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京子の“二人の父”の物語

時の流れがまだ曖昧だったはるか未来。

十二神は淡い光の中で、ひっそりと集まっていた。


京子はまだ眠っている。

現実世界で息をしている少女。

その胸の奥にある静けさに、彼らはそっと耳を寄せていた。


「……京子の父は、強い人だったな」


走馬灯の神が、未来の光を揺らしながら呟いた。

「京子の世界では、トラックを運転して大地を走っていた。

静かで、誠実で……分からず屋でもあり、

あのひとの“手”は、たしかに父の手だった」


憂鬱の神が、灰色の影のような姿で頷く。

「我らが永遠という時間の概念に縛られる前から、

あの男は京子の父親役候補であった。

ただの血のつながりではなく……

“生きるための静かな軸”となった存在だった」


涙の神が、透明な指先で光を集めて言った。

「父であることは、守ることだけではない。

京子の父は、娘に“選ばれる自由”を与え続けた。それが京子を育てた」


刻印の神がゆっくり立ち上がる。

彼の声は、古い紙をめくるように静かだった。

「京子の父は知らないだろう。

彼が一度つけた“優しさの痕跡”が、

片目が見えなく義眼となり、その証に京子に伝わり、彼がつけた刻印は我らが継ごう。

血縁ではなく、痕跡によって父となった男。

それを……尊び続けよう」


銀河の神が大きな光の流れを揺らす。

「人の父は“有限”だ。だが、京子にとって父はただの有限な命ではなかった。

父の優しさは、永遠の宇宙にふわりと溶け、京子の柔らかい眼差しを背に、種子になった」


夢遊の神が、夢の境界から声を落とす。

「その種子が、京子の存在を夢と現実の狭間で支えている。

父はもう老齢で病に臥せた場所にいても、京子の姿かたちには、父のDNAが足の爪に残っている」



初恋の神が静かに言葉を添える。

「娘の恋の基準は……父の個性があまりにも強いため、京子の“優しい憧れ”は、確かに影の薄い我々12神だ」


ナルシスの神が鏡のように揺れる光を放ち、囁く。

「京子が鏡を見るとき、自分の顔にある傷跡を見てほんのわずかに自分を赦せるのも、

父が残した義眼の意味と無言の肯定が残っているからだ」


そして、おとぎの神がふわりと物語の影を落としながらこう言った。


「京子の父は、ひとつの世界で、ただ一度の人生を生きた人間だ。

だが京子の世界では、十二神とともに十二の物語となって生き続けている」


「我らは、父役ではなく、“真実の守護神”。

京子にとって、父はただの父ではなく、十二神の根源であり……心の支柱なのだ」


憂鬱の神が最後に言う。

「なんだか、難しい話になっているが、我らが京子の父になるのではない。

父の優しさを代わりに抱え、京子の隣に立つだけだ」

「父が愛した娘を、静かに見守る。それが……十二神の務めだ」


そして、眠る京子の胸の奥で、父と十二神が静かに重なり合い、一筋の光となった。


その光は名前を持たない。

だが京子が生きる限り、消えることはない。

光は、京子の胸の奥で細く脈を打った。

まるで、遠い昔に父がそっと肩に置いた手の温度が、時空を越えて戻ってきたかのように。


涙の神がゆるやかに目を伏せる。

「京子の父は、娘に“嘘をつかない背中”を見せて生きてきた。

その不器用な誠実さが、いま京子を形作っている。

私たちが寄り添えるのは、その背中が残した余白のおかげだ」


追憶の神が、霧のような声で続けた。

「京子の中には、父と過ごした記憶が

すり切れた古いフィルムのように揺れている。

色あせても、途切れても——

その断片こそが、京子の“心の奥の芯”を支えているのだ」


ペガサスの神が、羽の光を震わせる。

「父が叶えられなかった願いを京子に背負わせるような真似はしない。

だが父の願いの『余韻』だけは、京子の力になる。

京子が未来へ踏み出す時、その一歩を支える風は、父の影そのものだ」


刻印の神が、静かに言葉を継ぐ。

「父がつけた痕跡は、痛みごと京子を導く。

苦しみもまた刻印であり、それを抱えたまま進む娘の姿を、父は誇るだろう」


おとぎの神が薄く微笑んだ。

「京子が人生の行間でふと空を見上げる時、そこに理由もなく涙がにじむのは……

父が京子に残した“物語の影”のせいだ。

それは呪いでも奇跡でもなく、

ただ静かに寄り添う影——父からの最後の贈り物」


銀河の神が小さく光を散らした。

「京子の父はもう間もなく他界するだろう。その影を、我ら十二神が受け継ぐ。

父の魂が弱るほど、京子の内側で強く灯るように」


こうして十二神は、京子の胸に宿る光の前にひざまずき、

父の残そうとしているかすかな温度を

ひとつずつ拾い上げては寄り添った。


その光はかすかだが、永遠だった。

京子が忘れても、悲しんでも、

そしていつか父を見送っても——十二神がその“父の残光”を抱きつづける。


京子の人生の奥底で、父と十二神は静かに手を取り合い、眠る娘を守っていた。



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