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23. スピアの情報収集

【注意】

このエピソードは歓楽街のクラブでのやり取りが含まれます。

 調べてみるとオリバーの父・ワイズはニューマテリアルテック株式会社の創設者であり現社長だった。聞いたことある名前だなと思い詳しく調べてみるとスピアの父親が社外取締役をしている会社の子会社であることが分かった。


 イノベーションテック株式会社ことイノテックは怪しい。


 それは周知の事実だった。家庭用魔道製品かまど部門で有名なこの企業はその業界では大手の部類にある。だが、業績はぱっとせず、父曰く「イノテックの人間は20年ほど遅れているような価値観の人が多い」と評価していた。昔からの慣習を疑問にも思わず続け、自分の利害を優先するような者が牛耳っている。


 ニューテックはイノテックの100%子会社として設立された。それまでのイノテックの業界とは違う“資材・素材”の業界だ。


 スピアはイノテックの20年分とニューテックは上場からの14年分の―年に一度会社から発行される決算書―有価証券報告書―に目を通した。なお、ニューテックが上場する前は官報に載っている決算書を収集して目を通した。


 それ以外に分からないことは父や情報を取扱う会社から集めた。


 するとイノテックがニューテックを離さんとばかり囲っていることが分かった。会社設立3年で黒字化したニューテックは4年目にイノテックからの融資が無くなり、代わりに銀行から、それも大手の銀行からの融資を受け始めた。


 これはイノテックが黒字化を理由にニューテックを放り出したことが分かる。また、大手の銀行が融資についたということは、黒字のままなら返済をしてもらい、赤字に転落すれば経営に口を出す。蛇のようにニューテックを締め付けようとしているようにしか見えない。その先のイノテックを睨んだ大手銀行の思惑なのだろう。


 高い配当金比率は今では珍しくないが、上場もしていない子会社の配当金比率をどんどん上げている。連結決算での利益を吸収するだけではなく、イノテック単体での決算でも利益が出るように受取配当金としての営業外利益を当てにしているのだろう。実際にイノテックの本業だけではなく、その金額によって赤字を免れた年はいくつもあった。


 設立10年目にニューテックはディベロップメント市場に上場した際にニューテック株のイノテック保有率を51%まで減らしていた。それは議決権も減るということだ。


 スピアは目を見開く。


(ニューテックはイノテックから離れようとしているのかしら)


 その年に国内大手の伝版会社の製品に衝撃緩和素材”エアーショックフリー”が採用された。ニューテックは好調そのものだ。


(おそらくお父様に伝えたらニューテックを欲しいと言われそうだわ。それは私から釘を刺しておかなければいけないわね)


 そう思っていると予想通り父はニューテックの話を出した。だが愛するオリバーの父・ワイズの会社だ。その点は念を押した。


 そろそろ動くときだ。



 ■



 王都歴2037年、スピアは20歳の誕生日を迎えると、スピアは歓楽街へと繰り出した。


 クラブ“ブリリアンス”へと入店する。スピアの姿を見た黒服が目を丸くする。スピアはニコリとすると「ごめんなさいね。テーブルじゃなくてカウンターに案内してくださる?」と笑顔で言った。


 カウンターに通されるとスピアはメニューも見ないで“ギブソン“を注文する。ジンベースのカクテルだ。スピアは店内を見渡す。探偵に探らせてイノテックの何人かの取締役が気に入っていることを調べてもらったのだ。探偵から社長を含めた取締役9名の顔写真は見ている。


 カクテルが来ると口をつけながら時折店内を見ている。スピアは黒服を呼ぶと「今日はイノテックの皆さんは来るのかしら?」と聞いてみた。すると苦笑いをして「それは担当の嬢に聞いてみないと分かりかねます⋯⋯」とかわされた。“嬢”とはそのクラブにいる女の子のことを指している。


