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閻魔様のほっこりご飯~冥土で癒しの料理を作ります~  作者: 小花はな
九品目 カレーライス

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48/52

最終話 そしてまた、冥土へ帰る



 初めて閻魔様たちにカレーライスを振舞った時の反応は、三者三様で本当に面白かった。



「我が家のカレー。作り方はとっても簡単なのよね」



 大きめに切ったじゃがいもとにんじん、それにみじん切りにした玉ねぎとひき肉を炒めて、水と市販のルーを加えて煮込むだけだ。

 そこに難しい技法やコツは一切なく、誰が作っても熱々の白ご飯にかければ美味しい、ちょっぴり反則なメニューである。



「んんっ、なんか鼻にツンとくるアカ」


「玉ねぎのツンとは違う、ピリピリした感じアオ」


「台所の匂いが食堂(ここ)にまでハッキリ伝わるとは……。カレーライスというのはなんともまぁ、主張の強い料理なのだな」



 茜と葵。それに閻魔様までも、ツンと鼻につくなんとも言えないスパイシーな香りに、ソワソワしていたっけ――……。



「はい、お待ちどうさま! これがカレーライスよ! 彩りに焼き野菜もトッピングしてみたから、ルーと一緒に食べてね!」


「…………」



 いつもの食堂の机で出来上がりを待っていた三人の前にドンっ! とお皿を置けば、しばし誰もが言葉を発さず、じっと湯気をたてるカレーライスを見つめている。



「……やっぱり見た目に圧倒される? 食べたくない?」



 しゅんとしてわたしがそう言うと、即座に三人が首を横に振った。



「いや、違うんだ桃花! 決して君が作ったものが食べられない訳じゃない! ただ、少し心の準備をしていただけだ!」


「そうだアカ! 見た目がなんか見覚えのある物体に似てたから、つい言葉を失ってしまっただけアカ!」


「茜っ! 見覚えのある物体って何アオ! こんな時に変なこと言うんじゃないアオ!!」


「はぁ!? オイラは別に何も言ってないアカ!! 葵こそ何を想像してるアカ!?」


「何って、そりゃ――」


「茜、葵」



 静かに、しかし隠せていない怒りを露わに、閻魔様が二人の名を呼ぶ。

 その瞬間、食堂の中が一気に氷点下になったかのように冷え込んだ。



「すっ、すみません閻魔様アカ! 罰として、ぶったい……じゃない! カレーライス食べますアカ!!」


「オイラも食べますアオ!!」


「あ」



 なんかいつの間にか罰ゲーム扱いされてて釈然としないが、ついに茜と葵がカレーライスを掻き込む。



「「……お?」」



 すると二人一緒に目を見開き、そして――。



「「おおお! これがカレーライス! まろやかなのに後から辛さがきて美味いアカ(アオ)!!」


「よかった! でしょ? 美味しいわよね! それがカレーの醍醐味なのよ! 辛さはどう? とりあえず家の基準にしてみたけれど、もっと辛くも甘くも出来るわよ?」


「ならオイラはもっと辛いのが食べてみたいアカ!」


「えー? もっと辛いのはさすがに汗だくになるアオ。 オイラはこれくらいの辛さがちょうどいいアオ」


「お前たちはどうやら辛いものが好きだったのだな。これも十分美味いが、私はもう少し甘みがある方がいい気がするが……」



 茜と葵に注目していて気づかなかったが、どうやら閻魔様もカレーライスを食べていたらしい。

 また一口、パクリと食べて、考え込んでいる。



「どうやら全員、辛さの好みが違うのね。……分かったわ!」



 そんな訳でこの日以降、カレーを作る時にはそれぞれの好みに合わせ、辛さもわけて作っている。

 茜が辛口、葵が中辛。そしてやっぱり閻魔様は甘口である。牛乳寒天然り、閻魔様って甘党なのよね。デザートにと作っておいた杏仁豆腐の方が、カレーライスよりお気に召していたのもご愛嬌だ。



「桃花、別に無理に全員の好み合わせようとしなくていいんだよ。桃花の料理はそのままで充分美味しいんだから。わけて作るのは手間だろう?」



 それぞれ煮込んだ具材を小鍋に移し、辛さを変えて作っているのを見て、閻魔様にそう言われたことがあった。

 確かに手間じゃないと言えば、嘘になる。



「――でもね、閻魔様」



 もう冥土に居られない。みんなにはもう会えないのだと覚悟した時の、身を引き裂かれるような辛さを思えば、これくらいどうってことない。

 寧ろこうやってお料理を通じてみんなの新たな一面を知ることが出来るということは、とても幸せなことなのだと心から思うのだ。



 ◇◆◇◆◇



「はぁ、重……」



 飛び込んだお寺の井戸から降り立ち、現世と冥土を繋ぐ鬼火で照らされた不思議なトンネルをのんびりと歩きながら、わたしは背中にずっしりと重みを感じるリュックをまた担ぎ直す。



