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職業に貴賎なし

「ちょっと…」

「着いたよ」


 雪なんか降らないけど、それでも十分に空気は華やか。

 街の灯りもきれいに輝く中、私が連れて来られたのは、私がしょっちゅう行くイタリアンレストラン。


 もちろん、クリスマスのディナーにふさわしいような高いお店じゃない。


 と言うか、私のバイト先。


 そこいらへんの大学二年生が入るのにふさわしいような、一食ワンコイン未満の。




 そして私を連れて来たイケメンははっきりと言った。




「キミにとって大事な大事な仕事を預けられる存在なんだろ?そういう存在こそキミには相応しいとボクは思うんだよ」

「え、っと……」

「じゃあな」




 その一言と共に、清藤歩さんは走り去って行った。


 残されたのは私と、大口を開けている同僚たちと、お客さまたち。中にはスマホをかざして撮ってる奴までいる。見世物じゃないんだけど!


 っつーか店長も店長で何ボーっとしてるの!


 それに何より何なの、この野暮フリーター男は!!大口を開けちゃってみっともないったらありゃしない!


「私、今年いっぱいでここやめさせてもらいます!」


 私はそう啖呵を切った。

 そしたら少しは気持ちが軽くなって、それと同時に怒りのベクトルが別方向に向いた。

 思いっきりなじってやろうと思ってそのベクトルの先にいた男に電話したけど、当然のように着拒状態。追いかけようにも私がポカーンとしている間にとっくに走り去って行った。


「あの、それで……」

「……」


 そんな私に惨めったらしく声をかけて来る人見とかって男。

 

 そうよ!こいつのせいで私はフラれたの!


 でもここでこれ以上怒鳴ろうにも、スマホと言う名の眼がこっちを見ている。

 私は結局、すごすごと去る事しかできなかった。





 で、たっぷりクリスマスの夜の空気で頭を冷やしながら寂しく電車に乗ってサラリーマンサマとご一緒になると、また怒りが湧いて来る。


 何よ、あんなに殊勝ぶって!


 あんなのお題目じゃないの!


 本当、よく考えてみればどっちも四捨五入すればアラサーな男二人のせいで!


 片やベンチャー企業の社長の二十七歳で片や漫画家って有り得ない夢にしがみついているフリーター二十五歳?私に言わせればどっちも同じよ!

 本当、ここにいるオッサン連中も何らかの仕事を抱えてたんでしょうけどね、本当、バカバカしい!いやバカバカしくない人間の方が多いけど、中にはしょうもない人間だっているはずよ、あの二人のように!


 私は結局、クリぼっちとして一人酒を呑んで過ごした。


 まったく、何が職業に貴賎なしよ!


 フリーターはフリーターであり、バイトはバイトであり、社長は社長じゃないの!


 ったく私、なんであんな事言っちゃったんだろう!って言うか何が悪いの!




「クリスマスデートだからバイト代わって~」


 なんて!

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