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閻魔様のほっこりご飯~冥土で癒しの料理を作ります~  作者: 小花はな
三品目 和風ハンバーグ

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十二話 閻魔様のリクエスト(1)



「はぁー、いいお湯だったー。あんな立派な浴場まであるなんて、やっぱりさすがは閻魔様の宮殿よね。最高の贅沢だわ」



 夜ご飯を終えて、もう夜更け。外はすっかり暗闇に包まれている。

 わたしは小鬼たちの勧めでお風呂に入らせてもらっていた。体の芯までぽかぽかになったわたしの気分は最高。ご機嫌で部屋まで続く小さな鬼火に照らされた渡り廊下をるんるんと歩く。



「それにしても閻魔様。こんな夜更けまで裁判だなんて、本当に忙しいんだなぁ……」



 まだ閻魔様が戻って来てないと小鬼たちから聞いた時、そんな宮殿の主を差し置いてわたしがお風呂を先に頂くのは申し訳ないと遠慮したのだが、



『オイラたちは桃花を丁重にもてなせと閻魔様に言いつかっているアカ』


『閻魔様の顔を立てると思って、オイラたちが毎日ピカピカに磨き上げて沸かしている極上の冥土の風呂をとくと愉しむがいいアオ』


『うう……』



 そう言われてしまえば断れない。そしてその言葉通り、本当に冥土のお風呂は最高だった。


 なにせ宮殿の浴場はとても広く豪華絢爛な造りで、更に驚くべきことに露天風呂まであったのだ。あまりに素晴らし過ぎて、当初あった閻魔様への遠慮もすっかり忘れてついつい長湯して、ゆったりと満喫してしまったくらいだ。

 しかもこちらも広々とした脱衣所には小さめの冷蔵庫が備えつけてあり、中を開けるとお高そうな瓶の牛乳がズラリ。最高の風呂上がりの一杯まで頂いて、至れり尽くせりとはまさにこのことである。



「この浴衣もすっごい可愛いし、お部屋といい、閻魔様ってセンスいいのね」



 わたしはそっと浴衣を身にまとった自身の胸元に手を当てる。

 可愛らしい桃の花の柄をあしらった浴衣。これは閻魔様がずっと白い着物(死に装束とは言いたくない)のままでは不便だろうと、用意してくれたものらしい。

 正直あまりに最高過ぎて、もうここって冥土じゃなくて最早天国じゃない? と、本気で思ったくらいである。



「お礼、ちゃんと言わないとな」



 それもこれも全て閻魔様の計らいのお陰なのだし。裏があるのではとちょっと疑っていたことも含めて、きちんと顔を合わせてお礼を言いたい。



『ところで分かっているな、桃花! 閻魔様に食べる幸せをお教えするのは、お前しかいないんだアカ!!』


『くれぐれもオイラたちの頼み事、忘れるんじゃないアオ!!』


「はぁ……」



 それに例の小鬼たちの厄介な頼まれ事。わたしと入れ違いにお風呂に向かった二匹に釘を刺されたことを頭に浮かべて、溜め息をつく。

 なし崩しに引き受けた感じになってしまった以上、やってみるしかない。こんな夜更けまで帰って来ない閻魔様の多忙さは確かにわたしも心配になるし、お礼を兼ねて何か元気になりそうなものを作るのもいい。



「でも神様って、何食べるの? せめて好きなものとか聞けたらいいけどー。閻魔様とは丸一日会えないこともザラって、茜と葵が言ってたからなぁ……」



 ペタペタと渡り廊下を歩きながら、腕を組んで頭を捻る。

 ……そんな時だった。



「え」



 ふと視線を上げると、わたしの部屋の前に何か人影が見えたのだ。

 それは足を進めるごとにはっきりと人の形になり、やがて藤色の道服から覗く細っそりとした腕が見えて、わたしは息を呑んだ。



「――――っ」



 月明かりでくっきりと照らし出された端正な横顔。そのまるで血のようにその紅い瞳は、真っ直ぐに月を見上げていて――……。



「――桃花」


「!!」



 てっきり気づいていないと思ったのに、名を呼ばれてわたしはビクリと肩が揺れた。



「茜と葵にすっかり世話を任せてしまったが、不自由はしていないかい?」


「あ……」



 月明かりに照らされ、儚げな雰囲気をまとう美貌の人――閻魔様が、彼を見つめたまま呆然と突っ立っているわたしの元へとゆっくりと歩いてくる。



「閻……魔様……」



 ギシっと板張りの床を踏みしめる鈍い音がたち、閻魔様がわたしの目の前に立つ。

 裁判所では座っていたから気づかなかったけど、閻魔様は想像よりもずっと長身で、わたしでは見上げなければ視線が合わない。

 閻魔様の方もそんなわたしに合わせて少し首を傾ける。するとその動きに合わせて、絹のような長い銀髪がサラリと肩から零れ落ちた。



 ――人ならざるもの。



 まさにそんな言葉が似合う、美しいという言葉では収まりきらない圧倒的な存在感。


 これが畏怖(いふ)というものなのだろうか?


 どうしたって見惚れてしまうのに、何故だか恐怖も感じる。

 先ほどまでの小鬼たちとのほのぼのとした雰囲気が、一気に神聖なものへと塗り変わっていくような、そんな心地がした。



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