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にんげんホイホイ  作者: 素通り寺(ストーリーテラー)
第三章 絆は世界を超えて
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第五十四話 蛇の巣へ

「お姉ちゃんはくろりんっていうの。ね、君いくつ? お名前は何て言うの?」

「レン、ろくさい」

 あの後、私たちは小ホイホイを運んでいた男の子を連れて中継車まで逃げ帰り、追いかけてこない事を確認してから、その子に話を聞いていた。


「おじさんは(みなと)。レン君のお父さんやお母さんは?」

「いないよ。いまはみんなといっしょに、きょうそさまの、おてらにいる」

 え……と絶句する。両親が居ない上に、教祖様と一緒にいるって!?

「きょうそさま、って?」

「えらいひと」

 にかっ、と笑ってそう答えるレン君。その純粋な笑顔に、私は逆に寒気を感じた。


 私は常々、子供を巻き込むような宗教には嫌悪感を感じていた。小さな子供を洗脳するように宗教に染め、まともな教育や生活から切り離して宗派の奴隷に育て上げるようなケースがニュースになる度に、激しい怒りが湧き上がったものだ。


 手持ちにあったスナック菓子やジュースを与えつつ、レン君から少しづつ話を聞いていった。

 彼らは多くの子供と教祖様、そして数人の大人と共同生活をしているらしい。子供達はみんな彼と同じくらいの年齢で、赤子やくろりんちゃんの年の頃の子供はいないようだ。


「ね、きょうそさまって、どんな人?」

「んーっとねぇ、とってもえらくて、やさしいひと!」

「じゃあねぇ、どうして君はさっき、あの小さな四角を持っていたの?」

 そうだ。仮にその教祖様とやらが子供達を洗脳し、周囲の食料や水を集めさせるのはまだわかる。だが人が入ってしまった『にんげんホイホイ』をどうして集めるのか。


「えーっと、ねぇ。くよう、するんだって」

「供養?」

「うん。そのなかにはひとがいるから、しあわせにしてあげるんだって」

 供養と来たか。冗談じゃない、その中に入った人はまだ生きているんだ。くろりんちゃんの胸に抱かれているヒカル君のようにな!

 まぁ、あの中に入った人に、こちからかどうこう出来ないのは分かっているから、供養とか言っても口先だけのお題目なのだろう。


 ちなみにこの子の大ウィンドウ(ホイホイ)は、全面にガムテ-プがぐるぐる巻きにしてあって、見る事も入る事も出来ない。


 さて、どうしたものか。


 この子の置かれている状況は、社会が生きているなら許されざる犯罪行為だろう。親の無い子をかき集めて洗脳し使役するなど言語道断、ましてやそれが現世から去って行った人たちの『場所』まで奪わせたとなると尚更だ。

 あの鳥取でイオタSVRのオーナーさんが、自分の愛した車の中でホイホイに入った事を考えても、その場所はその人の最後の意思じゃないのか、それを軽々しく動かすのみならず、小さな子供にやらせているなんて。


 だが、今のこの世界では、そいつらのお陰で(・・・・・・・・)この子達が生きていけているのもまた事実だ。もし連中を解散させたとしても、そこに子供が大勢いるなら私が責任をもって養わなければならなくなる、さすがにそれは不可能だ。

 それにその教祖様とやらの仕業だろうが、この子達のホイホイを封印しているのはナイスと言わざるを得ない。好奇心旺盛な子供がホイホイの中に楽しい事を見つけたら速攻で入っちゃうだろうから、それを阻止して世界に留めているのはお手柄と言うべきだろう、なんとも皮肉な話だが。


 問題は、この子達がそのお寺とやらで、どんな扱いを受けているか、だ。


 洗脳、奴隷的労働、それに最悪、性的虐待などが行われているのなら、この子達を生かしている手柄を差し引いても許されるものではない。


 逆に、保育園や託児所のように子供達を保護し、共同生活を営んでいるのなら、足りない人手を補う為に子供の手を使うのもそう悪い事ではない。それにより子供たちの運動や競争意識、自立した行動や協調性を学び、様々な知識を育むこともあるからだ。


