12. 黒字化の先に出てきた蛇(後編)
ワイズとスグロだけは心の中で焦っていた。ワイズは衝撃緩和素材の定着剤を探すこと、スグロは新規販路の獲得と販路拡大に奔走した。
ワイズは定着剤となる魔石または素材の候補を知るとアップして可能性が高いと予想した順に試作を試し始めた。
混ぜ合わせる比率は4通りまで絞り1つずつ行った。
それでもすべての可能性を考えれば氷山の一角でしかなかった。
最近、ブラック無糖コーヒーが身体に沁みる。やる気のないとき、疲れたときにブラック無糖コーヒーを口に流し込む。鼻に入り込んでくる焦げたような深い匂いを感じたすぐ後に苦いコーヒーは頭も舌も喉も刺激していく。
喝を入れてくれているのか、すべてを苦味で流してくれようとしているのか、その感覚がクセになっていた。
試作の進捗は良くない。その傍らで作った光属性を混ぜた液体木材が建築と家具製造メーカーの目に留まり、売れ行きを伸ばした。
その甲斐があり、事業計画よりも利益を上げることが出来た。初年度の融資の返済計画通りに支払いを行うことが出来たのだ。
ワイズの定着剤探しは一向に見つかる気配がない。
会社設立から5年目に入りもう半ばが過ぎた頃、息子がおつかいに行ってくれたのだ。ワイズは褒め称えたが、息子はむすっとした顔をしていた。
「食器用洗剤をちゃんと買ってこれたんだ。偉いじゃないか」
「だっていつも使っているのは“グレープフルーツの香り”でしょ? 僕が買ってきたのは“フレッシュミントの香り”だよ。それに”手肌に優しい”じゃなくて”洗浄力アップ”だし⋯⋯」
(オリバーは細かいことをちゃんと気にすることが出来るんだな。それに責任感が強いなぁ。それにしても洗剤の違いは匂いだけじゃなかったのか)
ワイズは自分の息子に感心していたのだが、納得しない息子に「間違えて買ってきたのは会社で使うからまた今度おつかいに行ってもらう」ことでなんとか話がついた。
仕方がないので、その洗剤を会社に持って行くことにした。給湯室に入ると使いかけの洗剤があった。棚にしまっておこうか迷った。
使いかけの洗剤はまだ半分ほど残ったままだったのだ。その洗剤を見つめながらワイズはある考えが膨らむ。
(そういえば魔石と洗剤を混ぜると泡が立つのだろうか? 素材強化魔石と洗剤を混ぜたら洗浄力がアップするのだろうか?)
ただの興味本位だった。
ワイズは使いかけの洗剤を片手に試験室の作業机に置いた。机の上には効果減少魔石と効果反射魔石も置いてある。
ほんの気まぐれだった。
作業用手袋をはめて、その2つの魔石の粉を試験用ビーカーに入れた。その後に食器用洗剤を手に取り入れてみる。ガラス棒でくるくると回してみた。
「これで光ったりしたら面白いのにな」
ワイズは笑いながらガラス棒を回している。
するとどうだろう、ほのかな光が取り始めた。ワイズはガラス棒から手を離すと右手の手袋を取りビーカーに直接触る。
温かい。
2つの魔石が洗剤と反応して混ざり合っている証拠だった。
ワイズはビーカーを持ち上げてガラス越しに中を覗き込んだ。
光と熱の反応が終わるまで眺めていた。それが終わるとビーカーを置いた。
今度はワイズの身体の中が喜びで反応する。腹の底からふわふわとした、くすぐったいような温かいような感覚がしている。それと同時に心臓の鼓動が速くなった。
ワイズは下を向きながら目を見開くと両手を天井へと高く上げた。
「やったぞ!!」
ワイズは試験室の扉を開けると大声でスグロを呼んだ。
すぐに血相を変えたスグロが走ってきた。スグロの顔は青ざめている。ワイズはスグロを見ると強引に二の腕を掴んで試験室へと連れて行った。
そしてビーカーを見せる。スグロはビーカーを見た後、ワイズの顔を探った。
「洗剤だよ! 定着剤は洗剤だったんだ!!」
それを聞いたスグロは目を見開いた。スグロは両手を上に上げた後、力強くワイズを抱擁した。
「ワイズ、やったな!」
「スグロ、俺はやったぞ!」
2人は腕をお互いの身体から離すとお互いの拳を合わせて喜んだ。




