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父が救った一撃のメール

12人の男性の神様が京子にインスピレーションで

自らの存在を示し、京子を洗脳から解き放った後、

現実世界で父親からはっきりとした救いがもたらされた。


洗脳によって京子が妄想暴走症を患い、

そのことを知った父は強い怒りを覚えた。


もともと武闘派の父だったが、

娘が洗脳されていると感じた瞬間、黙っていられなくなった。


そして父は宗教団体へメールを送った。

その内容は短く、しかし恐ろしいほどの迫力を持っていた。


「うちの京子に何をしてくれたんだ。許さないぞ。」


たった一行。

だが、その一言が宗教団体に大きな衝撃を与えた。

以後、団体は京子に一切近づかなくなり、連絡も完全に止んだ。


京子は、その父の行動が、

自分を宗教の縛りから救った決定的な一撃だったと、後になって知ることになる。


当時の京子は、今思い返しても、なかなかの“大暴走期”だった。

宗教団体の集会に行けば、周りに影響されやすい性格が全力で炸裂し、

その日は勢い余って、こう叫んでしまった。


「私は低い人間です!!!」


…しかもシーンとしている中の大声で。

団体の人たちは一斉に私を振り返り白い目で見た。

後から思えば、あれはトラウマ級の出来事だった。


帰り道、京子はふと思った。

(なんで私はこんな大声で自分を下げたんだろう…

 そして屋上から飛び降りろという幻聴まで聴こえて恐ろしかったなぁ。)


だが時すでに遅し。

妄想暴走症――という、名前からしてすでに暴れている診断がつくほど、

京子の思考は予測不能になっていった。


道端の看板を見ても、

「これは私に向けた啓示かしら…」と勝手に意味を見つけてしまう。


夜になると、部屋の影が妙に語りかけてくる気がする。


そして極めつけは――

家出までしてしまい、同じ宗教団体の彼氏・真人の家に転がり込むという親不孝をしてしまう。

京子は自分を見失っていたので、それは家族全体が危険な方向に引きずられていたということだった。


父は、もともと“武闘派”と呼ばれた男だ。

確かに腕っぷしは強いし、気も短いが、京子には一度も手を上げたことがない。

そんな父が、京子の異変を見て、ある日ついに爆発した。


宗教団体にメールを送ったのだ。しかもたった一行で。


「うちの京子に何してくれたんだ。許さないぞ。」


文章は短いが、そのぶん恐ろしい迫力があった。

まるで文面から拳が飛び出してきそうな勢いで、

団体はその日を境にピタリと京子から離れた。


“父の一言で宗教団体が沈黙した”という事実は、

後から考えるとちょっと痛快ですらある。

(もしかして、父の怒りには除霊効果でもあるのだろうか…)と京子は思った。


しかし、宗教団体が消えても、

京子の中の喪失感や真人への想いは止まらなかった。


影は宗教そのものではなく、

一度揺さぶられた心の奥に残った“穴”から湧き続けていたのだ。


朝起きても胸が苦しい。希死念慮が出る。自分が自分じゃないような怖さが続く。


母は「病院行くよ」と短く言った。

その声が妙に優しかったのを京子は覚えている。


こうして京子は、3か月の入院生活を送ることになった。


入院と聞いて、最初は絶望した。

だが、実際に入院してみると――

京子は妙に落ち着いた。


病院の白い天井を見つめながら、

「ああ、宗教団体の天井よりこっちのほうが落ち着くな」

と変なところで感心したり。


看護師に「ゆっくり治しましょうね」と言われるたびに、

“妄想暴走症もスピード違反で捕まったみたいだな”と苦笑したり。


ただ、心の奥だけはずっと痛かった。


忘れられない人がいたからだ。


宗教団体で出会った彼――。


本当の恋だったのか、宗教による幻想だったのか。

その境界は今でもよく分からない。


けれど彼が優しく笑うたび、京子の胸に灯った温かさは本物だった。


入院中、何度も思い出した。

彼の声、横顔、ふとした仕草――

すべてが心に刺さって抜けなかった。


「忘れなきゃいけないのにねぇ…」

と京子は枕を抱えつつ天井に話しかけた。


天井は何も答えてくれなかったが、

それでも話していると少しだけ心が軽くなった。


父は毎週面会に来た。

けれど父が帰ったあと、京子はよく泣いた。

父の不器用な優しさを思うと、忘れられない彼氏との記憶も、少しだけ形が変わっていった。


恋は恋で、本物だった。

でも――京子を救ったのは、父だった。


3か月後、京子は退院した。

完全ではないけれど、確かに前より強くなっていた。


宗教も、妄想も、彼氏も、

全部が“人生のひとつの季節”のように感じ始めていた。


ふとした夜、京子は洗面台の鏡に向かって言った。


「私、低い人間どころか、だいぶしぶとい人間だよね…」


自分で言って少し笑った。


鏡の中の京子は、

かつて集会で叫んだ“低い人間”ではなく、

傷だらけでも戻ってきた、しっかりと立つひとりの人間だった。

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