだ。ぱっとはしないがコネ作りは上手いのだろう。懇親会などの申請が非常に目立った。
そんなことをしていると大学でオリバーが黒い石を持ってやってきた。
「オリバー、その手に持っている石は何?」
「あぁ、さっきユートにもらったんだ。ほら、この前まで発展途上国に行っていたみたいなんだ」
オリバーの1番仲が良い友だちがユートだった。
詳しく聞いてみるとクズ魔石のようだった。この国ではあまり見かけないものだ。オリバーは石を見つめながら口元を緩めていた。
それを見たスピアはすかさずオリバーを覗き込んだ。
「その石に何かあるの?」
「いや⋯⋯たぶん父さんが素材開発の仕事をしているんだけど、開発自体がすごく好きだから見せたら喜びそうだなって思ったんだ」
オリバーの頬は少し赤くなっている。照れているようだ。スピアはオリバーの様子を見て微笑んだ。
オリバーは物心がつく前に母親が交通事故で人形化になってから、男手1つで育てられてきた。
小さい頃から仕事をしながらオリバーを育ててきた父の存在はオリバーにとっては何にも代え難いのだろう。
それはいつもオリバーが嬉しそうに父親のことを話しているのを見ていても分かる。オリバーから2人で暮らすのは大学を卒業してからにしてほしいと頼まれたのも父親のことを考えてのことだろう。
「そうだオリバー、私あなたのお父様にお会いしたいのだけれどいいかしら? オリバーのお父様から見た私の率直な印象を聞きたいから私のお父様については話さないでお会いしたいの」
オリバーは少しスピアを見たあと笑顔で了承した。オリバーは直ぐに電話をかけてくれた。すると週末に会えるようで数日後に予定が決まった。
それからスピアにはもう1つやることがある。
スピアはオリバーと別れると電話をかける。子会社含めてどこかにクズ魔石がないか調べてほしいことをお願いした。あれば直ぐに何箱か送れる準備も進めてほしい旨も伝えた。
「探すのは構わないが理由を聞いてもいいかい?」
「オリバーのお父様が必要になるかもしれない物ですの」
次の日、オリバーは大学でスピアに会うと週末の話をした。
「もしよければ家に来ないかって父さんが言っているんだけど、どうかな?」
スピアはそれを聞いて目を輝かせた。
「えぇ、是非お願いしたいわ! 何を持っていったらいい?」
それを聞いたオリバーはなぜか少しバツの悪そうな顔になった。
「何も持ってこなくていいよ。⋯⋯俺が好きだからハンバーグを作るって言っているんだけど、大丈夫?」
少し照れている様子のオリバーを見て、スピアは口元を大きく緩めた。
(オリバーは自分のお父様の手作りのハンバーグが好きなのね。なんて愛らしいの!)
「えぇ、私もハンバーグは大好きよ」
■
週末になると駅でオリバーと待ち合わせをした。スピアは清楚な淡い色の柄が入った膝下丈のワンピースを着てきた。まだ寒いので上からコートを着ている。
オリバーは灰色のパーカーで中はチェックのネルシャツにチノパンを履いていた。
スピアは迷った結果ケーキと焼き菓子を持ってきた。オリバーが荷物を持ってくれるというので焼き菓子の入った紙袋を渡した。
家の玄関を開けるとオリバーが「スピア、入って。スリッパ花柄で良かった?」と聞いてきた。スピアは笑顔で頷いた。
オリバーはリビングへ直行した。何かを焼いているような匂いと音がする。金属が重なる音が聞こえた。おそらくフライパンに蓋をしたのだろう。ハンバーグを蒸し焼きにしているのかもしれない。
「父さん、スピアが来たよ」
キッチンから出てきたのはオリバーと同じくらいの背丈で頭は白髪交じりだがきれいにまとめられていた。太い眉毛と目尻が少し下がった狸顔で大きい目をこちらに向けてくる。高い鼻とオリバーと同じように少し白い肌、優しそうな印象を受ける。
(ふふっ、オリバーはお父様似なのね)
黒いネルシャツに黒いエプロンをつけていた。そのエプロンの大きなポケットに掛けてあるタオルで手を拭きながらスピアの元へやってくると、人懐っこい笑顔を向けてきた。
「君がスピアさんだね。私はオリバーの父のワイズだ」
「初めまして、スピアです。オリバーのお話通り素敵なお父様ですね」
スピアはケーキをオリバーの父へ渡した。オリバーの父はそれを受け取ると感謝の言葉を伝えた。
「手土産をありがとう。実はね、オリバーは君のこと全然話してくれないんだよ。だから今日は君とたくさん話をしようと思っているんだ」
そこへオリバーが口をはさんだ。
「父さん!」
そのやりとりが微笑ましくて、スピアは声を上げて笑い始めた。
その後、スピアとオリバーがテーブルの準備をしていると、オリバーの父の料理が出来上がったようで、食事となった。オリバーの父は興味深く大学生活についてスピアに聞いていた。オリバーは百面相のようにオリバーの父の言葉に顔をコロコロと変えた。その様子がなんとも新鮮でスピアはずっと眺めていたいと感じていた。
食事が終わると、ケーキを出す前に食器を片付け始めた。キッチンシンクへ持っていった食器をオリバーが洗ってくれる。その隙にオリバーの父はスピアを手招きするとソファの前のテーブルに大きな本のようなものが置いてあった。
「オリバーの写真アルバムなんだ。外側は耐水、効果持続の効果を付与している。今度我が社で作った衝撃緩和素材をこれにも使えないか開発しようかな?」
スピアはオリバーの父に開発一筋の印象を受けた。
「ふふっ、素晴らしい発想ですわ。出来上がったら私も欲しいですわ」
「オリバーに見つかると恥ずかしいのか怒られちゃうんだ。本当は動画もあるんだけどね。オリバーがいない時に来てくれればいつでも見せるよ」
息子を思うその父親の顔は輝いて見えた。そしてそんな人がオリバーの父親だということにスピアは心から喜んだ。
(男手一つでオリバーを育ててきたからどんな人かと思ったけど、本当にオリバーが好きなようね。愛情が溢れているように感じるわ)
■
次の週に入ると、オリバーが口を尖らせていた。どうしたのか聞いてみると、クズ魔石が定着剤に使えるかもしれないらしいが、仕入先が遠すぎて届くのに1ヵ月もかかるらしいのだ。それを聞いたスピア笑顔になった。
「まぁちょうど、その話をお父様としていたんですが、お父様の会社に在庫があるようなんですの。オリバーのお家へ直接送ってもいいかしら?」
「えっ良いけど、クズ魔石を分けてもらってもいいの?」
スピアは頷いた。
(その為に用意してもらったんですもの。役に立ててよかったわ。それから、そろそろマルクに動いてもらいましょう)
スピアはオリバーの腕に自分の腕を絡ませた。




