無人駅のホームにて。
タタン、タタン……タタン、タタン……
今日も電車は駅のホームを出発して、遠く遠く小さくなっていく。山の中を走る車両は、まるで木々に飲み込まれるように見えなくなった。
僕は無人駅のホームの一番端で、暇をもて余しては往く電車を眺めていた。
こんな片田舎の駅には誰も降りる者がいない。
だからほぼ毎日、この時間は乗りも降りもいない電車を見送っている。
それでも、僕は電車が好きだ。
このホームの一番端から過ぎ行く電車が最高に良い。ここは僕の特等席でいつもいる場所。
…………しかし、一人で眺めているのも何とも寂しいものがある。
ここは無人駅だから、点検の人以外の駅員さんは常にはおらず、たまにホームを掃除する人が来るくらい。
その人たちも、僕が居ても知らんぷりで通り過ぎる。
そりゃ、暇な電車好きに構っていられないのだろうと思う。
誰でもいいから、ここで僕と電車を見てくれないかなぁ……。
そんなある日、ホームにポツンと女の人が立っているのが見えた。
こんな田舎には珍しいくらいの、色白の美人で、白いワンピースに長くてキレイな黒髪。
わぁ、誰だろう。次の電車まではだいぶあるから、ちょっと話し掛けてみたいなぁ。
僕のそんな願いが通じたのか、その人はフラフラと僕がいるホームの端へ歩いてきた。
え? わわっ、どうしよう!?
あんなキレイな人とどうやって話そうかな?
フラフラ、コツコツ……
フラフラ、コツコツ……
僕のことは視界に入っていないのか、真っ直ぐに弱々しく歩いてくる。
あ、そんな端っこを歩いていたら、線路に落ちちゃう!?
『危ないですよ』
僕は思わず声を掛けた。
女の人はビクリッと体を震わせると、ゆっくりと声の主である僕の方を向く。
パチリと視線が合うと、女の人はこれ以上ないくらい瞳を大きく見開き、動きを止めて僕を見詰めてきた。
――――――――…………あの……?
「…………キャアアアア――――――ッ!!!!」
周辺の山にこだまするくらいの、甲高い悲鳴をあげて、女の人は物凄いスピードでホームから逃げていく。
えぇっ!? あ!! ちょっと……!!
駅のホームは再び無人になった。
あ~あ……なんだよ。せっかく目が合ったのに。
心底がっかりして、僕はいつもの方向へ視線を向ける。
目が合う人なんだから絶対に気が合うと思う。
仕方なく、僕は独りで線路の枕木の間の、敷石の上でいつもの電車を待つ。
タタン、タタン……
電車が来て、そして発車する。
ここは最高に良い眺めなんだ。
今日も僕は特等席で、電車を下から眺めた。
線路の、枕木と枕木の間に居ます。