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22. スピアの前世

「さすがは私の愛娘だ。実に素晴らしい」

「ふふっ、お父様ったらわたくしは敵だと思った相手には、徹底的にやるだけですわ」



 時はスピアが大学に入学した時まで遡る――



 スピアはこの国で1番秀才が集まると有名な王都中央大学へ入学した。スピアは自分の人生に大学は必要ないかと思っていたが、父から「人生の経験則という意味では価値があるかもしれない。嫌になったらやめればいいから行ってみてはどうか?」と提案されたので、スピアは首を縦に振った。


 今日は入学式の後に新入生歓迎パーティーがあるようだった。スピアはそう言った集まりにあまり参加してこなかった。“グローリアホールディングス”、父が経営する会社はこの国で5本の指に入る大企業だ。その名前からスピアの本質を見ようとする同年代に会ったことがなかった。


「あの会社の社長の娘だからすごい」


 耳にタコが出来るほど聞いてきた。この集まりでそういった人間しかいないのならば行かなくてもいいかとも感じていた。


 スピアは長い茶色の髪をなびかせながら会場へ入る。席は決まっていないようなので適当に中央辺りの空いている席に座る。


 そこでスピアはあることを決めた。


 “グローリアホールディングス”の名前を出した相手は隣の席をお断りする。


 そしてもう7人も断り続けていた。


「あの、隣に座っても大丈夫ですか?」


 スピアに声をかけてきたのは少し茶色の髪質の細いふわふわとした短い髪にパッチリとした目の男の子だった。肌の色は白く優しそうな印象を受けた。


「周りに座るところがあまりなくて⋯⋯でも女の子のほうがいいのかな?」


 その男の子は首を傾げながら違うことを心配していた。それを聞いたスピアはにこりと笑顔を向けると着席を促した。


「大丈夫ですよ。座って下さい」


 ステージには上級生と思われる男の人がマイクを持って出てきた。


 それを見た新入生は口を閉じてステージに目を向けた。会場は静かになった。


「王都中央大学に本日入学された皆さん、入学おめでとうございます――まずはアイスブレイクから始めましょう」


 スピアはその男の子の方を見た。


「私はスピアよ。えぇとあなたは⋯⋯」

「オリバーです。はじめまして」


 オリバーはスピアの様子を探っている。スピアは自分から始めたほうが良さそうだと判断した。


「私から始めますね――」



 ――――――



 スピアの前世は大国の側室だった。グローリアと言う名前だったのだ。グローリアはそれなりに暮らせれば良いと思っていた。


 グローリアの国は貧しかったが、贅沢を好まないグローリアはその国が嫌いではなかった。だが、鉱山が見つかると資源が見つかり始めた。それを見た父親である王様は慌てて大国へと娘を送りつけたのだ。


 貧しい小国の王様の娘であるグローリアには何の選択権もなかった。


 そうしてグローリアは従者を誰もつけずに身一つのまま、大国へ向かった。向こうでは大国側の従者をつけられたが、グローリアは気にしていなかった。父親に体よく売り飛ばされた以上に悲しいことはない。


「そこで、王国側の執事なのに親身に私に尽くしてくれるレオンという男の人がいたの。私は彼に恋をしたわ」


 だが、後宮で暮らすうちに執事に恋をした。執事も熱を持った目で見てきたが、お互いかなわぬ恋だと分かっていた。


 グローリアがようやく執事に想いを告げて後宮から逃げ出そうと決意した頃、王様の子を身籠った。その日を境に男性であるレオンを執事から外されてしまった。グローリアは泣き崩れたが、ここで終わるわけにはいかない。


「こんな悲しいと思ったことはなかったわ。でもそれが私の役目であるなら泣いている場合ではないって決意したの。私の子どもを次の王様に絶対してみせるわって」


 グローリアはただの側室のままではいられないと立ち上がった。まずは後宮の勢力図を探り、有力者の趣味趣向、貴族との繫がりを出来るだけ調べ上げて後宮をのし上がり、王妃に気に入られた。王様にも気に入られようとあらゆる手を尽くした。それはスピアが貴族と王族に関係を築きあげた結果だった。


 息子が産まれるとグローリアは一層周りの人間を調べ上げ、誰かの手先の者でも優秀な人物はグローリア側に取り込んだ。グローリアは宝石やドレスなど体裁のための贅沢はしたが、それ以外の金額をすべて周りの人間などの調査、関係構築に使った。


 なんとしても息子を王様の座に据えるためだ。


 そして周りの人間も息子側の人間で固めるようにするのにグローリアは手段を問わなかった。


 そのままスピアの子が王の座につくとスピアは転生した。



 ――――――



 スピアは今まで誰にも前世の話をしたことがなかった。する必要もなかったし聞いてくれる相手もいなかったのだ。だから自分の中で盛り上がってしまいオリバーのことなど気にせずに胸の内をすべて話してしまった。


 気が付いた時には遅かった。スピアはすべてと話し終わった後、「しまった」と思ったのだ。そこで慌ててオリバーの方を見た。オリバーは自分の腕で顔を隠している。


 スピアは驚いで立ち上がった。


「ごめんなさい。いきなりこんな話聞かされても困るわよね⋯⋯」


 隠した腕の隙間からオリバーは顔を赤くしているのが分かった。オリバーは下を向いたまま腕をそっと下ろすと椅子から腰を浮かせて下に跪いた。顔を上げると涙の跡が頬に残っている。目からも涙が溢れそうだ。


「こんなところで会えるなんて⋯⋯グローリア様、私はずっとあなたをお慕いしておりました」


 スピアはオリバーを見て固まった。


 時を超えて、世界をも超えて運命の人に再開したのだ。スピアは唇を震わせながら声を振り絞る。


「あなたは本当にレオンなの?」


 その言葉にオリバーは立ち上がりスピアの目の前に立った。優しい眼差しをスピアに向けてゆっくりと頷く。それを見たスピアは感極まって両手を伸ばすと、オリバーに抱きついた。


「あぁ、レオン⋯⋯愛しているわ。あの時想いを告げられなくて、あなたと一緒になれなくてどんなに人生を悔やんだことか⋯⋯もう離さないわ」

「えぇ、ずっと一緒にいてください」


 2人は人目をはばからず熱いキスを交わした。


 それをきっかけにスピアどことかオリバーも大学で有名人になってしまったのだ。



 ■



 その日の夕食でスピアは上機嫌だった。目の前に座った父は首を傾げている。それを見たスピアはとびっきりの笑顔を返した。


「お父様、私は大学で前世からの運命の人と再会しましたの。その方と結婚しますわ」

「それは良かった。詳しく聞かせてくれるかい?」

「えぇ、その方は私と同じ歳でオリバーと言って――」


 スピアは大企業の娘として生まれた。その恵まれた環境を差し引いてもスピアには光るものがあった。スピアは生まれた時から前世の記憶は色濃く身体に残っていた。その地頭から父親は目を見張るものがあったようで、スピアはあらゆる学習の機会を与えられた。


 スピアは気になったことは何でも挑戦し、欲しい機会は得られるように父を説得した。


 大学生になった今ではインベストメント会社の契約社員をしている。会社からは専属契約を持ちかけられているが断り続けている。オリバーとの大学生活より大事なことはないとスピアは感じていた。


 オリバーは今の人生でも謙虚で純粋な優しい人だった。そこでスピアはオリバーの父であるワイズのことを調べてみることにした。


 オリバーを取り巻く懸念材料は出来るだけ取り除きたい。


 スピアの目は獲物を探す獣のように鋭くなり、パソコンの画面を見続けていた。

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