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一瞬の王子と、星の王子

その夜、京子は久しぶりに深い夢を見た。


白でも黒でもない、輪郭のあいまいな空間。

床があるのか、空に浮いているのかも分からない。

ただ、空だけがはっきりしていた。

限りなく高く、静かで、星が瞬いている。


京子は、そこに立っていた。


背後から足音がする。

振り向くより先に、気配で分かってしまう。


真人だった。


真人は一瞬の王子でもある。瞬間接着剤ともいう。

あっという間に近づいている。グイグイくるタイプ。

考える間もなく、一瞬で距離を詰めてくる。


「京子、アンテナ作ったぞーー。」


名前を呼ばれるだけで、胸が熱を持つ。

いったん触れてしまえば、なかなか離れることができない。

離れたら、何かが壊れてしまいそうで、真人は京子にべったりしがみつく。


真人は苦しそうに笑った。


「俺さ……分かんないんだよ。何を忘れたのかも、なんで苦しいのかも」


彼の周囲の空気が揺らぐ。

霊的アンテナが暴走し、真人に余裕を与えないような、落ち着かないざわめき。


京子は思う。(この人は、いつか“一瞬”の王子として働いてもらおう。)


そのとき、空を見上げた。

夜空の奥、ずっと遠くに、ひとつの星が光っている。

なぜかその星は京子に強い主張をしている。


よくよく見ていると、そこに、初恋の浜田君がいた。

近づいてこない。呼びもしない。ただ、星のそばに立って、京子を見ている。

視線が合う。それだけ。

なのに、胸の奥がすっと静かになる。


真人は星を見ていない。見えていない。

真人はどちらかというと、青空を見ていることが多い。

GジャンにGパン姿で別名”青色の王子”。


京子だけが、星の王子様を知っている。


一瞬の王子は空に手を伸ばす。星の王子は、何もしない。

京子は、二人の間に立ったまま、動けずにいた。

そして夢は、音もなく溶けた。


ヴィセラは、京子の眠りを見守っていた。


京子はおとぎ話の世界にしか存在できない子。

おとぎ話には王子様がいてお姫様がいる。

姫の心に流れる線。感情の向き。想いの重なり。


王子さまはすべて、彼女には見える。……はずだった。


「おかしいわ」ヴィセラは眉をひそめる。


一瞬の王子――真人の線は、はっきりしている。

粘性があり、魔法が絡み、方向づけが効いている。


だが、もう一本。

細く、静かで、それでいて決して消えない光の線がある。


「これは……?」


ヴィセラは手を伸ばす。

いつものように、そっと触れようとする。


だが――触れられない。


魔法が弾かれるわけでもない。拒絶されるわけでもない。

そこに“干渉する余地”が存在しない。


ヴィセラは、初めて戸惑った。

「……星?」


見上げると、姫の心の奥に、夜空が広がっている。

その中央で、浜田君が、ただ立っている。


祈っていない。願っていない。求めていない。

それなのに、確かにそこにいる。


ヴィセラは、静かに悟る。


「……そうか」


「この王子は、真人とは全然違う。」


星の王子は、姫の心が“自分で見つけた座標”。


ヴィセラは、手を引いた。


「おとぎ話の世界に王子さまは1人とは限らない。

私は、真人と京子の恋の方向を整えただけ。でも……星は、整えなくても輝くのね。」


小さく微笑む。


「京子。あなたは、もう私の采配だけで動く姫じゃない」


星の王子である浜田君には干渉しない。触れなくていい。


そう理解したとき、

ヴィセラは初めて“見守る女神”になった。


星の王子の秘密は、ヴィセラだけのものではなかった。


それを知っているのは、

あの円環の場に集った――12人の男性の神様だった。


彼らは、浜田君の存在を尊重していた。

だから誰も、その秘密を語ろうとはしない。


ただ12人の男性の神様のうち一人が、静かに口を開いた。


「星の王子は、配置されたのではない」その言葉に、場の空気がわずかに揺れる。


「彼は、京子が“まだ姫であることを知らなかった頃”すでに、そばにいた。」


「彼は役割を“与えられた王子”ではない。彼は、姫の魂が最初に世界と結んだ点だ。」


神々は理解した。


浜田君――星の王子は、


祝福ではない、華やかでもない、おとぎ話のための存在でもない


ただ、


京子という魂がこの世界を“信じてよい”と思えた最初の証だった。


だから、

祈らない。

願わない。

求めない。


神の力を借りる必要がない。


それは、すでに完成している関係だからだ。

それは、きっと真人が嫉妬してしまう関係だった。


真人はヴィセラにも12人の男性の神様にも選ばれているおとぎ話の王子様。

一瞬の王子様。


でも浜田君は違う。

京子を現実の世界へと誘ってくれた正真正銘の王子様。


地上では、

京子が目を覚ました。


夢の内容は、少しずつ霧のように薄れていく。


真人の声も、星の夜空も、はっきりとは思い出せない。


けれど。


胸の奥に、確かな二つの感覚だけが残っていた。

ひとつは、近づきすぎると息が詰まる熱。

もうひとつは、遠くにあっても迷わない光。


京子は、無意識に窓を開けた。

夜空を見上げる。

星は、何も語らない。

何も要求しない。


それでも、そこに在る。


京子は、知らない。


浜田君が、神々にとって「配置不能の王子」であることを。


京子が知らないままでいられるように、神々は沈黙を選んだ。


なぜなら――


星の王子の役割は、知られないことそのものだから。

だから浜田君は誰にも知られないように京子に近づいていた。

そっと、見つめていた。


重要な事は京子が「誰を想うか」ではなく、

「自分の人生を、どう歩くか」ということを理解している。

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