16. クズ魔石
ワイズとスグロはビーカーに顔を近づけている。
「この魔石の親和率はすごいな」
「この定着率なら」
2人の息が揃う
「「効果持続魔石を追加する」」
2人はお互いを見る。
混ぜた魔石の親和率が高いと素材が安定する。そうすると効果を高めたり、追加することも可能になる。
スグロは腕を組みながら言葉をこぼした。
「それにしても“クズ魔石”とは思いつかなかった。この国にほとんど入ってこないじゃないか。どうやって見つけたんだ?」
「俺もまさか“クズ魔石”だとは思わなかった。この国にとっては価値のないものだからな。実はオリバーが友だちから発展途上国へ行ったお土産にもらったんだ」
それを聞いてスグロは高らかに笑った。
「それは優秀な息子だな。これで定着剤を見つけたのは2回目だぞ。早くこの会社に入ってほしいものだ」
「それはオリバーが決めることだ。イノテック以外ならどこだっていい」
スグロは口をすぼめたがそれ以上は言わなかった。その後、クズ魔石について話始めた。
まず、このクズ魔石の属性と効果を調べてもらう。それと同時にありったけのクズ魔石をなるべく早く仕入れなければならない。そこのやり取りはスグロが上手い。
だが、どんなに早くても1ヶ月はかかるようだ。ワイズは待ちきれなかった。
そんな様子に息子はすぐに気がついたのだった。
「最近どうしたの? クズ魔石が定着剤だって騒いでたじゃん」
「それが遠い国だからクズ魔石が来るのが1ヶ月後なんだ。そういえばスグロが驚いていたよ。オリバーは優秀だって。俺はずっとすごいと思っているがな」
ワイズは自然と胸を張った。それを聞いてオリバーは少し笑うと下を向いた。
「父さんは毎日楽しそうだね。俺はそんなに優秀じゃないよ。でも父さんのように仕事をしてみたい」
息子は真っ直ぐな目を向けてきた。ワイズは息子を見ているしか出来なかった。
数日後、ワイズが家に帰ると大きな段ボールが5箱も置いてあった。リビングのら半分を占拠しそうな大きさだった。帰ってきた音を聞きつけて息子がリビングに顔を出した。
「あっ父さん、おかえり」
ワイズはそれを見て悲しそうに言った。
「オリバー⋯⋯もしかして引っ越しでもするのか?」
それを聞いて息子は噴き出した。
「ははっ違うよ。とにかく開けてみて。たぶん誕生日とクリスマスが一緒に来たよ」
息子が笑ってそう言うので、ワイズはそっと手前にある箱を開けてみた。
クズ魔石が箱一杯に入っていた。
ワイズは慌てて他の箱も開ける。全ての箱にクズ魔石がたくさん入っていた。
それを見た後、息子を見つめる。
「お前⋯⋯これを見てどうやったら優秀じゃないなんて言えるんだ。誕生日とクリスマスが一緒に来たぞ!」
ワイズは息子を強く抱きしめる。
「くるし⋯⋯知り合いに持っている人がいて分けてもらったんだ」
「後でお礼をしたいから詳しく教えてくれ」
「それなら交換条件。その人を教えるから、俺が大学を卒業したら、父さんの会社に入れて」
それを聞いたワイズは勢いよく息子を胸から引き剥がした。
「いやっオリバー、お前は自分の好きな道を進みなさい。父さんに気を使わなくていいんだぞ」
「父さん、これが俺の進みたい道だ。分かっていないのはどっちだよ」
ワイズは息子を見た後、下を向いた。すると息子はワイズを優しく抱きしめた。
「父さん、今日は夜ふかししすぎないようにね」
「ふはっ、お前は俺を分かりすぎているな」
夜はゆっくりと更けていった。
■
目の前にクズ魔石を分けてもらったという知り合いが座っている。ワイズの横には息子が座っている。ワイズはしきりに肩をすくめている。
ホテルの最上階の個室で1番高級なコース料理が運ばれてくる。
ワイズはこんなことを予想していなかった。ワイズは立ち上がると、懐から名刺を取り出した。
「まさかクズ魔石を手配頂いたのが、グローリアホールディングスの社長でしたなんて⋯⋯私はニューマテリアルテック株式会社の代表取締役社長のワイズ・マックリンと申します。息子の結婚相手があなたのお嬢様と言うことを今朝聞かされまして、大変恐縮でございます⋯⋯」
ワイズは緊張のあまり上手く話せなかった。
