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91話・罠を仕掛けて魚を待つ

◇ ◆ ◇


 帰りがけに、行きつけのBAR()(かい)(かぜ)で俺たちは一杯やっていた。

 知里はいつものことだろうけど……。

 俺にとっては〝殺されかけたけど、無事だった〟という幸運をかみしめる意味合いも込めて。


「また知里さんには助けられたな」

「気にしないで。仕事だから」


 俺たちは形のまるで違う2つのグラスを合わせて乾杯した。

 知里は赤ワインとチーズの盛り合わせ。

 俺はドライ風ビールと獣肉バルセットだ。

挿絵(By みてみん)


 これらは異界風の店主ツネタが自ら持ってきて、テーブルに並べてくれたものだ。


「あれ? ガラスのグラスなんてあった?」

「今までは陶製だったのに……」


 知里と俺が驚いて店主に聞くと、彼は手もみしながら答えた。


「異界のグラスを完全再現! 高価なものなので、()()()()()なんでしゅ~」


 彼は少し不安そうにしている。


「ところで直行しゃま~。エルマお嬢さまとロンレア領の仕入先の件、いかがですか~?」

「すまない、エルマの件は正直打つ手なしだ。新しい仕入れ先の件は、もう少し時間をくれ」


 実際のところ、新しい仕入先の件については、俺はまだ何も動いていない。

 『銀時計』やら魚面(うおづら)の件やらで、後回しになっていたのだ。


「手遅れになる前に、お願いしましゅよ! お嬢様も心配でしゅ~」


 ツネタがそこまでエルマの心配をするのは意外だった。

 俺だって奴を助けてやりたい。

 しかし、どうすることもできない。 

 あの両親では、うまく罪を減じられるとも思えないし。


「しかし意外だったよ。店主がそこまでエルマの心配をしてくれるなんて……」

「心配でしゅ~! だって今までのツケを払ってもらわないと~?」

「ああ、そっちの方か……」

「直行しゃま~。頼りにしてましゅからね~」


 そう言い残すと店主はカウンターの方へ戻って行った。


 (カネ)の方の心配はともかくとして……。

 エルマの死刑判決については、得られる情報が少なすぎる。

 どうしたって現状では動きようがない。


 俺はビールを飲みながら、考えあぐねてしまった。 

 その様子を見ていた知里が、不意に声をかけてきた。


「直行。アンタはこの世界でマフィアにでもなるつもりなの?」

「何だよ? 知里さん。藪から棒に」

「裏社会の連中と渡り合ったり、この店の仕入先を仲介したりさ。世話の焼き方がカタギじゃないよね」


 思いもよらないことを言われて、少し面喰った。


「そんなに威圧的だったか?」

「いや、急にふてぶてしくなった」


 まあ、理不尽な暴力に見舞われて、死の淵から生還したらそういう風にもなるだろう。

 

「何度か死線を越えてきたからな」

「あたしの方が死線は越えてると思うけどさ」


 …………。

 そんなことよりも、呼び出した召喚士・魚面(うおづら)のことが気がかりだ。

 間違いなく俺の命を狙ってくる相手を、どうにかしないといけない。


「そう。〝魚釣り〟で釣れるといいけど。釣ったお魚は凶悪だからね。噛み殺されないように、せいぜい注意しなさいな」

「おう。だから〝罠〟を仕掛けておく。知里さん、知恵を貸してくれ」


 その後、俺たちはグラスを傾けながら、魚面(うおづら)対策について話し合った。


 ◇ ◆ ◇


 魚面(うおづら)との全面対決も想定して、俺たちは対策を進めていく。


 待ち合わせ場所は『銀時計』の倉庫わきの納屋。

 荷馬車などを留めておくスペースだ。


 時間帯は、できれば昼間がいいが、こればかりは相手の要求に従うよりほかない。

 怪しまれ、()()()()()()()()それまでだ。


「あの召喚術は厄介だな。また上級悪魔(グレーターデーモン)でも呼ばれたりしたら……」


 味方に精霊術師レモリーを欠く現在、こちらの魔法攻撃力不足は否めない。


 …………。

 知里は魔法銃の手入れをしながら、難しい顔をした。 


「市街地で魔物を呼び出す無茶はしないと思うけど、呪殺魔法を使ってくるかもね」

「即死系か……耐性なさそうだな、俺」

「納屋と、その周囲にスペルトラップを仕掛けておこう」


 知里の口から聞き慣れない単語が出た。


「スペルトラップ? なにそれ?」

「範囲内で最初に魔法を使った術者が緊縛状態になる罠の術式」


 知里は身振り手振りを交えながらザックリと説明する。


「なるほど。うまくすれば初手(しょて)魚面(うおづら)を捕えられるわけか……」

「ただし敵味方関係なく効果があるから、こっちも初手で魔法が使えなくなるけど」

 

 それでも敵の魔法を封じられるメリットは大きい。

 魚面が腕っぷしも達人レベルなら詰みだけどな。


「魔法銃を実弾モードにすれば、物理攻撃になる。威力は弱まるけど」


 相手は裏社会の殺し屋で、凄腕の召喚士でもある。

 万全の状態で迎え撃つ必要があった。

 

 作戦会議の結果、いくつかのことが決まった。


 ・基本的には俺と知里が魚面(うおづら)と対峙する。

 ・『銀時計』店主の監視、および間接攻撃の伏兵としてネリーとスライシャーを配置。

 ・属性術師ネリーには、スペルトラップの範囲外からの魔法攻撃も受け持ってもらう。

 ・戦士ボンゴロは『銀時計』の店主と用心棒の監視役。場合によっては戦列に加わってもらう。

 ・万が一の時の回復役として、ネンちゃんに隣の宿屋『時のしずく亭』に待機してもらう。

 ・ネンちゃんの護衛は、鉄壁の防御を誇る小夜子にお願いする。


 回復魔法の使い手とはいえ、年端もいかない少女ネンちゃんを裏社会の暗殺者と対峙させるわけにはいかないが、大ダメージを受けた際の迅速な治療手段は確保しておくべきだろう。


 以上のことを準備しつつ、俺たちは魚面(うおづら)からの連絡を待った。


 その間、俺は小夜子の日課である炊き出しの手伝いと、小夜子やカーチャを相手に回避の特訓。

 何回か知里にも魔法銃をかわす訓練を手伝ってもらった。


 もっとも、付け焼刃の回避訓練では実戦で使えるかどうかもおぼつかないけれど。

 やらないよりはマシだろう。

 命がかかっているのだから……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] かなり策を練らないと危険な相手という事が伝わってきますね。 [一言] 直行も段々と当初の甘さがなくなっていき、すごみすら感じます。
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