昔シャーペンとか作ってました 在宅ワークの想い出 その2
だいぶ昔の話になる。それは下の子がまだ、幼稚園に通っているころのことだ。
当時次男が通っていたのは公立幼稚園で、週4日は手弁当で9時~14時、水曜は午前中のみ。
その生活に合わせての送り迎えや行事、父母会なども頻繁だったから、有職ママは園では少数派だった。
それでも家計や自己実現の為にも、今のうちから少しの時間でもいいから働きたいし、子供が小学校にあがり手が離れたら復職したいからと、通信教育で資格取得に励むとか情報収集や準備に熱心な人も多かった。
送迎の待ち時間や参観行事とかで顔を合わせれば「なんかいい内職ない?」が合言葉のように親たちの口にのぼり、在宅ワークの話にはいつも花が咲いた。
そのころ周囲のママ友たちの間では、とある会社の化粧品が流行っていた。
まずは通販会員になり、カタログから自分で注文する。バリエーション豊かな化粧品や、アクセサリーとかバッグや小物類などのオリジナルファッションアイテムが優待価格でお得に買える。
それはそれでいいんだけど、その上で友達にカタログの商品を紹介し自分を介して注文を貰えば、その額に応じてマージンが入るのだ。
友人がいっぱいいておしゃべり上手、付き合い上手な人は、それなりに副収入が得られる‥‥そんなシステムだった。
早く言えばネズミ講みたいな感じ?…というと聞こえが悪いかもしれないが。
本気で取り組み美容アドバイザーになったりして、副業から本業へとステップアップしていくオシャレな若いママたちも複数いたりして、ちょっとしたブームとなっていた。
自分もお付き合いで会員になり、自分用に化粧品を購入することはあった。
けど、友人知人にあっせんするってのはどうも自分は抵抗があって、それ以上先に進むことはなかった。彼女たちのバイタリティには感心しつつも、いつもにぎやかに情報交換している様子を遠く眺めてるのみだった。
そんななかで、たまたま運動会か何かで一緒に役員仕事をした先輩ママに教えてもらったのが、シャーペンづくりの内職の話だった。
会社のワゴン車でパーツの集配をしてくれるから、自分で取りに行ったり納めたりしなくていい。
箱の置き場所を取るからある程度スペースが要るのと、とても小さなパーツを数多く扱うから手先の器用さと根気はそれなりに必要。
ただ作業自体は難しくなく、テンポよくやれて割と慣れるのも早い、ホコリとかも出ない綺麗な仕事。時給換算で4‐500円になるよー、いいよ!
といった感じだった。
へー!近くでそんな仕事があるんだあ!とこれまた新しい世界を知り。やってみなきゃわかんないけど、なんかいけそうな気がする(笑)、と正直興味は深々だった。
ただ、割がよくて人気だという事でそのときは席の空きが無かった。
加えて自分は化粧ポーチのトラウマがまだ鮮明で。「そんなに美味しい話はないだろうなー」と半信半疑でもあった。
やろうかなあ、どうしようかなあと迷い続けて数週間が経った頃。
「人数に空きが出たみたいだよ」とある日、再びの行事でまた顔を合わせた くだんのママ友から情報。
これはチャンスなのかも・・・?
「じゃあ、やってみたい!」とその場で口利きを頼んだのが、二度目の在宅ワークのはじまりだった。
会社のロゴ「○○工業」とボディに大きく書かれたワンボックスワゴンで、週1程のペースで組み立て前のパーツが運搬されてくる。
大型衣装ケースくらいの半透明プラダンボックス。1000本単位のカラフルなシャーペンパーツが、種類ごとに袋分けされた状態でギッシリと詰め込まれている。
余談だけど、本体がクリアなパステルカラーの美しいものが多くてそれは好きだった。
ボックスごとに違う色が届くのも案外楽しかった。カラフルな美しい色を眺めてるとそれだけでも、ちょっと作業時の気分が上がる気がしたものだ。
ものにもよるが、パーツは大体こんな感じ。
1.本体 2.滑り止めゴム 3.クリップ
4.ペン先(スクリューになってる円錐形の部分)
5.芯先(3-5㎜くらいのステンレスパイプ部分)
6.芯
7.消しゴム
8.消しゴムキャップ
そして工程はこんなだ。
1.本体に滑り止めゴムを装着
2.専用治具を使い ペン先に芯先を取り付ける
3.2のペン先を本体に取り付ける
4.芯を3本入れる
5.消しゴムとキャップ、クリップを装着
6.芯を出し、不良がないかを調べる
これだけなんだけど、なんせ数が多い上にパーツが細かいから、一つ一つの工程を効率よく進めるのにそれぞれコツが要った。
特に「2」の工程は最も繊細な作業になる。芯先は長さ5㎜、太さ0.5-0.7㎜くらいのパイプで、ビーズみたいに細かい部品だ。
これを一つ一つ つまみあげ、テーブルに置いた顕微鏡みたいな形状の治具にセットしては一個一個小さなペン先へと埋め込んでいくのだ。微妙な力加減とスピード・リズム感がモノをいう。
