43話 チリリア下町
チリリアへとたどり着く。
「ほいじゃあ街案内してくるわ。キャス、分身だしといて」
「またさぼりですか」
やれやれと言わんばかりの表情をするキャス。
鎧を脱ぎ始める。
真白い身体がさらけ出される。
その背には翼が生えていた。
「あ、これ?気になる?
蛇種は進化すると竜種とかになれるんだけど
さらに進化分岐でドラゴニュートって種族になれるんだよね。」
さらっと説明される。
それってすごい種族なのではないだろうか。
鎧を脱いだキャスがさらに表皮を脱ぐ。
Tシャツでも拭ぐかの如く自然に。
2回薄皮を脱ぐとその薄皮はたちまち人の形、蛇人種の形に変わり動き出した。
「脱皮分身だ。すごいだろ。声はでないけどな。」
その薄皮はだんだん着色していき本物と見分けがつかないほどになった。
「じゃ、赤羽君失礼」
パルラ王が俺の腕をつかむ。
俺とパルラ王の身体が周囲の色に溶け込んでいく。
「透化ってスキルだ。便利だろ?手を放しても効果が持続するようにしてみた。」
「おお。王、腕をあげましたね」
「だろ?自室で自主練しまくったからな」
「いかがわしい事に使ってません?」
「ハハハ、失礼だな。堂々とどんな女も子作りし放題だわ」
「そうですね、さすが王」
「じゃ、赤羽君の件進めておいて」
「了解しました」
蛇車の扉を素早く開け
他の兵隊にバレないように脱出する。
それについていく。
俺よりも巨体ですごい身のこなしだ。
「透明だけど俺の位置分かるだろ?そういうふうにした」
「はい、なんとなく」
「じゃ、このへんでいいかな。解除っと」
黒い顔が徐々に見えるようになる。
「俺は有名人だから変装するわ」
王の顔・肌の色が変わっていく。
「ほいっと。こんなもんでいいかな。」
まるで別人のようになった王。
「赤羽君も一応顔隠そうか。
フードかぶって猫で顔を巻いて半分隠して。
ニオイはなかなかごまかせないけど。」
小瓶に入ったスプレーをかけられる。
「うわ、生臭いですね。なんですかこれ」
「くせーだろーなー。ここの香水。
ま我慢してくれ。
じゃ、街案内しますかー」
街の屋台街のようなところに入っていく。
不揃いな屋台が入り組んでいて迷路のようになっている。
様々な種類の魚が雑に並べられている。
地面はぬかるみ、油断したら転びそうなほど水分を含んでいる。
街全体が磯臭い、魚臭い、生臭い。
衛生環境は悪そうだ。
カメレオンに蛇、トカゲにワニに亀・・・
様々な爬虫類人族が賑わう。
「チリリアでは爬虫類人は全部リザードマンって扱いだ。
ズージェでは爬虫類も獣もみんな獣人っていうんだろ?
そこらへんが少し認識が違うな、この国では。
リザードマン以外にはこの国は差別的な扱いをするからな。
ま、お国柄ってやつだな。」
パレットが目を輝かせて屋台の魚を見ている。
「お、食ってくかパレちゃん。おう大将、これとこれとこれ、3匹くれ」
王が美味しいかもよく分からない魚を次々と指さし選ぶ。
「お、いらっしゃい。お目が高いね。
今日仕入れたものばかりだ。
それにそれ纏い猫か。いいもん見た。
サービスで猫ちゃん人気のを1匹つけよう。」
「大将太っ腹だな。またくるぜ」
「はいよ、毎度あり」
大小4匹の魚を片手でつかみもらう王。
「これ赤羽のな。人間が食べてもうまいってきくがどうかなー」
生魚を投げ渡される。
「いやこれはさすがに・・・」
「あ、そうか。ほれ火魔法調火」
渡された魚に火が付く。
魚の表面が光っている。持っているのに熱くない。
「食ってみ。」
おそるおそる一口食べる。
うまい。
白身魚だ。
白身がほろほろとほどけて口の中で雪の様に消える。
火がコーティングして魚の脂を封じ込めているのか。
しかも熱くない、絶妙な温度で焼きあがっている。
いやまだ焼いている。
嚙みついた部分がすこしづつ焼けて香りが湧き立つようだ。
あっという間に完食してしまった。
パレットも早々と謎の魚を2匹完食していた。
王は一口で魚の全身を口の中に入れ2.3回嚙むと一気に丸のみにした。
「まーおやつよ、チリリア風の。骨喰わんならそこの川に投げ入れてくれ」
ドブのような川を指さす。
「ポイ捨ては・・って思うんだろ?川の者たちの餌だ。恵んでやってくれ」
川の者?