 それを見極める為にも、一度そこに行ってみる必要があるだろう。



「くろりんちゃん、これを預けておくよ」

 私は彼女に拳銃を預け、いざという時の護身に使ってほしいと伝える。合わせて松波さん達に事の次第を報告し、対策の相談に乗って貰って、仮にもし私に何かあった時の為のフォローをお願いしてもらいなさいと指示した。


「でもでも、それじゃ湊さんが危険なんじゃ」

「だから、これも渡しておく」

 私が横浜で危機管理の甘さを痛感した後、東京での待機中に手に入れていたものを彼女に渡す。

「これって……スマホ?」

「正確には私のスマホの『子機』だよ。ダイヤルしなくても通話が出来る、まぁ小型の無線みたいなものだ。こちらから掛けっぱなしにしておくから、君はその様子を聞いて、やばそうだったら松波さんや鐘巻刑事に判断を仰いでほしい」

 電話系の光通信が死んでいるせいで、電話をかけての通話は出来ない。なのでスマホはもっぱらナビや時計代わりしか役に立たないが、これなら盗聴器の役目も果たすという訳だ。


「じゃあ、ヒカル君を頼むよ」

「湊さんも気をつけて」



 私はレン君を連れて車から降りると、あえて少し遠回りをしてさっきの駐車場に向かう。黒塗りの車はまだ止まっており、レン君を連れて現れた私を見て、白装束の大人たちが思わず驚き身構えている。

「ドーさん、ラオラさーん、ただいまー」

 レン君が大人たちに手を振ってそう叫ぶ。その態度に安心したのか、大人たちは少し警戒を緩めたようだ。


 大人たちは総勢で四人、三台の車の周辺にいる子供達は全員で十人ほど。レン君同様に怯えた様子も無ければ、露出している手足などにも虐待の痕は見られない、まずは一安心か。


「あの、貴方は?」

 大人の一人、三十台に見える女性が声をかけて来た。やや痩せた感じで顔色も生気を感じないほどに白い。いわゆる神社の白装束はすっきりとしたデザインで、物騒な武器を隠している様子もない。

 これなら彼女一人では私をどうこうすることは出来ないだろう、とりあえず危険はなさそうだ。


「日本中を旅している、椿山湊(つばきやまみなと)と申します、先程は失礼しました。この子を連れ去ったのは、あなた方がこの子に危害を加えない保証が無かったからです、無礼をお許しください」

 下手に出て先に名乗っておく。未だに可能性は低そうだが、彼らが健全な集団である事も否定は出来ない、さぁ、これでどう返して来るかな?


「いえ、当然のことです。レンのことをおもんばかって下さったのですから、感謝せねばならぬ立場です」

「驚いたよ、まさか成人男性が生き残っていたとは」

「せっかくだし、私たちの所にご招待したいですな」

 他の大人たち(全員男)もわらわらと寄って来る。こちらが下手に出たからなのか、どこか侮った空気が見られる。が、融和な空気とは無縁だった。


「是非、教祖様に会っていただきたい。あ、申し遅れました。私は教祖様の信者でネローメと申します」

 彼女に続いて連れの連中もドー、ラオラ、ロロンと名乗った。こいつら、外国人か?


 即されるままに車に乗り込む。隣にいるレン君が「えへへ」と幼いドヤ顔を見せ、他の子供達も私に興味津々で「ねぇ、おじさんだれ」「なにしてたの」「レンしってるの」などと顔を寄せて来る。普通に可愛げのある子供達だが、果たしてそれが()なのか、それとも洗脳による賜物なのか、まだ判断は出来ない。


 車が動き出す。さてはて、南国系の名を持つ(・・・・・・・・)人が所属する、何故かお寺(・・)にいる教祖様(・・・)巫女装束(・・・・)という、矛盾だらけの連中の本境地とやらで何が待つやら。




 さぁ鬼が出るか蛇が出るか。あ、ここ山形だし、蛇の方が可能性が高そうだなぁ。



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