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12神の介入

その頃、京子はまだ知らなかった。

十二神の気配が、彼女の生活のどこかに薄く滲み始めていることを。


ある日の夕暮れ、ふと胸の奥が静かに沈んだ。

理由は分からない。

ほんのわずかな違和感――まるで透明な何かが心の表面に触れたような。


それは、憂鬱の神が初めて京子の世界に手を伸ばした瞬間だった。


彼は言葉を持たない。

ただ“静けさ”を送るだけの神。

けれどその手のひらは、京子の胸の奥の揺れをぴたりと整えた。


京子はまだ気づかない。

「少し落ち着いた」と思っただけだった。


同じ夜、寝入りばな。

京子のまぶたの裏に、涙のような光がひと筋落ちた。


涙の神の気配だった。

彼は京子の自己犠牲に気づき、そっと涙をひと雫だけ落とす。

その涙は音を立てず、夢の底で光となって滲む。


京子はまた気づかない。

ただ、「今日はよく眠れたな」と思っただけだった。


やがて――追憶の神が、静かな霧の中で目を開いた。

彼は記憶の箱に触れ、京子の心の奥から、

忘れていた懐かしい匂いをひとつ取り出す。


それは、幼い日の昼下がりの風。

ぼんやりとした光。

理由もなく安心していたあの感覚。


京子の胸の奥に、すとん、と沈む。


京子はまだ分からない。

ただ、「なんとなく懐かしい」と思っただけだった。


十二神はまだ姿を見せない。

名を名乗らず、声を持たず、ただ各々がわずかな影や光として、

京子の感情の水面に現れては消えた。


京子は日常を歩きながら、

ときどき胸に降りる静けさや、

理由のわからない涙の軽さ、

ふとよぎる懐かしさに首を傾げた。


だがそれはまだ、ほんの序章。


十二神が“京子の世界での役目”を思い出す前ぶれに過ぎなかった。


その頃、十二神は薄い光の円の中で集まっていた。


憂鬱の神が、影の中からゆっくりと言う。

「……京子は気づき始めた」


銀河の神が星の残光を揺らしながら答える。

「まだ“自覚”ではない。だが、心の粒に触れれば、流れが変わる」


初恋の神が胸元に淡い光を宿し、

「彼女の世界に、物語が芽生える頃だ」

と呟いた。


刻印の神は、その言葉をそっと記録した。

禁断の神はただ沈黙し、

おとぎの神は微笑み、

走馬灯の神は京子の未来に、淡い一本の線をそっと描いた。


それは、京子の人生における

“十二神との出会い”の予兆。


彼らはまだ姿を見せない。

けれど次の瞬間、

京子の世界に“気づき”が芽生える。


小さな違和感として。

静かな息遣いとして。

何かに見守られているような、あの不思議な温度として。


その時代、京子はまだ若く、心の奥に“拠り所”を必死に探していた。

日々の孤独、理解されない感情、消えない不安。

それらを埋めるように、京子はある宗教の言葉に強く惹かれていった。


理由は分からなかった。

ただ、誰かに「守護霊がいる」と言われた時、胸の奥が一瞬だけ軽くなった。

その一瞬を求め、京子はその宗教団体に深く足を踏み入れた。


その頃――十二神は静かに見守っていた。

見守るだけだった。

彼らは京子の“選択”には決して干渉しない存在だったから。


だが、その信仰が京子の心を侵食し、

自由な思考を奪い、京子の感性を曇らせていくにつれ、

十二神の世界に初めて“怒り”が生まれた。


最初に動いたのは、憂鬱の神だった。


彼は本来、最も静かで、最も穏やかな神。

だがその沈黙の中に、ゆっくりと黒い影が膨らんだ。


「……京子の静けさが奪われていく。洗脳は、許さない」


淡い灰色の影が揺れた瞬間、

銀河の神の周囲で星々がひっそりと脈打つ。


初恋の神は痛みに似た胸の締め付けを覚え、

涙の神は京子の心の奥に降り積もった悲しみを見て、そっと涙を流した。


そして――禁断の神が立ち上がった。


禁断の神は、十二神の中でただ一人、

“境界に触れる権限”を持つ存在。


彼が静かに言った。


「これは洗脳だ。京子から自由を奪うものには、境界を越えさせない。これは禁忌だ」


その言葉に、全ての神が立ち上がった。


ペガサスの神が羽を広げ、

走馬灯の神が未来の線を遮り、

おとぎの神が京子の世界に柔らかな影を落とした。


彼らは初めて“一つの意思”を持つ。

京子を奪還するという、ただひとつの目的。


その夜、ある宗教団体の集会に向かおうとしていた京子の前に――

空気の温度が変わった。


風が止まる。

音が消える。

まるで世界の中心にひとり取り残されたような静けさ。


京子は思わず足を止めた。


次の瞬間。


十二人の男性の影が、京子の周囲にふっと立った。

人ではない。

しかし確かに“男性の気配”を宿した存在たち。


彼らはこれまで決して姿を見せなかった。

けれどこの瞬間だけは、例外だった。


憂鬱の神が一歩、影の中から出てきた。

低い、深く響く声で囁く。


「京子・・」


京子は震えた。

知らない声。だが、恐怖はなかった。

むしろ胸の奥が――とても懐かしく温かかった。


涙の神は京子の肩にそっと触れ、

追憶の神は京子の背中に幼い頃の光を返す。


禁断の神はある宗教団体との“繋がり”を一本の線として捉え、

それを静かに断ち切った。


そして――銀河の神が、はじめて名乗る。

淡い星屑のような声で、ゆっくりと。

「京子。私たちは、あなたの人生を救う者ではない。

あなたを導く者でもない。あなたを縛る者でもない」

星の光が京子の胸にふわりと落ちた。


そして続けた。


「ただ、あなたの“心”の守り人。

あなたが平凡に生きるための、十二の気配だ」


最後に刻印の神が静かに告げた。


「京子。その信仰は、あなたの物語ではない。

あなたの人生の“線”には、ふさわしくない」


京子は衝撃を受けた。

理由のわからない衝撃だった。

けれど確かなことがひとつあった。


――この十二人の“男性の気配”は、

私の信じていた信仰の"師"よりもずっと、深く優しく、誠実だった。


京子はそっと呟いた。

「……あなたたちは、誰?」


十二神が静かに答えた。


「京子の守護神。そして、京子が父のように慕うべき十二の神」


こうして――

十二神は、初めて京子に「自分たちの存在」をはっきり告げた。


それは彼らが越えた、最初で最後の“禁忌”。

京子の心を奪う宗教団体の信仰から、自分たちの存在をはっきりと告げ、京子を洗脳から取り戻した瞬間だった。

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