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閻魔様のほっこりご飯~冥土で癒しの料理を作ります~  作者: 小花はな
四品目 たけのこご飯

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十六話 冥土の朝は早い(2)



 掃除は茜と葵の指示の下、渡り廊下の水拭きから始まった。

 最初は意気揚々と動き回っていたのだが、これが想像以上に重労働だったのだ。



「あーやっと終わった。疲れたぁ……。どっか座りたい」



 すっかりヘトヘトになったわたしは、庭園の左端にある木蓋(きぶた)でフタのされている古井戸にどっかりと腰掛けて、肩にかけていた手ぬぐいで額の汗を拭った。

 ずっと動いていたせいで、背中まで汗でぐっしょりと濡れている。



「ふぃー、やっと座れた。さすがに足腰が痛い」



 渡り廊下の水拭きの次に小鬼たちに命じられたのが、庭園の掃き掃除だった。

 宮殿の庭園は日本調で、窓から見下ろした時も思ったが、見ている分にはとても美しい。


 ――そう、見ている分には(・・・・・・・)


 広大な庭に落ちた葉を一枚残らず取り除く作業は、さすがに骨が折れた。



「もうしばらく葉っぱは見たくないわね。ていうかこんな重労働、茜と葵は毎日してたって訳?」



 思えばこの庭園も宮殿もビックリするくらいピカピカだった。たった二匹しかいないというのに、閻魔様が快適に過ごす為とはいえ凄すぎやしないだろうか?

 わたしは小鬼たちへの印象を改めなければいけないかも知れない。



「はー、しかししんどい。喉も渇いたわ」


「「おーいっ、桃花!」」


「ん?」



 古井戸に腰掛けたまま深い溜息をつき、(したた)る汗を拭っていると、後ろから名前を呼ばれる。



「あ。茜、葵」



 振り返ればわたしと別れて風呂掃除をしていた、茜と葵がこちらへと歩いて来るのが見えた。

 手には掃除道具ではなくやかんを持っているが、掃除は終わったのだろうか?



「おおー! 落ち葉一つないアカ! お疲れ様だったなアカ!」


「でしょー!? わたしめっちゃ頑張ったんだから! 茜もお疲れ様。お風呂場は綺麗になった?」


「おう! もちろん鏡と見紛うくらいピカピカに磨き上げておいたアカ! なんなら桃花も朝風呂入ってもいいぞアカ」


「えっ、ほんとに!? すっごく汗かいたし、それは嬉しいわ!」


「ほら桃花、冷たい麦茶だ。飲めアオ」


「わぁ助かるー! ちょうど喉カラッカラだったの! ありがと、葵」



 葵が手に持っていたやかんから麦茶を湯呑みに注いで渡してくれる。



「ごくっ、ごくっ、ぷはぁ!!」



 それを勢いよく飲み干せば、労働で火照った体が一気に冷やされていくのを感じた。

 やっぱり動いて汗をかいた時はキンキンの麦茶に限るわよね!



「ん~元気回復!! ちょうどいい具合にお腹もぺこぺこだわ。お風呂入ったら朝ご飯作るわね! 何がいいかしら?」



 古井戸に座ったまま伸びをしてわたしがそう言うと、茜と葵がしらっとした表情でこちらを見ていた。



「……何よ、その目は」


「いや別に取り留めのないことだが、お前の食い意地は相変わらずだなアカ」


「桃花の頭の中は食べることしかないのかアオ?」


「だ、だって動いたらお腹が空くじゃない!? それなら茜と葵は朝ご飯抜きでいいのね!?」



 冷静な指摘になんだか恥ずかしくなってきてツンとしてそう言うと、途端に茜と葵が慌て出した。



「ちっ、違うアカ! そうは言ってないアカ!」


「オイラたちだってお腹ぺこぺこアオ! 桃花の料理が早く食べたいアオ!」


「むぅ……、なんか調子いいわね。まぁいいわ、サクッとお風呂入ってくるから待ってなさ、いっ!?」



 言って立ち上がろうとした瞬間、座っていた木蓋がミシッと嫌な音を立て割れ、その衝撃でバランスを崩したわたしの体は古井戸へと吸い込まれるように傾いた。



「ええぇ!!?」


「「桃花!!!」」



 そのまま井戸に真っ逆さまから思ったが、しかし間一髪、茜と葵がわたしの両腕をそれぞれガシッと掴んでくれて、わたしは古井戸へと落ちずに済んだ。



「え、えぇぇ……」



 あまりのことにバクバクと心臓が音を立て、わたしはその場にずるずるとへたり込む。



「びっ……、びっくりしたぁぁ! ありがとう、茜、葵。心臓が止まるかと思ったぁ。……ん? 冥土にいるのに心臓って、なんか変な言い回し??」


「はぁ、何とぼけたこと言ってるんだアカ。井戸になんて座ってるからこんなことになるアカ」


「まぁ怪我がなくて良かったアオ。助けたんだがら朝飯は豪華なのがいいアオ!」


「そうだアカ。うんと豪勢なのを頼むアカ!」


「もう、ちゃっかりしてるんだから……」



 食い意地が張ってるのはどっちだと思うが、けれど二匹ともわたしを気遣って心配してくれているのはもう分かっている。わたしは苦笑して、頷いた。



「もちろん分かってるわ。うんと豪華なのを作ってあげる! ……けどごめんなさい、木蓋壊しちゃったわ」


「まぁそれはだいぶ古ぼけていたみたいだから気にするなアカ。新しいのをすぐに用意しとくアカ」


「昔は頻繁にお使いになっていたけど、今じゃ〝冥土通いの井戸〟なんて名ばかりになってしまったアオ」


「?」



 はぁ……。と、古井戸を見て小さくため息をついた二匹の表情は少し憂いを帯びている。

 冥土通いの井戸ってなんだろう? 

 この井戸、なんか特別な井戸なの?



「ともかく今は飯だアカ!」


「桃花! 早く行くアオ!」


「あ、うん」


 

 気にはなったが、朝ご飯を急かす小鬼たちに腕を腕をぐいぐいと引っ張られ、なんとなく聞きそびれてしまった。また機会があったら聞いてみようか。



「「早く早く!」」


「待って! 引っ張らないでってばぁー!」



 何はともあれ、わたしもお腹がぺこぺこだ。

 気を取り直して、いざ朝ご飯である。



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