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文明が崩壊した世界 2

前回あらすじ

ヒキニートの主人公が妹の前で「俺、お前の為に立ち直るよ」とボソボソ宣言したのだが……。

 ぴくんと体が震えた妹の大きな瞳に驚きの色が浮かぶ。


「お、お兄ちゃん……あ、あたしの為に立ち直ってくれるの?」


 恥ずかし気な顔でゆっくり近づいてきた。


(え? 何これ? まさか「お兄ちゃん好き」とかの流れ? ちょ……心の準備が……いくら何でも義理とはいえ妹に告白されるとか、エロゲじゃねーんだから……いや、ホント)


 何かがショートする音に亮太郎はニヤけた妄想から脱した。


「うおっ!?」


 何故か繰り出してきた妹のストレートパンチをかわす。

 その手にはスタンガンが握られていた。 


「な、何だよそれ!?」

「何って事務所から護身用に渡されたスタンガンだよ」

 

「私ね、三ヶ月前にオーディションに受かってアイドルグループの一員になったんだよ。知ってた?」

(アイドル? 碧が?)

「知るはずないよね、お兄ちゃん昔からそういうの興味なかったし、だから私も教えなかったんだ。お父さんとお母さん、お姉ちゃんにも協力して貰ってー、お兄ちゃんには教えなかったの」


 突如スタンガンで攻撃してきた挙句アイドル宣言をする妹が何を考えているのか、亮太郎にはさっぱりわからなかった。


「何で? って思ってるでしょ? だって引き篭もって無駄に時間を持て余してるお兄ちゃんのことだもん。ネットにうっかり私の事書き込んじゃうかもしれないでしょ? だ・か・ら、教えなかったんだよ~」


 そう言いつつスタンガンを持ちながらにじり寄る。


「だから何でそんな事してくんの?」

「書き込まない様その体に覚え込ませる為だよ」

「しねえよ、バカかお前!」

「バカ言ったわね、もう絶対許さない!」


 部屋にあるコタツを中心に兄妹の追いかけっこが始まる。


「おりゃあ!」


 フェイントをかけて上手い事部屋の外へ逃げ出す亮太郎。


「あっ、こら~!」


 妹の声を背中で受けながら全力で玄関に向かう。


(ちきしょー、何なんだよ一体!)


 これがドゥームズデイ直前の兄と妹の関係。

 そして今はこうである。


「どう? お兄ちゃん」

「ん……相変わらず上手いよな、碧は」

「えへへへ」

 

 膝枕に乗せた兄の耳を覗き込み、丁寧に耳掃除をする碧。

 今や完全に立場は逆転していた。

 そこへ固定電話機からビートルズの「HELP!」のメロディが流れる。


「お、お兄ちゃん……」


 碧が蒼白な顔で兄を見る。

  

「怪物だ!」

 

 亮太郎が勢いよく立ち上がると自分の部屋へ駆け込んだ。


「バッテリー! バッテリー!」 


 机の上にある充電済みのバッテリーを掴み、壁に架けられた改造電動ガンを手に取った。


            □


「亮さん、頑張って!」

「いつも通り始末してくださいよ!」

「お願いします! 三本木さん」

 

 テナントが並ぶ一階フロアを駆ける亮太郎に老若男女三十余名が声援を送る。  

 幸いにも客が誰もいない開店前にドゥームズデイが訪れ(客で溢れる昼間にドゥームズデイが起きていたなら、モール内は大混乱の坩堝になっていただろう)、亮太郎ら同様方舟に乗船出来た者達である。


 テナントが並ぶ通りを抜け、二階へ続く大きな階段のある広間から食料品売り場に入ると、鮮魚コーナーの一員であった松井が緊張した面持ちで立っていた。


「どこ?」


 亮太郎の問いにゴクリと喉仏を動かした松井が広大な食料品売り場へ目を動かす。


「惣菜売り場だったとこに二匹のクリボー。俺はここまで来れたけど、菅原と中野が来ないんだ」


 菅原と中野とは松井と同じ大学に通う友人であり、職場仲間である。

 いつもボーリングの自慢ばかりしているメガネ男が菅原で、サーフィンが趣味の褐色美女が中野、そういえばこの三人が今日の見回り組だったのを亮太郎は思い出した。


「俺は逃げろ! って言ったんだ。なのにあいつら付いてこなくて……」

「うん、松井さんは悪くないよ」


 目玉が飛び出しそうな松井に手の平を見せた亮太郎は改造電動ガン――――レシーライフル、装弾数四百三十発――――を構えると、薄暗い食料品売り場へ足を踏み入れた。

 上下左右へ油断なく目をやりながら惣菜売り場へ向かう。

 急に天井の照明が点いた。

 亮太郎の為に誰かが貴重な電源を入れたのだ。

 それに感謝しながら何もない棚を曲がる。

 クリボーがいた。

 素早く今来た棚の陰に隠れた亮太郎がそっと様子を窺う。

 

 おむすびみたいな三角形に大きな二つの目、への字の口という、配管工が飛んで跳ねるゲームに登場するザコキャラに似ているところからクリボーと名付けられたが、こうしてよくよく見ると足で踏んでペコンと潰れるユルキャラとはまるで違っていた。

 

 サイの皮膚を思わせるいかにも硬そうな三角形の体には禍々しいふたつの翼、大きい眼窩はまるで原始時代の洞穴を思わせる、黄色い牙が覗くへの字の口からは薄汚いヨダレがとろとろ流れていた。

 床に転がるメガネ、そのすぐ側にあるうつ伏せの頭部に一匹のクリボーが噛り付き、脳ミソを静かに吸っている。

 

 もう一匹のクリボーはといえば既に食事が終わったのか、公園のベンチを歩くカラスみたいに遺体の上を不器用に歩いていた。

 そんな菅原を、恐怖の余り腰を抜かしたのであろう尻餅姿の中野が歯を鳴らしながら見詰めていた。

 紺色のホットパンツの股間部分がお漏らしで変色している。

 亮太郎は棚の脇からレシーライフルを構え、菅原の上で不格好に歩いているクリボーに狙いを定めた。


(まずはこっちを向かせなきゃな)


 引き金を引く。

 BB弾を銃口から勢い良く放たれた。

 白くて丸いBB弾が真っ直ぐな軌道でクリボーに命中する――――が拳銃も歯が立たない体である、当たるなり簡単に弾かれてしまった。

 クリボーが真っ黒な眼窩を亮太郎へ向けた。

 それを待っていた亮太郎が銃のレイルに取り付けてあるふたつのLEDライトを照射する。

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