父だけは気づいていた
わたしを現実の世界に連れてきてくれた紗那。
家族は紗那のすごさをあまり知らなかったが、お父さんは紗那のことを見抜いていたようだった。
「あの子は、ひょうきんでとても運の強い娘だ。」
お父さんがそう言ったことがあり、
その言葉を聞いたとき、確かにそうだと感じた。
——そう。紗那は、私の人生と比べてると、とても幸せな人生を歩んでいる、運の強い子だ。
紗那は結婚して2人の子宝に恵まれている。
平凡な幸せを手に入れている。
一方で私は妄想暴走症を患っていて、40代の今も実家暮らし。
だからと言って、私は紗那に嫉妬したことはない。自慢じゃないけど、羨ましいと思ったこともない。私は私だから。
***
私は、おとぎ話の世界にいた存在。
紗那が私を見つけてくれたことで、私は現実世界と繋がることができた。
でも、それは逆も同じだった。
紗那は、おとぎ話の世界と現実世界をつなぐ使命を持っていた。
だからこそ、彼女は私のような存在を見つけることができた。
彼女は誰よりも純粋で、誰よりも心が綺麗だった。
けれど、現実世界の人たちは、そのすごさに気づいていなかった。
それどころか、彼女は人間関係で悩み、苦しんでいた。
私は彼女を苦しめたママ友や職場の人が恨めしい。
だから苦言を呈したこともあったけど、紗那はその人達が嫌いというわけではなかった。
紗那は、特別なことをしなくても、そこにいるだけで運命を切り開いて行ける。
今回も鏡の世界という本を通じて、自分の力で悩みを解決していた。
彼女の強さや存在そのものが、奇跡だった。
でも、お母さんは、それに気づいていなかった。
「紗那は、昔からお母さんに似てると言われててね、器量は悪いけど、要領はいいの。でも、あんたには1回も似てると言われたことはないよ。」
そんな言葉を、何度か聞いたことがある。
私も母に似ていると言われたかった。
母と紗那の関係性が羨ましかった。
お母さん、私も彼女も、本当におとぎの世界と現実の世界の狭間に立っている子なの。
だから——
私はこの家族が好きになれそうだから、現実世界へ行きたいと思うようになったんだよ。
***
紗那のすごさを伝えるために。
お母さんに、彼女がどれほど特別なのかを知らせるために。
紗那のことを「すごい」とほめることは、
私自身の存在を肯定することにもつながる。
なぜなら、私と紗那は記憶からなくなることのない「ともだち」だから。
紗那が現実とおとぎ話の世界をつなぐ存在であるなら、
私は、おとぎ話の世界から現実世界へ行く者として、その証明をしたいと思っている。
私は、紗那がすごいことを伝えるために、
現実世界で生きる意味を見つけなければならなかった。
***
お母さんは、まだ紗那の本当の姿を知らない。
でも、私が現実世界へ行けば、きっと伝えることができる。
紗那のすごさを、誰よりも証明できるのは、
私しかいないのだから。
でも、紗那の家族はみんな伝説になれるような家族。
木こりのような純粋な心を持っていて、お父さんだけが、ずば抜けてできていたことがある。
それは、家族の中で、お父さんだけが紗那の「特別さ」を知っていた。
それが、ずっと不思議だった。
なぜお父さんだけが、紗那のすごさを見抜いていたのか?
どうして、お母さんや弟は、彼女の本当の姿に気づけなかったのか?
お父さんは、ただ「鋭い観察力」を持っていただけなのか?
それとも——
お父さん自身も、現実世界の枠にとらわれない存在だったのではないか?
***
私は、お父さんが紗那について語った言葉を思い出す。
「紗那は、すごいよ。あの子は、自分で自分の人生を切り開いて幸せを手にしてる。」
私は、それがずっと気になっていた。
お父さんだけが、紗那の本質を理解していた理由——
それを考えてみると、いくつかの可能性が浮かび上がった。




