十八話 炊きたて!たけのこご飯(2)
「さて」
筍ご飯は炊飯器に託したが、次に考えないといけないのはご飯以外の料理だ。
やはりせっかくの立派な筍なのだし、まるまる一本美味しく使い切りたい。
「うーんそうねぇ……、残った筍は昆布と炊き合わせにしようかしら。あとはお吸い物もあると最高よね」
そうと決まれば早い。筍ご飯の炊き上がりを待つ間に、筍と昆布を出汁と酒で煮込んでパパッと炊き合わせを作ってしまう。炊き合わせには筍の根本の硬い部分を使ったが、硬い根もじっくりと煮ることで、柔らかく味が染みてこれまた美味しいのだ。
それに筍の穂先を使ったお吸い物も手早く仕上げる。
「おい、桃花! 米が炊けたアカ!」
「湯気からものすごく良い匂いがしているアオ!」
「おっ、出来たか! どれどれ?」
お吸い物が出来上がったところで、ちょうど筍ご飯も炊き上がったようで、わたしを急かす二匹に苦笑しながらも炊飯器の蓋を開く。
「「おおーっ!!」」
真横で調理台から身を乗り出して炊飯器の中を覗いていた茜と葵が、歓声を上げて目を輝かせた。
「米が見事に黄金色になってるアカ! しかもものすごくいい香りが漂ってくるアカ!」
「なんだかオイラ、この見た目と匂いだけでもう涎が止まらないアオ!」
「よしよし、いい感じね」
出汁がしっかり染み込んだツヤツヤの黄金色のお米に、たっぷりの筍と油揚げ。かき混ぜれば底がいい感じにお焦げになっていて、これもまた炊き込みご飯の醍醐味である。
「茜と葵はどれくらい?」
「「たくさん!!」」
「ふふ、了解」
三人分のお茶碗に炊き立ての筍ご飯をたっぷり盛って、炊き合わせとお吸い物もつければ、最高に豪華な朝ご飯の完成だ!
「名付けて、〝筍朝御膳〟ってところかしらね。ふふふ、我ながらめちゃくちゃ美味しそうに出来たわ」
「名前なんかいいから早く食べたいアカ!」
「早く食堂に運ぶアオ!」
「……はぁ、情緒もへったくれもあったもんじゃないわね。別にいいけど」
最早毎度のことながら、急かす二匹に苦笑して食堂へと移動する。
そしてすっかり定位置となった小鬼たちと向かい合わせの席に着くと、みんなで行儀よく手を合わせで合掌だ。
「「「いただきます」」」
言うが早いか、茜と葵は一気に筍ご飯をかき込んだ。口いっぱいに詰め込んで、膨らんだ頬をもごもごさせると、二匹の表情が爛々と煌めいていく。
「なんだこれ! 筍がシャキシャキでうめぇアカ!!」
「米も白米と違って味がついてるアオ! これなら米だけで何杯もいけるんだアオ!!」
「でしょでしょ? 癖になるくらい美味しいでしょ? 筍ご飯は虜になる人がいるくらい、炊き込みご飯の中でも中毒性の高い悪魔的な人気メニューなのよね。春の短い時期しか食べられない筍ご飯に、まさか冥土でありつけるなんて思わなかったわ」
わたしもぱくりと一口食べると、筍の芳醇な香りが口いっぱいに広がった。ああやっぱり、筍ご飯って最高!
特にわたしはこの具に味がしっかりついている筍ご飯が、きっと好みだったのよね。この筍ご飯を食べると懐かしいというか、しっくりと舌に馴染む感覚がある。
「桃花、おかわりアカ!!」
「あ、茜ズルいアオ! 桃花、オイラもおかわりアオ!!」
「はいはい。たくさん炊いたから、慌てて食べなくてもいいわよ」
おかわりが無くなることを危惧して、茶碗の中の筍ご飯をかき込む二匹に苦笑する。
しかしあれだけたくさん炊いたはずの筍ご飯は、盛っても盛っても衰えない茜と葵の底なしの胃袋によって全て収まり、すぐさま空となってしまったのだ。
「ああ、もう無くなっちゃったアオ」
「桃花、また筍ご飯作ってくれアカ」
「……まぁ、また筍が手に入ったらね」
どうやら例に漏れず、二匹もすっかり筍ご飯の虜になってしまったようだ。
ちょっとビックリするくらいの食欲だが、幸せそうにお腹をさする小鬼たちを見て、なんだかこっちまで嬉しくなる。
「あーでもわたしもお腹いっぱい! ごちそうさま。ねぇ、茜と葵はこの後は何をするの? お掃除の続き?」
「いや、掃除はあらかた終わったし、この後は庭園にあるひょうたん池の鯉の餌やりだアカ」
「桃花も来るかアオ?」
「えっ、池!? 行く行く! わたしも餌やりしてみたいわ!」
そういえば落ち葉を綺麗に取り除くのに夢中で気にしていなかったが、庭園の真ん中にはひょうたん型の池があって、そこにはたくさんの鯉が泳いでいたのだ。
わたしがウキウキと頷くと、葵が勢いよく畳から立ち上がる。
「よしっ! そうと決まれば、すぐに池に向かうアオ!」
「馬鹿者、葵。まずは台所の片付けが先アカ。お前は本当にいつも目の前のことが見えていないアカ」
「はぁ!? 別にオイラだって忘れてた訳じゃないアオ! 茜が細かいことでいちいち揚げ足取りなんだアオ!」
「なんだとアカ!?」
「はいはい、落ち着いて。ほら早く庭に行けるように食器を持って! 台所に行くわよ!」
一触即発といった雰囲気の二匹を宥め、台所へと誘導する。まったく、掃除の件で見直したのに、こういうところは子どもみたいなんだから。
「茜、洗い方が雑だアオ。オイラの方が皿洗い上手だアオ」
「バカ言えアカ! どう見てもオイラの皿の方が葵のよりピカピカだアカ!」
「……まだやってる」
ぎゃいぎゃいと騒がしい声に溜息をついて、わたしも台所へと向かった。
――そうして片づけを終えた後、わたし達はピカピカになった渡り廊下を通って、庭園へと向かうのだった。




