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02. ミッシェルとの出会い

 グレイブは次の日またハリソン医師に会うために病院へ行った。”死体提供承諾書”を渡すためだ。


 ハリソンは前世も前前世も長い間ずっとこの現象について研究をしているらしい。そしてこの現象で1番大きな点は”死ぬと転生しないので消えない”ことらしい。


 つまり、死んだ身体が残ると言うのだが、グレイブにはその意味がよく分からなかった。


 その現象が起こることはどんな病よりも稀なことのようで、「必要があれば君のこの人生の金銭面を援助したい」と申し出てくれた。


 グレイブは言葉を濁して診察室を後にした。診察室から出るとグレイブは受付をする人、ベンチで順番待ちをする人が目に入ってくる。


 病院の中には意外と人がいることに気が付いたグレイブは、その様子を見ながらよそ見をしていると足に何かが当たった。


 踏ん張ろうとするが、重心を支えていた足の方が引っかかりバランスを崩して倒れた。地面に手をつくと目の前には自転車のタイヤの様なものが見える。目線をもっと上げると女性が座っていた。


 車椅子だ。


「あら、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

「大丈夫です。自分がタイヤに足を引っかけたので。そちらは――」


 グレイブが足をずらすと何かに当たった。地面を見ると黒い手のひらサイズの伝板でんばんと呼ばれる通信機器が落ちていた。


「あっ伝板割れていないかな⋯⋯?」

「最新の衝撃緩和素材が使われているので大丈夫ですよ」


 グレイブはそれを聞きながら拾い上げると画面が光り、待ち受け画面がついてしまった。中央には目の前にいる彼女を少し若くした姿があり、今と同じような茶色の髪を1つの三つ編みにまとめており、丸い眼鏡をかけている。その後ろに彼女の両親らしき人物が映っている。


 グレイブは見てしまった気まずさに、彼女の様子を探る。グレイブと視線があった瞬間にそらされてしまい、何かを我慢しているように眉をひそめた。無意識だろうか、彼女は居心地が悪そうに手もみを始めた。


「ごめん、見る気はなかったんだ。⋯⋯その⋯⋯仲が良さそうだね」


 彼女は短くため息をつくと伝板を受けとるように手を伸ばす。


「仲は良かったです⋯⋯2人が転生するまではね⋯⋯」



 ■



 グレイブは外のベンチの横にミッシェルの車椅子を止めた。ここヘ来る途中に寄った自動販売機で買った飲み物をミッシェルに渡した。


 ミッシェルは昨日、転生ポイントの貯まった両親とお別れしたらしい。転生ポイントが貯まったことを嬉しそうに報告してくる両親をミッシェルは止める手立てがなかったそうだ。


 嬉しそうに報告されたのが結果なのだとミッシェルは説明する。ミッシェルは精一杯喜ぶフリをした。それが最後になることが分かっていたからだ。


 グレイブはミッシェルに申し訳ない気持ちになった。ミッシェルの話を聞くと、少しでも元気づけたくてある提案をした。


「アイスブレイクをしないか?」


 アイスブレイクとは通常初めて会う人同士が打ちと解け会うために、自己紹介をしたり、共通点を見つけようと話をしたりすることだ。


 この世界では、”自分の前世の話をして打ち解け合いましょう”ということだ。



 ■



 グレイブはミッシェルに、ぽつぽつと話し始めた。


 前世には魔王やモンスターがいる世界だった。

 自分は鍛冶屋の息子に生まれたので特に疑問には思わず、鍛冶屋になろうと思った。そして親父から鍛冶のいろはと聞いて修行を始めた。


 王都から遠い村に住んでいたが、村の周りには強固な結界が張られていたので村がモンスターに襲われる必要もなかった。


 それもそのはずだ。その村は魔王のいる世界に1番近かったのだ。自分がそのことを知ることになるのは20歳の時だった。


 親父から実力を認められて作り始めたのが”勇者のマスターソード”だった。

 それは鍛冶屋にとって永遠のテーマだった。親父も40本以上勇者の剣を作り続けたが、それが本物になることはなかった。


 自分が35歳になったころ、勇者が見たこともない素材を持ってきた。それが何かは分からないが、とにかく固い。いつもの倍以上の石炭を使い素材を溶かして叩くが思うような形にならない。


 そして半年間、叩き続けてようやく出来た剣が出来上がった。


 それを聞いたミッシェルは子どもが初めての童話を聞くように目を輝かせて、続きをせがんだ。


「それでどうなったの?」

「勇者は僕の作ったマスターソードで魔王を倒したよ」


 ミッシェルは息を飲んだ。


「すごいわ⋯⋯あなたは勇者の剣を作り上げたのね。お話のような人生だったのね」

「僕は剣になる素材を叩きつけていただけだよ。ミッシェルはどんな人生だったの?」


 それを聞いたミッシェルはふいっと顔を背けた。怒ったわけではなさそうだ。彼女は目を伏せがちにして遠くを見ている。


「私の話はあまり面白くないわよ?」と前置きをして話始めた。


 ミッシェルの世界では戦争が絶えないようだった。運が良いのか悪いのか巡ってきた転生先は王女だった。戦争と言っても王女の国よりもっと遠い国がやっていたのだ。


 だが、事態は一変する。


 王女が10歳の時に隣国が戦争に巻き込まれた。その頃から不穏な空気が流れ始めて王城の中に隠し部屋や脱出用の地下通路が密かに作られ始めた。王女が13歳の時に隣国から攻め込まれて、自国も戦争が始まり15歳の時に終わった。


「私は地下通路を残った1人の侍女に連れられて走っていたわ。⋯⋯でもその通路は光のある外に繋がっていなかったの」


 隣国よりもずっと遠くにある強大な帝国軍が地下通路の出入口にいたのだ。終戦の結果、国は無くなり亡国の王女として帝国の捕虜になった。


「私は王位継承権を27番目に持つ人と結婚させられたの。私が15歳で、その人は30歳」


 グレイブは口を開けたが、出てくるのは声ならない息だけがもれたのだった。


 それを見たミッシェルは目を見開いて慌てると「誤解しないで――」と話を続けた。


 その人は温厚な性格で、王女と初めて出会うと申し訳なさそうにしていた。帝国が国を滅ぼした上に、その国へ嫁ぐことがどんなに王女の心の痛みになっているか心配しているようだった。


 王女はその人と話してみて、これからの生活は悪くないかもと思ったのだ。


 その人は王女の嫌がることはせず王女の務めは何もない。隣にいてくれるだけでいいと言ってくれた。


「その生活も長くは続かなかったわ。その人は病だったから1年で終わってしまったの」


 その後は転生ポイントが貯まるまでその人の領地でひっそりと過ごしていたようだ。


 ようやく、2人は少し打ち解けたみたいにリラックスし始めた。

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