「やっぱりさすがに買い込み過ぎってみんな呆れるかしら? でも小鬼たちってみんな大食漢だし、絶対この量でも一回で食べ切っちゃうと思うのよね」



 ――そうそう、わたしが現世と冥土を毎週末に行き来するようになって三年。実はその間に、冥土はとても大きく変わったことがあった。

 それはかつて冥土を去った閻魔様の眷属達が、少しずつ戻り始めているということ。



「オイラたちの裁判官としての活躍が高天原の新聞で一面に取り上げられたアカ」


「高天原の新聞の購読率はほぼ百パーセント。聞きつけた元掃除担当や料理担当の眷属達が、冥土に帰って来てるアオ」



 そんな眷属達の人数はわたしが冥土に行く度に増えていて、いつかきっと、かつて賑わっていたという冥土に完全に戻る日も近いのかも知れない……なんて思っている。



「ふわぁっ! 着いた!」



 トンネルを抜け、ガバッと井戸の底から顔を出して空を見上げれば、現世と同じ夕暮れ時の赤い太陽が目に入った。

 それを井戸に留まったままぼんやりと眺めていると、すぐに見知った顔ぶれがわたしへと手を差し伸べてくる。



「おー桃花、おかえりだアカ!」


「おかえりー桃花! 一週間ぶりだけど、相変わらず元気そうだなアオ!」


「ただいま茜、葵! あなた達こそ元気そうでよかったわ! 裁判の方は調子どう? 頑張ってるの?」


「もちろん、言われるまでもなく頑張ってるアカ!」



 軽口を言い合いながら二人の手をそれぞれ掴めば、大荷物を背負っているわたしの体は、軽々と井戸から外へと引っ張り上げられた。

 それぞれ赤髪と青髪のてっぺんに鋭い一本角を生やし、髪と同じ赤と青の道服を着こなす二人は、見た目も中学生から高校生ぐらいに成長し、もうすっかり立派な冥土の裁判官といった風格だ。



「よしっ! 桃花も来たし、今夜は宴にするアオ! 桃花も酒飲むだろアオ?」


「ええ! わたしも二十歳になったし、喜んでお付き合いするわよ!」



 ――そうやってひときしり、二人との一週間ぶりの再会を楽しんでいると、



「あー! 桃花さまだー!」


「桃花さまー! 桃花さまー!」



 わたし達の騒がしい声を聞きつけて、こちらへたくさんの小さな影(・・・・)がわらわらと駆けて来る。

 それは黄、緑、橙……。色とりどりの肌をした、可愛らしいゆるふわマスコットのような小鬼たちだ。



「桃花さまー、美味しいものちょーだーい!」


「ちょーだーい!」



 そう、この子たちこそが、かつて閻魔様の眷属だった子たち。

 冥土の戻って来て以来、わたしの料理をすっかり気に入ってしまったらしく、こうやって顔を合わせる度にご飯をねだってくる。



「こらお前たち! いきなり飯をねだるなんて行儀が悪いアカ!」


「まずは〝おかえり〟が先だろアオ!」



 わたしにまとわりつく小鬼たちに、茜と葵が注意する。その姿はもうすっかり眷属達のまとめ役だ。

 ますます大きくなっちゃったなぁ……。なんて、まるで親みたいな心境で感じ入っていると、



「――ほぉ、これはまたすごい大荷物だな」




 宮殿の方からクスクスと楽しそうな笑い声がして、わたしを囲んでいた小鬼たちが、自然とその声の人物の為に道を開ける。



「今日は一体どれだけ買い込んだんだい?」



 そうして現れたのは、この冥土の(あるじ)であり、冥土の裁判を取り仕切る神――閻魔様その人だ。

 絹のようにサラサラと長い銀髪に紅い瞳。まるで物語の世界の住人かのようにあまりにも美しいその人は、しかししっかりとわたしを見て、花がほころぶように微笑み両腕を差し伸べる。



「おかえり、桃花」



 もうすっかり当たり前となったその言葉に、わたしはありったけの笑顔を浮かべて、閻魔様の胸に飛び込んだ。



「――ただいま、閻魔様!!」



 ◇◆◇◆◇



 いつかわたしも本当に三途の川より運ばれ、冥土でこの人に裁かれる日は来るだろう。


 けれどそれは怖くなんかない。


 だってきっと〝その時〟を迎えるまでに、たくさんの思い出を現世で、冥土で、作っていくのだから。


 その時に胸を張って幸せな人生だったと閻魔様に言いたいから――……。



 だからわたしは命続く限り、またこの場所へと帰るのだ。




 =カレーライス・了=



最後まで読んでくださり本当にありがとうございます!

連載始めて1ヶ月ちょっと。無事に考えていた結末まで辿り着くことが出来ました。

読んでくださる方もほっこりするようなお話を目指しましたが、いかがでしたでしょうか?

よろしければ作品の感想やブックマーク、評価を(↓下の☆をタップです)くださると大変喜びます。

どうかよろしくお願いします!


また桃花や冥土のその後の様子も書きたいなと妄想中ですので、更新した際はぜひ読みに来てくださると嬉しいです。

それではここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!

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