全てのパーツを組み立て、最後の芯出しまでを終えたら不良品を除けて箱詰めし、週1回の回収日に手渡すわけだ。
いつも同じものが届くわけではなかった。製品によって作業の単価が異なるのだが、はじめのうちはひと箱で4-5千円になった。1本当たり5円とかだ。
慣れてくると2箱を仕上げるのに正味3‐4日で済むこともあり、時給にすると本当に500円相当だった。内職としてはなかなか歩合が良かった方だと思う。
それも励みとなり、子供たちが学校・幼稚園に行ってる間と夜寝静まってから、一生懸命仕事を進めた。
納戸代わりだった客間はいつもプラダンが積み上げられ、ちゃぶ台には幾つものパーツカゴと治具。
お客を通す余地はほぼ無く、完全にそこは仕事部屋と化していた。
最初の1年くらいは、そんな感じの仕事ぶりでコンスタントに月4-5万の副収入となった。
大変さは勿論あった。在宅だとどうしても四六時中…いやもう24時間、シャーペンの事が頭から離れない。家事育児学校や園の役員、行事やら突然の病気などなど、仕事の時間を確保できなかったり作業が思うように進まなかったりは茶飯事。それも承知のうえでやっている仕事なわけだけど、やっぱり前回の内職と同じように、追いまくられる毎日だ。
けどあの頃よりも子供たちが成長していたし、仕事内容も工賃も化粧ポーチに比べたら何倍もいいな、という感覚もあったし、一定額の副収入はローンに追われる家計にとってもだいぶ助けになっていた。
事情が変わってきたのは、2年目くらいからだった。
長引く不況のあおりを受けて、工賃がじりじりと下がっていった。1本1-2円くらいの仕事がいつの間にか増え、常態化してしまった。
ひと箱仕上げて2000円に満たないようになり、以前と同じ手間暇・労力かけても1カ月2万がいいところ。費用対効果があまりに合わなくなってしまった。それでも仕事が来るときはまだいい方で、希望しても仕事が無い時もでてきた。
配送の人も短いスパンで入れ替わったり、社の経営も苦しいのかな?と思わざるを得なかった。
これでは頑張って家事育児とやり繰りしながら続けていても、全然意味がないよなあ・・・と感じるようになっていった。前のような割のいい仕事がまた戻るかな?というささやかな期待は、減り続ける仕事量と給与額の明細を見るたびに、どんどん打ち砕かれていった。
そしてとうとう1万円を切った給与明細を見たとき「こりゃあもう、だめ」と決心。下の子の卒園を機として、それを最後に辞めることにした。
その数カ月後から外に働きに出ることになったので、社がその後どうなったかは知らない。
工場名が入ったワンボックス車を今でもたまーに街中で見かける事があるから、シャープペンを扱ってるかはわからないけど社自体は潰れずに操業しているようではある。
あれから随分経つけど。
毎日組み立てに家事に育児にとガムシャラにこなしてた頃、見覚えあるシャーペンがパッケージに入れられちゃんと商品となって販売されてるのを見かけると嬉しくて、やっぱりワクワクした。(自分が作ったものじゃないだろうけど 笑)
いまでも、100均とかホームセンターの文具コーナーに行くと、まさしく自分が手掛けていたと同じ商品が陳列されてるのに行き会うことがある。
そんな時は、あの頃の記憶と一緒に、商品を店頭で見た時の素朴な嬉しさとかも未だ甦って来たりする。化粧ポーチと同じように、割が合わないなあ大変だなあとは思ったけれど、夢中で頑張った忙しい日々の事はちょっと誇れる気もするし、今に繋がる大事な糧にもなったと思っている。
もうひとつ、余談。
エッセイに纏めるにあたり、記憶がだいぶ曖昧になってしまった所もあって念のためシャーペン組み立て工程を再確認しようとして、適当なウェブサイトを探した。
「このへんでいいかな」ってテキトーにアクセスしたら、いきなり!
ビービーとアラート音が鳴り響き、画面いっぱいに幾重にもポップアップ表示が出現したのだ。
「あなたのアカウントは悪質○○ウィルスの搭載されたスパイウェアの侵入をうけ、閉鎖されました。すぐにマイクロソフト社に電話して解除を申請してください。連絡先はこちら」みたいなことが書かれていた。
これが消そうとしても消えない、って言うか指定先URL以外にクリックできるところがどこにもない。
あーこれはめっちゃヤバいやつだ、ダメダメ載せられてはいかん!ってことで強制シャットダウン。
その後、通常通りに再起動し何事もなく。
油断していたからちょっとドキドキさせられた。これに慌てて電話とか指示のサイトにアクセスしたりしたらとんでもないことになる。危ない危ない。
内職さがしとかのキーワードで引っ掛かって来るウェブサイトには、そういう悪い奴が結構な確率で潜んでるような気がする。
これをお読みの皆様もどうぞ、くれぐれもお気を付けくださいますよう。