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にんげんホイホイ  作者: 素通り寺(ストーリーテラー)
第二章 生き残った者達の挑戦
19/89

第十八話 はじめてのおしごと

 午後零時五十八分、福井県蟹江市にあるラジオ放送局内『カニカニえちぜんラジオ』のスタジオ内で、彼女、夏柳黒鈴(なつやなぎくろりん)は人生初の『お仕事』を前に、マイクを両手で抱え込んだまま緊張の極みに達していた。


「くろりんちゃん、リラックスリラックス」

「何度もリハーサルしたじゃん、クロちゃんがんばー」

「は、はあぃぃぃ……っ!」

 私とヒカル君が声をかけるも、くろりんちゃんの声は上ずりっぱなしだ。まぁ無理もない、彼女はこれから始まるラジオ番組に現地リポーターとして、お喋りを披露しなけりゃいけないんだから。


 こりゃイザとなったら助け船が必要かな、やっぱ。


 ピッ、ピッ、ピッ、ポーーン!


 ”やぁやぁ、未だにこの世界に残ってる皆さん聞いてくれてるかな?『松波ハッパのバルサンラジオ、第二回目のお昼の部のスタートだよ!”


 石川の放送局から松波氏による二回目の放送が始まる。この放送は朝九時、昼の一時、夕方の五時の一日三回放送予定だ。あさイチの第一回は松波さんの一人トークで持たせたが、昼の部からは我々の現地リポートのコーナーが組み込まれている。


”さぁこの放送、実は日本各地にネットすべく、スタッフが全国各地の放送局にお邪魔して電波ジャック……ゲフンゲフン、放送をシェアしてもらいにお伺いしてまーす”


 間にちょっとしたギャグを挟むのはさすがDJ志望だけあるなぁ、と感心する。なにしろこの放送は我々以外誰も聞いてない(・・・・・・・)可能性すらあるのだ、そんな中、空しさも感じさせずにお喋りが出来るのは凄いと思う。


”それでは現地リポーターのくろりんちゃん、聞こえますかー?”


「は、はい! こちらふっ、ふっ、ふっくい県のえちじぇんクラゲスタジオからお送りしてます! りぽーたーのくろりんですぅっ!!」


 あーあーあー、と僕とヒカル君が()っくりコケる。噛みまくりな上にスタジオ名間違ってるよ、越前ガニとエチゼンクラゲじゃ有難味が全然違うでしょうに。


「し、しつれーしましたーっ!えちじぇんガニスタジオからおーくりしてまーす!」

 おしい、まだちょっと間違えてる。


”OK、掴みはいいですよくろりんちゃん、自信もってね”


 ラジオの向こうから松波氏が奇麗にフォローを入れる。それに共鳴したのか、なんとかくろりんちゃんの口調と表情が落ち着いて来る。

「はい、ありがとうございます。初めてなんで緊張してますです」


”頑張ってね。それで、そちらの状況はどうかな”

「えーっと、一時時間ほど前にヒカ君……機材担当のお兄さんがしゅーはすーのどうきに成功しました。なのでこちらのへるつでも放送が聞けてまーす」

 と、くろりんちゃんの横にヒカル君がひょいと寄ると、マイクに向かってアドリブMCを始める。


「どもー、機材担当の白瀬ヒカルです。ふっふっふー、たった今このカニカニ越前放送は我ら百万石ラジオの支配下に入ったぞ! 福井県民の皆様は震えて待たずに出てきなさい!」

”こらこら、危険な発言をするんじゃない、さすが京都人かっこ偏見かっことじる”

「おいでやすー、ぶぶ漬けでもいかがどすかー?」

”いきなり追い返すなあぁぁぁぁー!”


 二人のやりとりにクスリと笑ったくろりんちゃんが何故かこちらを見てニヒヒと含み笑いを見せると……

「さて、もう一人。ラジオカーのドライバーである湊さんでーす!」


 ちょ、ちょと待った! いきなりマイクを向けられても困る!


