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にんげんホイホイ  作者: 素通り寺(ストーリーテラー)
第一章 人間が消えた世界で
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第十四話 ラジオ


「お待たせしましたー」

 私とヒカル君がお風呂に入っている間、くろりんちゃんが夕食の準備を始めてくれていて、風呂上がりの湯冷ましがほどよい具合になった所で持ってきてくれた。うん、できた娘だなぁ。


「ふふ、コンロ使うの久しぶりでしたから、なんか張り切っちゃった」

 笑顔でそう言ってヒカル君の隣に座るくろりんちゃん、なんかさっきの件からかヒカル君に対して距離が近くなっている気がする……鼻血を吹いた事から草食系男子と甘く見ているのだろうか、不純異性行為にならないよう目を光らせておくべきだな。


「ど、どうも」

 逆にヒカル君は全裸を見て意識しちゃったのか、くろりんちゃんに対してちょっと尻込み気味だ。小学生女子にぐいぐい迫られて照れながら目を反らしてる様はなんとも微笑ましいが、それでいいのか?


 ちなみにメニューはレトルトの親子丼なのだが、彼女はわざわざ温めなおしてネギや調味料を絡めて贅沢な味に仕上げてきてくれた。うん、美味しい。

「うわ、すっご。これがレトルト?」

「ふっふーん♪」

 驚き顔のヒカル君に褒められて上機嫌のくろりんちゃん。ヒカル君にとっては普段食べなれているレトルトとは格段に違う味に驚いたようだ、ずっと一人暮らしならなおさらだろう。


 あ、あれ? そういえば……


「ヒカル君、君のご両親が亡くなったのは四年前、十歳の時だったよね。それからずっと一人で?」

「あ、はい。施設への転居を進められたんですけど、ここを離れたくなくて。親戚のおばさんに一応の保護者になってもらってたんです。まぁあの人は大阪ですし、ここにはたまに来るだけでしたけど」


 そうか、もう四年もほぼ一人ぼっちで暮してきたのか。それで培われた生活力も、「にんげんホイホイ」に入らずに居られた理由なんだろうな。


「そのおばさんは?」

「一度見に行ったけど、ホイホイの中でパチンコしてました。大勝ちして大笑いしてましたよ」

「欲の無いのか欲張りなのか、よくわからないですねぇ」

 確かにくろりんちゃんの言う通り、お金が欲しいならわざわざパチンコで勝たなくても、ホイホイの中に大金が現れるはずだ。このへんいかにも大阪のおばちゃんらしい。


 食後、洗い物を済ませた後で私と二人が真面目な顔で向かい合う。


「じゃあ、ヒカル君も一緒に来る、でいいんだね」

「はい!」

 方針は決まった。ここで暮らしていくにも不自由はなさそうだが、彼もまた一緒に旅をすることになった。未だこの世界に残っている人を探す、当てのない旅に。


「じゃあ改めて、ふたりに約束してほしいことがある。まず危険なことはしないこと!今は病院なんてやってないからね」

 一応ドラッグストアに寄れば薬は手に入るが、それでも適切な処置が出来るとは限らない。病気なら致し方ないが怪我で動けなくなったら一大事だ。

「は、はいっ!」

 金閣寺の屋根に登ったヒカル君がバツが悪そうに返事をする。くろりんちゃんはクスクス笑いながらも「うん」と頷く。


「あと、ホイホイの中に入りたくなったら、まず全員に相談する事。勝手に入っちゃうのは禁止、いいね」

「湊さんも、ね」

 くろりんちゃんにスッパリ返されてしまった。彼女に会う直前に誘惑に負けて入りそうになっちゃったんだった。両手を上げて「はいはーい」と反省の意を示す。


 まぁこれだけ約束していたら大丈夫だろう。本当は不純異性行為にも釘を刺しておきたいけれど、変に意識させたら逆効果かもしれないので黙っておく。


「あと、ひとつだけ。えっと、私も『ヒカル君』って呼んでもいいですか?」

 くろりんちゃんのその提案に赤い顔を背けながら「え、いや、それはちょっと」と返す彼。話を聞くに同じ年頃の人に名前をフルの「ヒカル」で呼ばれると色々とイジられるので嫌だそうだ。

 だったらあだ名で呼びあったらどうかな? との私の提案により、お互いを「クロちゃん」「ヒカ君」と呼び合う事になった。いいねぇこういう子供っぽさは。


 その夜はそれで就寝し、翌朝もくろりんちゃんの用意した朝食を頂いて出立の準備をする。うーん、食事の負担がちょっと彼女にかかり過ぎているなぁ。

「湊さんは運転があるんですから、食事は任せて下さい」

 むん、とガッツポーズを作って笑顔でそう返されると流石に何も言えない。ならヒカル君の担当も今後何か考えるべきだろう。


 そんな話を彼にしたところ、自室から大量の音楽CDを持って来た。旅のお供にどうですか? との提案に私もくろりんちゃんも大賛成。車での長旅は退屈と眠気が

最大の敵なのでこれは本当に有り難い。


 道中は半分カラオケ大会と化していた。基本アニメソングばっかりなのだが、私でも知っている古いアニメに使われた懐メロや、くろりんちゃんの好きそうな女の子向けアニメの主題歌もしっかりとチョイスしてくれている。

 あとヒカル君、歌ものすごい上手なんだけど……。


 実に久しぶりに、みんな笑いながら歌って、楽しい時間を過ごせた。


 カラオケ効果は抜群だったようで、気が付いたら石川県、金沢市内を走っていた。眠気にも疲れにも無縁のままここまで来られるとは、ヒカル君に感謝だなこれは。


「さて、ちょっと人の気配を探りながら走るから、一度CDを切るよ」

 ここ石川県にも、あの匿名掲示板に生存報告を書き込んでいる人が居た。なので時折クラクションを鳴らして、誰かが出てこないか待ってみるという人の探し方を再開しようかと思う。


 CDの停止ボタンを押したと思ったら、スピーカーから激しい雑音が鳴り響いた。

「ありゃ、ラジオ入れちゃったか」

 周波数が徳島用に合わせてあるので金沢で放送が入るはずもないし、そもそも今の世界でラジオ局なんか動いてるはずはない。


 動いてるはずはない……はず、だ。


 私は周波数を自動検索するボタンを長押しした。無駄だとは思う、だけど、もしかしたら、ひょっとして、という思いを捨てきれずに。


 ザザ、というキャッチ音と共に周波数表示が止まる。そして、その後に聞こえて来たのは……




――ハイ! 誰か聞いてるかな? こちら百万石ラジオ、DJのグリーングリ-ンでーっす!――


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