17. “ニアリーゼロ”シリーズ
次の日、ワイズはキョロキョロと周りを気にしながら会議室へと入る。会議室の鍵をしっかり閉めるとスグロの方へ振り返った。
スグロは冷ややかな目でワイズを見ている。
「スパイごっこか? 今度はなんだ?」
ワイズは息子とアイスブレイクした話をし始めると、スグロは声を上げて笑い始めた。
それがひとしきり終わると、息子の結婚相手の父親がグローリアホールディングスの社長であることを告げた。
スグロは目を見開いだがすぐに呆れたような顔になった。
「ワイズ⋯⋯そんなすごいことを俺に隠していたのか」
「俺も昨日初めて知ったんだ」
その後、スピアの父が味方になってくれることも言った。その時にワイズはすべてをスピアの父に話したことも付け加えた。
「プレミアム市場への上場準備は内密に行ったほうがいいと言われた。それから俺とジョセフさんとの関係はイノテックとの関係解消の後の方が良いとも言われた」
「そりゃあそうだろうな。お前がグローリアホールディングスとつながっていると分かったらイノテックは何がなんでもニューテックを離さないぞ」
だが、肝心のイノテックのニューテック株の保有率を下げる案は一向に見つからない。そちらの準備はひとまずプレミアム市場への上場に必要な作業とそれを頼む人選、スケジュールを決める予定をこれから決めることにした。
スグロはそれを話し終わるとワイズにしたり顔を向けた。
「その件はぼちぼちやっていこう。ひとまずは衝撃緩和素材だろう?」
それを聞くとワイズは口を大きく緩めた。その様子を見たスグロは噴き出した。
「本当に楽しみなんだな。先にクズ魔石を試検室に運び込んだら、番号を振るぞ。それで欠片を小瓶に詰めたら属性と効果を分析機関へ送る。お前は好きなだけ組み合わせの試検をしてくれ」
「ありがとう」
ワイズは深く頭を下げた。
それからしばらくはクズ魔石と効果減少魔石、効果反射魔石、効果持続魔石の組合せを何度も繰り返しては記録を取っていった。
そうしているうちに分析機関からの結果も戻ってくる。するとある傾向が見えてきた。
魔石同士の親和率、定着率が高いのはわずかに闇属性が含まれたクズ魔石だったのだ。
そうして試作品が出来上がった。トラック会社へと試作品を持って行くと、社長が待っていた。
ワイズは担当者が出てくると思っていたので驚いた。そして定着させたトラックで試検を行う。
衝撃緩和率は52%だった。
初回テストとしてはまずまずの数値だ。その後、スケジュールの打ち合わせを行った。トラック会社は他の条件でも衝撃緩和率を測ってくれると言った。
打ち合わせも10回目になると年が明けた。
この時、衝撃緩和率は70%近くまで上昇していた。ワイズはトラック会社の社長と話して80%まで上げての商品化を目指すことにしていたのだ。
その頃になると、衝撃緩和素材の資料をまとめ始めた。
ワイズは手に持った書類を大事そうに鞄へとしまうとスグロは頷いた。この書類を持って特許庁へと向かったのだった。
一度製品として登録してもらう。それ以降は改善という形で出すことにしたのだ。
そうは言っても、特許自体もいつ取れるか分からないからこの時点での出願になったのだ。
特許庁は首都の中心にあった。大きなビルの1階で受付を済ます。しばらく待った後、提出書類を確認してもらい出願となった。
■
ワイズはその後も衝撃緩和素材の改善を繰り返した。素材の入った箱をトラック会社の社長の目の前に置いた。
「最終的に衝撃緩和素材の衝撃緩和率は80%を達成しました」
「素晴らしい⋯⋯」
トラック会社の社長はそれを受け取った時に、ワイズに電話がかかってきた。慌てて電話に出る。
ワイズは後ろを向いて2〜3分話した。ワイズは時折何やら声を上げている。電話が終わるとトラック会社の社長の方へと向き直った。
「大変失礼いたしました。今、その素材の特許が取れたとの連絡が入りました」
「ほう、ワイズさんやりましたね。それでこれの名前は何というのですか?」
■
ワイズは素材産業新聞を見ている。
その素材産業新聞の1面の右下に小さく写真入りで記事が載った。見出しはこうだ。
【ニューテック、衝撃緩和素材”ニアリーゼロ”販売開始】
内容は特許取得とトラック会社との協力開発の末、商品化されたことが書かれている。またニューテックが独自に行った衝撃緩和テストにて、衝撃緩和率が80%であることも書かれている。
ワイズはそのトラックの発売日に運送会社へ納入するということなので、同席させてもらうことにした。
ワイズがトラック会社へと行くとトラック会社の社長も待っていた。するとなんとそのトラックの受け入れ先である運送会社の社長もやってきたのだ。
誰かが呼んだのか記者も来たのでワイズと2人の社長、それからトラックを背景に撮られた写真は新聞に掲載されたのだ。
ワイズはニューテックに帰ってくるとスグロがデクスへやってきた。
デクスの上にコンと乾いた金属音を立てながら、ブラック無糖コーヒーの缶を置いた。
「お疲れさん」
「ありがとう⋯⋯俺はもうカフェラテ派なんだ」
甘い口当たりとミルクのなめからなのどごしで苦いコーヒーを包んでいるのが気に入っているのだ。
「もう苦いのはいらないのか」
「苦いのを包んだ甘いのがいいんだ」
ワイズは笑いながら言った。するとスグロはデスクに置いた缶を掴んだ。
「俺にはもう少しこいつがいるな」
スグロは真剣な目をワイズに向けた。ワイズは2人の目標であるニューテックのイノテックから解放する目的のことを言っているように感じた。
そしてワイズも真剣な目をスグロへ向けた。




