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閻魔様のほっこりご飯~冥土で癒しの料理を作ります~  作者: 小花はな
六品目 卵がゆ

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二十五話 波乱



「「閻魔様が……! 閻魔様がお倒れになったんだアカ(アオ)!!」」


「えっ……!?」



 飛び込むようにして部屋に入ってた来た茜と葵。そして発せられた言葉に頭が着いて行けず、わたしは固まる。



「今朝裁判所に向かう途中に、急に体調を崩されたんだアカ!」


「体調不良で裁判を中止にするのは、冥土始まって以来の事態だアオ!」


「閻魔様は今どこにいるの!?」


「ご自分のお部屋で休まれているアカ」


「すっごい高熱で苦しそうアオ」


「そんな……」



 もしかして昨晩の牛乳寒天が原因なのだろうか? 

 一千年振りにものを口にして、体がビックリしたとか?

 


「それとも……」



 わたしに付き合って長時間冷えた渡り廊下にいたせいかも知れない。しかもわたしが途中で寝ちゃったから、閻魔様に余計な手間をかけてしまったし……。



「…………っ」



 どんどんと浮かんでくる自分の失態に、後悔の念が押し寄せてくる。

 でも……、



「桃花、閻魔様はどうなってしまうアカ……?」


「こんなこと初めてで、オイラたちどうしたらいいアオ……」


「茜、葵……」



 不安気にこちらを見つめる茜と葵を前にして、わたしまで落ち込んではいられない。そんなことをしていても閻魔様は良くならない。

 わたしは、わたしの出来ることをしなければ……!



「……熱があるなら冷やさないといけないわ」


「桃花?」


「茜はありったけの氷を台所から持ってきて! 葵は閻魔様のお部屋までわたしを案内して!」


「あの、桃花」


「閻魔様の緊急事態でしょ! 早く!!」


「わ、分かったアカ!! 氷は任せるアカ!!」



 いきなりテキパキと指示を出したわたしに、二匹は戸惑ったように互いに目を見合わせていたが、再度叫ぶと茜は弾かれたように台所へと走って行った。



「桃花、閻魔様のお部屋はこっちだアオ!」


「うんっ!!」



 葵がわたしの手をぐっと引くのに頷いて、わたし達は閻魔様のお部屋へと急いだ。



〝――どうか閻魔様に何事もありませんように〟



 わたしは心の中でそう祈った。



 ◇◆◇◆◇



「わぁ、ここが閻魔様のお部屋……。もっと豪華でキラキラしているのかと思ったら、かなり普通なのね」


「閻魔様は華美なものは落ち着かないとよく言っているアオ。ここは居間で、奥に繋がっている部屋が寝室になっているアオ」


「そっか。なんか分かるかも」



 閻魔様のお部屋は、宮殿の最も奥まった場所にあった。冥土の主のお部屋なのだからきっと中はさぞ豪華絢爛なのかと想像していたが、拍子抜けするほど内装はとてもシンプルな和室で、飾り気のない木の家具でまとめられてる。

 自分自身がとても華やかな見た目をしている閻魔様だけど、派手なものをあまり好まない性質というのはすごく納得できた。


 ――だって、


 そんな人でなければ、わたしの作った素朴な牛乳寒天など、気に入ってはくれなかっただろうから。



「閻魔様、葵です。桃花も一緒にいますアオ。お加減はどうですかアオ?」


「――ああ、葵に、桃花もか。私は問題ない。入ってきなさい」



 葵が寝室に続く襖を前に閻魔様へと声を掛ける。すると幾分か掠れてはいるが、思ったよりもしっかりとした閻魔様の声が聞こえてきた。



「? 問題ない(・・・・)?」


「うーんアオ」



 小鬼たちから倒れたと聞いたのに、不思議な言い回し。

 なんだか不穏な予感に、わたしと葵は顔を見合わせる。



「……えっと、じゃあお言葉に甘えて。閻魔様、失礼しますね」


「失礼しますアオ」



 葵がそっと(ふすま)を開き、先に寝室の中へと入る。わたしは緊張で少しドキドキとしながら、その後ろを着いて行く。



「ああいらっしゃい、桃花。葵たちが大袈裟に騒いだようで、余計な心配を君にも掛けてしまったね」


「え……」



 するとてっきり布団で寝ていると思っていた閻魔様が、衣装箪笥の前で今まさに道服に着替え終えたというような感じで立っていて、わたしも葵もギョッと目を見開いた。

 まさかついさっき倒れたというのに、裁判に行くつもり……!?



「閻魔様!! 熱があるのですから、せめて今日一日だけは安静にしててくださいだアオ!!」


「そ、そうですよ閻魔様!! 具合が悪いのに無理すると治るものも治らず、ますます悪くなってしますよ!!」


「ははは、葵も桃花も心配し過ぎだ」



 よっぽどわたし達が酷い顔をしていたのか、閻魔様が困ったように苦笑した。

 その顔色は元々色白な人だったが、今はより一層に青白くなって見える。絶対に問題がない訳がない。



「なに、少し調子を崩しただけだ。さっき布団で休んだらだいぶ回復してきた。本当にそんなに心配されるほど大したことではない」


「閻魔様!」


「――それに、何があろうと裁判に穴は決して開けられない。今この時も裁判を待つ人間たちは増え続けているのだから」


「…………っ!」



 青白い顔をしているのに、まとう存在感は圧倒的で、力強い言葉に思わず気圧される。

 閻魔様の自らの仕事に懸ける信念。それが痛いほどに伝わってくる。でも……。



「でもっ!!」


「葵、私は裁判所に向かう。茜と共に宮と桃花のことは頼んだよ。いいね?」


「…………はい。承知致しました、閻魔様だアオ」


「っ!? 葵!?」



 こんな状態の閻魔様を、本気で裁判所に行かせる気!?

 閻魔様の言葉を受けてあっさりと引き下がる葵を信じられず見つめれば、その表情はとても悔しそうに歪んでいるのに気づいた。



「葵……」



 やっぱり閻魔様の決定を心から納得した訳ではないのね。



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