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にんげんホイホイ  作者: 素通り寺(ストーリーテラー)
第三章 絆は世界を超えて
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第四十七話 燻される者、消える者

 釣り大会から二週間、私たち三人はあれから栃木県、そして福島県東部を巡回し、いくつものラジオ局や役場で、『バルサンラジオ』のネットワークを広め続けていた。


  もちろんくろりんちゃんのレポートも好評だ。宇都宮市ではギョーザ作りに挑戦し、「残念、宇都宮(ほんば)で作っても普通のスーパーの餃子ですぅ~」などとウケを取ったり、日光東照宮ではラジオの先のみんなと一緒に『世界が元通りになりますように』と唱和して祈願したり、各地で惨敗続きだった企画『どこか入れる温泉を探そう』で、三十四件目にして、いわき市のハワイアンリゾートのホテルの温泉の一つが生きていて、三人で大喜びで堪能したり(もちろん男女別々)、ついでに三人でフラダンスを踊ったりした。

 ま、まぁ私もあの腰ミノを付けて踊ったので、四方八方から「キモい」「キタキ〇親父」などのご好評を頂いた。うん、映像の無いラジオでよかったなぁ。



 そんな旅を続けている間にも日本から、そして世界中から新たな生存者の報告が舞い込んできていた。世界から翻訳AIで伝えられる言葉はたどたどしいが、その言葉の内容には確かな「人間の力」が感じられた。


”私は、元、陸上、選手、です。今も、毎日、自分に、記録に、更新、狙ってます”


 今日ラジオに登場したのはニューギニアの陸上選手だ。オリンピック代表まであと少しの所で世界をホイホイに壊されたが、逆にライバル達がホイホイに入っている今が差をつけるチャンスとばかりに、日々練習を重ねているとか。


「人がいなくなった世界でもスポーツ続けてるってすごいよね」

「それ言ったら、ヒカ君も空手やってるじゃない」

「世界が復活したら、彼には是非オリンピックで金メダル取って欲しいね」



 反面、世界中で浮いている捕食後の小ウィンドウが、次々と砂嵐映像に変わって行く報告も寄せられていた。どうして映像が消えてしまうのかは、各国の放送でも話題の一つだった。


”私の息子のウィンドウ、昨日目を離した隙に砂嵐になっちゃってて……心配です”

”叔父さんの小窓、僕と目が合った瞬間に消えたんだよなぁ、見られてて恥ずかしったのかな?”

”私の、妻。砂嵐、なった。最近、あの中、楽しく、なさそうだった”


 砂嵐になる瞬間の目撃情報もいくつか寄せられていた。それによると中の人が死んだとか、逆にホイホイから脱出できたとかではなく、別の何かをキッカケにして映像が消失しているそうだ。


 一体このウィンドウは、我々人類をどうするつもりなんだろうか。


 世界中から生存報告が届いていると言っても、まだまだ元々の六十億もの人類の数には遠く及ばない、概算ではあるが、まだ千と数百人程度しかいないだろう。

 あるいは、これは我々人類に対するテストなのだろうか。欲望に負けない精神を持つ人間を選ぶべくふるいにかけているのか、宇宙人か地球の意思かは知らないが、その意図はどこにあるのだろうか。


「湊さんのご家族とか、クロちゃんのお母さんとか心配でしょうね」

 ヒカル君がそう、ぽつりとこぼす。そうだ、私の妻と娘は今でもあのウィンドウの中を楽しんでいるのだろうか、それとももうタイムリミットが来て、砂嵐の映像になってしまっているのだろうか……もう二度と、愛する家族の顔を見ることが……


「す、すみません、デリカシーの無い事を言っちゃって」

 私やくろりんちゃんが暗くなっているのを見たのか、ヒカル君が慌ててそう言う。

「んーん、うちは大丈夫。お母さんってホントたくましいし」

「私は心配だが、なーに。必ずホイホイから引きずり出して見せるよ、それが今の私の目標だからね。

 務めて明るくそう返す。そう、私やくろりんちゃんはまだ、その(・・)可能性があるのだ。両親を事件で失ったヒカル君が頑張っているのに、大人の私がめげてどうするんだ、しっかりしないとなぁ。


 本当、ホイホイが出現して以来、人間は人と人とのつながりで生きている事を思い知らされる。まだ小中学生の子供二人と話しているだけでも日々新しい発見をし、思わぬ事を教えられ、私もまたそれに応じてこの子達に色々な言葉を伝える事が出来るのだ。


 今日の放送が終わり、私達三人は南相馬市にあるホテルで一泊する事になった。

 東日本大震災の被災地と復興の象徴であるこの場所が、明日の午前のリポートの舞台だ。


「たくましく復興したこの町にあやかって、私達もホイホイから世界を立ち直らせる、そんな放送にしたいね」

「うっかりNGワードを言わないように気を付けないと」

「うん、頑張る!」


 三人で打ち合わせをしながら、明日の原稿を煮詰めていく。震災というデリケートな問題(テーマ)を取り扱う以上、視聴者の気分を害するようなことがあってはいけない。そんな人がホイホイに入っちゃうのは勿論のこと、非難を浴びて炎上したくろりんちゃんがそうなるのは絶対に避けなければならない。


「それにしても……」

 思わずこぼした私の言葉に、二人は「何?」と意識を向けるが、それ以上二人に言っても意味の無い事だ。

「いや、何でもない」


 もし仮に地球が人類を消そうとしていたのなら、かつてここで起こった震災のように、天災で人類を滅ぼさなかったのは何故だろうか。


 生き残り、この世界を元に戻そうとしている私たち(・・・)を、今すぐにでも津波で消し去ろうとはしないのだろうか。


 何故、あんなウィンドウを生み出し、その先に私たちの理想の世界を作って取り込もうとしたのか。


 ちら、と私の『にんげんホイホイ』を見る。映っていたのは、私が良く知っている、懐かしい『日本』の姿だった。娘と一緒に登校、出勤し、妻が笑顔で「いってらっしゃい」を言う世界。


 私が将来実現したい世界を、先取って見せてくれているかのように。



 いつからだろう、私は少しだけこの『にんげんホイホイ』の存在を、有難いと思うようになっていたのは。



 ――この先に起こる、悲劇も知らずに――


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