「そう固くならないで下さい。私はジョセフ・アンダーソンです。娘のスピアからあなたとオリバーくんの話はよく聞いています。素敵な人だと聞いていますよ。さぁ、座って下さい」
スピアの父は名刺を滑らかな動きで渡すと着席を促した。息子の結婚相手としてこの前スピアとは会っていた。品があり頭の回る可愛らしいお嬢さんだと思っていたが、この国で5本の指に入る大企業のグローリアホールディングスの社長の娘だとは聞いてなかった。
(一体オリバーはどれだけ凄いんだ⋯⋯そりゃあ俺から見ても最高の息子だが⋯⋯これは驚いたものだ)
ワイズはスピアの父とクズ魔石や素材、経済の話などたくさんのことを聞いてみたかった。だが、息子とスピアにとってはつまらないものだろう。
ワイズはちらりと息子を見ると息子と目が合う。それを見たスピアが柔らかに笑った。
「本日は私の父がオリバーのお父様とたくさんお話ししたいとおっしゃってましたの。私とオリバーは食事が終わりましたら、予定がありますので、ぜひ好きなだけお話して下さい」
それを聞いたスピアの父は深く頷いた。
ワイズはせきを切ったようにクズ魔石の可能性について話始めた。スピアの父は興味深い目をワイズに向けて時折頷いている。
それを横目に息子はスピアと何か話しているようだった。2人は微笑み合っている。
ワイズとスピアの父は話が大いに盛り上がっている。まだ熱も冷めないところでデザートまで出てしまった。ほどなくして息子とスピアはお辞儀をしながら退出した。
2人を見送るとスピアの父は手に顎を乗せた。
「さてワイズさん、私はあなたに伝えないといけないことがあります。私はイノテックの社外取締役をしています。しかし、あと数年で辞めます。私はスピアの父として聞きます。ニューテックの展望を聞かせてくれませんか? イノテックに聞かせたくないことだと嬉しいのですが」
「これから家族となる方です。すべてをお話します――」
ワイズはイノテックに入社したときから妻のケイトが交通事故にあったこと、ニューテックの今までについて話した。
「私はニューテックをイノテックから解放したいのです。イノテックが持っているニューテックの株を売ってもらい関係を解消したい⋯⋯イノテックにはお釣りが来るほど配当金も支払っていると思っています⋯⋯」
「ワイズさん、それは大変でしたね」
ワイズはスピアの父を見ると先ほどまでの温厚な人から獲物を狙う狼のような鋭い目に変わったような気がした。
「私はあなたとニューテックの味方になりたい。ただ、内外的に知らしめるのは今ではありません。ニューテックが解放されたあとです。それからプレミアム市場への上場準備は内密に進めたほうが良いかもしれませんね。助けが必要なときは絶対に相談して下さい」
「ありがとうございます⋯⋯必ず⋯⋯」
それを聞いたスピアの父は鋭い目から優しい目に変わると笑顔を向けた。
■
その日、ワイズはリビングで仕事をしながら息子の帰りを待っていた。夕飯までに帰ってくると言っていたのだ。ワイズはこの日初めて息子に用意をしたものがあった。
「ただいま」
玄関で息子の声がする。ワイズはドアの方を見ていた。息子が入ってくる。息子はワイズを見ると笑顔になった。
ワイズも笑いかける。
「おかえり」
ワイズは首の後ろに手を回している。それを見て息子はこう返した。
「スピアのお父さんのこと黙っててごめんね」
「いや、びっくりしたがそれはいいんだ⋯⋯」
息子は目を大きくさせてワイズを見ながら
椅子に座った。ワイズはそれを見ると恐る恐るお猪口を渡す。
「オリバーは飲めるか?」
息子はお猪口を受け取った。
「あぁ、父さんの酒ならなんだって飲めるよ」
ワイズは緊張しながら息子のお猪口にお酒を注いだ。息子はお酒の瓶を受け取りながらワイズのお猪口にお酒を注いだ。
息子はお猪口を持って上へと上げた。ワイズの顔は固い。
「なぁ⋯⋯アイスブレイクしないか?」
息子はそれを聞くと大声で笑い始めた。そして勢いよくワイズのお猪口に自分のお猪口を当てた。
「ふふっアイスブレイクね。俺は――」
息子は輝くような笑みをワイズに向けた。
(いつからだろう、オリバーが“僕”から“俺”と言い始めたのは⋯⋯自分の知らないところですっかり大人になっていたんだな⋯⋯)
今日は心に残る1日となって夜の心地よい時間は過ぎていった。