骨を投げ入れてみる。
ものすごい勢いでバシャバシャと水しぶきがたつ。
複数のなにかが食べている。
鑑定してみる。
蛇子蛇蛸蛇蛙鰐蛇魚子魚大蛇蟹蛸・・・・・・・・・
「うわあ」
「すごいだろ。俺もあれの1匹だった。生き残るのはほんの一握りだ。
進化し魔物と化すか、リザードマンと成るか。
川を下り海へ出るか、川を上り陸地に出るか、川に残るか。
俺の兄弟たちもそのどこかにいるかもな。」
「・・・すごい野性味でしたね。」
「俺は今生きている。リザードマンの王としてな。それだけだ。大事なのは。
ところで本題に入ろう。街案内なんてのは只の口実でな。では質問をいくつか」
なんだ?雰囲気が変わった。
「刀打ったことある?」
「?いやないです。」
「ロベレドゥイでドワーフに会ったことは?」
「たぶんないです。本当に5分くらいで帰らされたので」
「そうか。ならいいんだ。ロベレドゥイで名前を覚えている人物はいるか?」
「いえ。誰の名前も聞いてないです。他の転移者はいましたけど」
「ほう、転移者の名前は分かる?」
「4人ですね。
佐々木アキラ
小林あかり
神谷マサノリ
内田ユウです。
クラスメートだったので覚えてます」
「・・・ほーん、俺も転生するときたぶんキャスと一緒だったからな。そういうもんなのかなー。
仲良かった?」
「いやほとんど喋ったことないですね」
「あーね。なるほど。じゃ、キャスに聞けば素性が分かるかな。」
「かもしれないですね。」
「逆に赤羽君はなんか質問とかないワケ?」
「・・・ダンジョンのアリについてです。俺もパーティで潜っててそれで・・・」
「あー行方不明とかいう。
それはアリが異常繁殖してるから捜索隊を編成してくれ
ってファースってやつから手紙が各国にだされてるから心配ない。
キャスが賊と戦っている時にはもう書状を出してたんだと。やるなー。
鳥、鬼、獣、ウチの国からダンジョンに強い奴が行くと思うぞ。
ウチはもう出発させた。クロックとカティはうちの出身のやつらだしな。
後は結果待ちだな。」
「そうですか。本当に一刻一秒を争うような状態で・・・俺はあいつらを・・見殺しにしてしまいました」
「ま、雑魚だもんなお前。
自分の身だけでも逃がせりゃ成果充分だ。
気にするな。
生きてりゃウチの優秀な兵が助けてくれる。」
「・・・よろしくお願いします」
「お前は次に備えてうちで修行な。」
「いいんですか?」
「ああ。赤羽君の処遇言ってなかったか。
来賓ってことになってる。」
「あとはファースとかいうのも一緒にきてる。
交換留学だな。うちの兵も貸し出している。
お互いに借りた兵に手を出せないようにな。
あとは赤羽君は30日で返す事。
赤羽君への精神魔法はファースらの前で無理なく行われる事。
とかそんなん。
別に精神魔法なんて使わないからその辺は安心してくれ。
悪人ではないと判断した。俺が。マザーの上で。
じゃ戻るか。城へ。」
パーティメンバーへの捜索隊。
自分の処遇。
当面の不安は取り除けた。
街の賑わいを背にチリリア城へと向かった。