お金にとりつかれた長女、京子
私は紗那をすごいと言い続ける。
だけど、本当に紗那をすごいと認める前に、やらなければならないことがあった。
それは、父の偉大さについて改めて考えることだった。
父はいくつもの仕事を掛け持ちし、私、妹、弟の3人を養ってくれた。
それでも——
私は、父が大嫌いだった。
***
思い返してみると、私がお父さんに反抗した理由は、
お父さんがお母さんに対して威圧的だった一面があり、それが許せなかったからなのかもしれない。
そして、父が日本人ではないという複雑な家庭で生まれ育ったことも、私は劣等感を抱いていた。
祖母や叔母二人は精神病を患っており、母はその世話に追われていた。
私は、こんな家庭環境が大嫌いだった。
***
お父さんは、結局、定職には就いたものの、その後は仕事を転々としていた。
トラックの運転手、大手企業の請負での集金業務など、さまざまな仕事をしていた。
最初は調子が良かったものの、順調な仕事ぶりは長くは続かず、次第に愚痴ばかりこぼすようになった。
私はそんなお父さんを「つまらない父親」だと評価してしまった。
「どうしてこんな人が父親なの?」
「どうしてお母さんはこんな人と一緒にいるの?」
今思えばとても酷いことだけれど、
そう思うことも、少なくなかった。
***
そんな苦労をしている父を尻目に、私はわがままを通して学習塾に通わせてもらい、
私立のお嬢様附属高校に入学させてもらっていた。
そのことが重くのしかかり、次第に——
我が家はますますお金に苦労するようになった。
決して裕福ではない暮らしの中で、私は父への軽蔑が憎しみへと変わっていった。
高校に入学すると、
私の同級生は地主、医者、官僚、テレビ局勤務の娘など、みんな裕福な家の子だった。
お父さんは仕事をしていたけれど、「家族を幸せにできる金銭的に余裕のある家」ではなかった。
それが、私にはどうしようもなく情けなく思えた。
「ちゃんとした仕事をして、ちゃんとお金を稼いで、ちゃんと家族を守るのが父親の役目じゃないの?」
そう思うたびに、私はお父さんが許せなくなった。
父は苦しさのあまり涙を流し、理解のない私に涙を浮かべ怒ることもあった。
私は父の涙を蔑んだ。
***
私は、お金に執着していた。
裕福でない生活が嫌だった。
周りの友達の家は裕福に見えた。
みんな普通に好きなものを買ってもらい、好きな場所へ行っていた。
アメリカの留学の費用さえ、躊躇なく出してもらっていた。
それなのに、うちはどうだろう?
「我慢しなさい」
「うちはそんな余裕はない」
そんな言葉ばかりを聞かされる日々。
私はそれが、あまりにも不公平に思えた。
「どうして私たちだけ、こんなに苦しまなきゃいけないの?」
「どうしてお父さんはもっと努力しないの?」
私は、お金さえあれば幸せになれると信じていた。
私は、お金さえあれば、お父さんを見下さずに済んだのかもしれない。
でも——
紗那や、弟のシゲは、そんなふうに父に反抗することは一切なかった。
***
私だけが、お父さんを憎んでいた。
私だけが、お金に執着していた。
紗那は、父のことを軽蔑しなかった。
シゲもまた、お金のことなんて気にしていなかった。
「なんで?」
私は理解できなかった。
「どうして、こんな父親を許せるの?」
紗那は、どんなときも穏やかだった。
シゲは、私よりずっと素直で、お父さんに怒鳴られても淡々としていた。
そんな二人の姿が、私は憎らしかった。
「私だけが、こんなに苦しんでいるのに!」
だから、私は——
紗那やシゲをいじめた。
私は、できた妹や弟を傷つけた。
私は、紗那やシゲを無視した。
「どうしてあんたたちは、そんなに素直なんだ?」
私は、二人が羨ましかったのかもしれない。
私にはできなかった「運命を素直に受け入れること」を、二人は自然にしていた。
私よりもずっと大人だったのかもしれない。
それが、どうしようもなく悔しかった。
***
私は、ずっと間違っていたのだろうか?
私は、お金があれば幸せになれると信じていた。
私は、お父さんが憎いから、お金に執着した。
私は、紗那やシゲが許せないから、彼らを無視した。
でも、私がどれだけお金を求めても、
私がどれだけ父を憎んでも、
紗那やシゲは、私のようにはならなかった。
それが、私と彼らの決定的な違いだったのだろうか?
私は、父に反抗し、憎しみを募らせた。
でも、紗那とシゲは、そんな私のことを、ずっと見ていたのかもしれない。
私は、自分の行動を振り返ることもなく、
ただ、怒りに身を任せて生きてきた。
そんな私を、紗那もシゲも——
ずっと黙って見守っていたのかもしれない。
***
そして次第に私は、紗那と会話をしなくなっていった。
あんなに仲の良かった姉妹が、バラバラになってしまった。
それが10代の私の記憶。
紗那は、私のことをどう思っていたのだろう?
おそらく——
その場にいるだけで、負のエネルギー漂う姉だったに違いない。
本当に、ごめんなさい。
***
私は当時、自律神経失調症を患っていた。
鬱でもあった。
1人で苦しんでいた私は、
おとぎの世界で私を見つけてくれた紗那のことなんて、思い出す余地もなかった。
私は母にさえ、反抗していた。
紗那や、弟は母に反抗することもなかった。
当時から父を敬い、母を大切にしている紗那とシゲのすごさに気づいていなかった。
紗那やシゲにとって、父は自分たちを何不自由なく育ててくれた、絶対的な存在だったのだと思う。
だから逆らうことを1度も見たことがない。