 スピアは探偵から今日の予定は聞いている。ふんと鼻から息を吐くと札束を黒服のポケットに入れると笑顔を投げかける。


「これでは足りないかしら?」


 黒服は目を丸くすると慌てて嬢の元へ向かった。


 しばらくすると戻ってきた。黒服の話では取締役2名と社長が来るようだ。取締役の中でもこの3人が重要人物ということが分かった。スピアは3杯目のギブソンに口をつけ頃、例の3人がやってきたようだ。よく来るみたいで、嬢が手を取り席まで案内している。


 例の3人は相好を崩していやらしい目で嬢を見ている。それを見たスピアは口をへの字に曲げた。1時間半もの間、例の3人は盛り上がりようやく帰っていったのだ。それを見計らうとスピアは黒服を呼んで先ほどの3人をつけてもらうように言った。


 黒服が3人に近づき話を始めた。すると嬢の1人は声を荒げた。


 それを見てスピアは椅子から下りると、3人のテーブルに近づく。嬢の3人はスピアの方に視線を向けた。黒服は少しほっとした様子だった。スピアはにこりとした。


「お姉さま方、お仕事中すみません。私もお姉さま方から勉強させていただきたいことがありますの。ピンドンから始めてもよろしいでしょうか?」


 ピンドンとはドン・ペリニョンのロゼの愛称だ。高級シャンパンである。


 その言葉に社長のお気に入りの嬢・レイカは笑顔になった。それを見た2人の嬢は口をつぐんだ。


「私はレイカよ。可愛らしい清純そうなお嬢さん、何が知りたいのかしら?」

「聡明なお姉さまには単刀直入にお聞きしますわ。私はイノテックを潰したいんですの。どの方が協力してくださるかしら? 1番先に協力をしてくださる方にアルマンド・ロゼを頼みますわ」


 アルマンド・ロゼとはアルマン・ド・ブリニャックのロゼでピンドンの倍近い金額の高級シャンパンだ。


 レイカはスピアの手に触れる。


「詳しい話を聞きたいわ」


 レイカは近すぎず遠すぎない距離で愛らしい顔に笑顔を作った。


(さすがはクラブね。お店の順位も高いんでしょうね。男の人だったらコロッと落ちちゃいそうだわ)



 ■



 何日かするとスピアは家へと帰ってきてパソコンを付けた。情報収集したことをまとめるためだ。イノテックはクラブ“ブリリアンス”の嬢をこちら側に引き込んだ。そしてニューテックにいるイノテックの手先の取締役はイザクと言う男で、スナック“イザヨイ”のママにご執心のようだった。こちらには父の会社の孫会社の社長を紹介することで協力してくれることになった。


 ニューテックは今年ディベロップメント市場からアベレージ市場へ移行をしたいようなのだ。おそらくイノテックのニューテック株の保有率を下げたいはずだ。


 これについてはスナック“イザヨイ”のママにそれとなく話してもらうと胸を張って「この話は俺がいなきゃダメなんだ」と張り切っている様子だと聞いた。


 今年度、イノテックは赤字プロジェクトが多い。家庭用魔道製品かまど部門が不調だからと言って、巻き返そうとしたが暴走したのだ。


 なんとか利益になりそうなプロジェクトを始動させるために、構想の甘い本業とはかけ離れたプロジェクトが乱立した。そのつけが赤字になって見えてくる。


 ニューテックの株を売らざるを得ないだろう。父にはその赤字の補填の方法を詰問してもらうように言ったから、その方法として、ニューテック株の売却利益にたどり着くだろう。


 年度末に近い1月の取締役会を受けて、夕食時に父は黒い笑顔を貼り付けていた。


「スピア、ニューテックは配当金比率を60%まで引き上げた」

「まぁ」


「その代わりアベレージ市場に上場の際にイノテックのニューテック株の保有率は51%から30%まで引き下げるようだ」


 それを聞いてスピアは父ににっこりと笑顔を向けた。

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