「え、あや、ああどーも。徳島で建設会社に勤務している椿山湊(つばきやまみなと)です。新築やリフォームをお考えの方は……」


「ぎゃはははははははっ! そうじゃないって!!」

「じっ、自分の、地元の仕事語って、どうする……ぷぷっ!」

 ”椿山さーん、今度タダで私の家建てて下さいね”


 あ、やってもうた……これは恥ずかしい。三人に思いっきり笑われながらツッコまれてしまった。頼む、この放送だけは誰も聞いていないことを祈る……ッてそれじゃ本末転倒か。


「と、いうわけで私達三人のトリオで、各地の現地リポートに回りたいと思いまーす」


 人のボケで冷静になったくろりんちゃんが奇麗に放送をまとめる。ううむ解せぬが……ま、いいか。想像していた形とは違ったとはいえ、助け船にはなったんだし。


「ここに来るまでに坂井市、永平寺町、福井市、越前町の役場にも寄って、市営放送や町内放送のマイクからも、この放送が流れるようにしておきました。なのでこの放送を聞いた方は、ぜひぜひこのエチゼンクラゲ放送局に来てお喋りしてくださいねー」

”カニカニ越前ラジオ、ね”

「あひゃあぁぁぁっ! す、すみませんっ!」


 ううむ、最後まで惜しかったな、くろりんちゃんドンマイ。


”と、いうわけでこの放送、各地の放送局に来ていただければ放送中にいくらでもお喋りできますので、どうか未だにこの世界におられる方は是非、生存報告と番組参加に来てくださいね~、以上『バルサンラジオ』からのお願いでした~”



     ◇           ◇           ◇    



「お疲れ-っす」

「はー、緊張したぁ」

 音楽のコーナーになった所で、出番を終えた私達三人は思わず息をつく。とりあえず昼の部の出番を終えたくろりんちゃんの頭をわしわしと撫でてあげる。

「よかったよー、ホント頑張ったねー」

「えへへー」


 そんな光景を見ていたヒカル君が、ジト目とニヤケ口でこちらを見て一言こぼす。

「なんかさー、本当に親子みたいですねぇ」

 え! とうめいて赤面するくろりんちゃん。私はというと彼女の父親代わりをするのがひとつの目的だったから、その評価は嬉しいのだが。


「ヒカル君は凄いね、あのアドリブ驚いたよ」

「ま、親の仕事柄いろいろアニメ見てましたし」

 なるほど、アニメでウィットのあるやりとりのスキルが高くなっていたわけか。


「ね、ヒカ君もなでなでして」

 そう言って彼に頭を向けるくろりんちゃん。当のヒカル君はというと、ぼふっ、と頬を赤くして一歩後ずさる。先日からぐいぐいくる彼女に圧され気味なのもあるが、長身の彼女が頭を下げているせいで、強調されている胸の谷間に目線が行っているのが端から見るとバレバレだ、ううん思春期だなぁ。


「はい……」

 顔をそむけたまま彼女の頭を撫でるヒカル君。くろりんちゃんも嬉しそうに悦に浸る。


 うん、いいなこの関係。


 社会が崩壊したこの世界で、仲睦まじい少年と少女が頑張っている。そんな姿を見て、私は改めて思う。


 この世界に残っていて、良かった、と。




     ◇           ◇           ◇    



”さぁ始まりました、『松波ハッパのバルサンラジオ』夜の部。今回も私とリポーターの三人でお送りします……が、その前に、もうひとり(・・・・・)


 がたがたがたっ!!


 夜の部の放送に備えて待機していた私達三人がその言葉に、思わずラジオに向かって踏み出して耳をそばだてる!


”何と、あのUFOの町、石川県羽咋(はくい)市から、この放送を聞いた方が駆け付けてくれましたあぁぁぁぁぁーっ!!”


「っしゃあぁぁぁぁぁ!」

「やった、やった、やったー」

「キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!」

 思わずガッツポーズ、そしてハイタッチを交わす。なんと、放送初日から早くも一人、世界に生き残っている人が出て来てくれたのだ!


「羽咋市! 僕が松波さんと機械の設置の練習に行ったとこです、聞いてくれたんだ!」


”それでは、羽田杏実(はねだあずみ)さん、どうぞっ!”


 女の人だ。さぁ、その声を聞かせてくれ、未だこの世界に居る……



”今、人類を飲み込んでいるこの窓枠は宇宙人の仕業(・・・・・・)です! 奴らが人間を捕獲するために現れた、ホイホイとはよく言ったものです! みなさん、宇宙人はすぐ側にいます、宇宙人の誘惑に負けてはいけません! 我々地球人は……”


「「「……」」」


 あー、ちょっと残念な人だったか。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


地球「ちょっとまてこらあぁぁぁぁぁぁ!」


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