恋人
中村裕子は春斗が好きで、
いつも春斗に話しかけていた、
そして私のことは嫌いみたいで、
目が合うと刺すような目つきで私を見て来た。
1ヵ月前のある晩、春斗はセックスのあとベッドに腰かけて
ゆっくりと話し始めた。
「俺、今日、中村裕子に告白された!」
「えっ?あの中村裕子?うそでしょ?」
「本当。」
「え~そうなんだ、彼女、恋とかしないタイプだと思った、
で?なんて答えたの?」
「曖昧に答えて気があると勘違いされたら嫌だから、
付き合ってる人がいるからごめんなさいって謝った。」
「えっ?付き合ってるってまさか私?」
「うん。」
「私たち付き合ってた?」
「オレはそれでいいと思ってる。」
「セックスしている=付き合っていう意味なら付き合っているけど、
お互いのこと何も知らないし、ここの世界だけの付き合いでしょ?」
「この名もなき町での彼氏でいいじゃん!」
「いいけど・・・
恋とは違う気がするし、
私いつここから出ていくかわからないけどいいの?」
「いいよ、俺も長くはここに住まないよ。」
春斗のその言葉から寂しさを感じた。
そう言えば「名もなき町」の住人は、
みんな内向的で色白やせ型で自己主張が少なめの人が多いのに、
春斗は筋肉質で色黒で「名もなき町」では、
珍しい人だった。
私はこの関係が終わることに寂しさは無かった。
春斗のことを愛することは出来ない、
子供のような恋愛ゴッコは出来ても、
愛する人を探すのはここじゃないと思っていた。
「中村裕子怖いな~
私が殺されたら春斗のせいだよ!!」
「そこまでしないだろ!」
「わからないよ、今も外でこの部屋を見ているかもしれないよ!」
そう言って二人で笑った。
そして予想通り次の日から私は中村裕子に睨まれるようになった。
でも少しも気にならなかった。
何か面倒なことになったら出て行けばいいや!
と軽く考えていたからだ。
つづく