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88話・うごめく影に光を当てて

「おう、調べがついたか。屋外ではなんだ、みんな中へ入ろう」


 俺は盗賊スライシャーと属性術者ネリーを元・冒険者の店に入るように促した。

 その様子を見て、知里と小夜子が顔を見合わせる。


「小夜子さんと知里さんも、できれば一緒に来てほしい」 

「分かったわ!」

「仕方ないわね……」


 2人は承諾したが、カーチャはその場から離れようとしていた。


「混み入った話なんだろ。ワタシは遠慮しとく。子供たちを風呂に入れないといけないし」


 何となく物騒な話になることを予感したのだろう。

 カーチャは孤児院に帰っていった。


 ◇ ◆ ◇


 元・冒険者の店の1階は、かつて酒場だったところだ。

 現在は、厨房に入りきれなかった炊き出し食材の保管庫になっている。


 その中央にある丸テーブルを囲んで、俺たちは座った。

 時間帯も夕方だったため、夕食も兼ねている。


「有り合わせで悪いけど」


 温め直した炊き出しのスープ、焼いたパンやチーズなどが円卓に並んだ。

挿絵(By みてみん)

 メンバーは知里、小夜子、ネリー、スライシャー、俺の5人だ。


「さて、まずは俺たちを襲った召喚師について教えてくれ」


 俺がそう切り出すと、属性術者ネリーが話し出した。


吾輩(わがはい)が得たところによると、野良(のら)で『魚面(うおづら)』と呼ばれる召喚師がいるらしい」

野良(のら)? 『魚面(うおづら)』?」


 俺には何のことかサッパリだ。


野良(のら)っていうのは魔術師ギルドに所属しない術者のこと。たいていは裏社会とのかかわりがあったり、禁呪(きんじゅ)なんかを研究してる。『魚面(うおづら)』なんてのは知らない」


 知里がザックリと説明してくれたけど、要するに無所属のヤバい術者ということか……。

 

 ネリーが続けて話した。


「吾輩が聞いたところによると、『魚面(うおづら)』は文字通り魚の仮面を被った召喚師で、ここ2、3年くらいで頭角を現してきた。裏稼業の仕事を請け負っているらしい」

「裏稼業の仕事って……人さらいじゃないわよね?」


 小夜子が不安そうに眉をひそめた。


「召喚術を使った暗殺だ。実行犯は魔物だったよ」

「魔物を使った暗殺は、裏社会ではたまにある。官憲(かんけん)の捜査が届きにくいし……。失敗しても〝魔物に襲われた〟で済むので背後関係が探りにくい」

「貴族様ご用達の案件でしょうな」 


 盗賊スライシャーが皮肉っぽく言った。


「あたしも昔、仮面を被った謎の暗殺者集団とは、何度かやり合ったことがあるけど……」


 腕を組んでいた知里が、険しい表情で言った。


「でも、その『魚面(うおづら)』って召喚師が犯人だという証拠はないのでしょう?」


 小夜子の疑問はもっともだ。


「無論、飛竜(ワイバーン)上級悪魔(グレーターデーモン)を召喚できる者は他にもいる。ただし、魔術師ギルドの師範クラスや宮廷魔術師など、それなりの社会的地位を得ているがな」


 犯罪に手を染めているような召喚師のアタリをつけてきただけでも収穫だ。


「それで、〝銀時計〟の方はどうだった?」

「悪党の臭いがしますぜ。けど、あの鼻眼鏡、なかなか尻尾(しっぽ)を出さないんでさあ……」

「どういうことだ?」


 俺の実感でも、あの老紳士は()()()()印象だ。

 ただ、この世界に慣れていない俺には、その根拠が分からない。


「異世界の物品や古代遺跡の遺物なんぞを扱ってるくせに、仕入先が見えてこねえ、不透明でさあ」

「仕入先が見えてこない?」

 

 俺は素朴な疑問を投げかけた。


「仕入先が不透明だと、どうして怪しいんだ?」


 ピンと来なかった俺に対し、知里が助け舟を出してくれた。


「普通、古物商とかだと誰かが商品を持ち込むよね? あたしも遺跡で手に入れたアイテムなんかを冒険者の店に売ったりしてる。持ち込みルートはあたし→冒険者の店。ハッキリしてるよね?」

「ああ……」


「あっしら冒険者には、ギルドと信用保証も兼ねた冒険者の店がありやす。でも、〝銀時計〟にはそうした形跡がねぇンでさ。それはつまり、何人もの人の手に渡った盗品を扱っているとか、裏社会とつながっている可能性が高いですぜ」

「仕入先が見えないということは、知られたくない事情があるんでしょうよ」


 言われてみれば、出入りするの客も保守派の貴族(ロンレア伯爵夫人)から、異世界人(いぶき&アイカ)までと幅広い割には、いつも閑散としている。

 それでいて品数は豊富で、用心棒もいて……。


「エルマの母親が首飾りを売っていたのを目撃したけど、二束三文だったな」

「極めつけは店の用心棒が傭兵崩れの元・冒険者だという点でさあ」

「その男、かなりの手練れだと吾輩も聞いている」


 あのニコリともしない男はよく覚えている。

 俺の態度によっては、間違いなく斬られていた。

 転生者でも被召喚者でもなく、この世界の住人のようだったが、迫力があった。


「なるほど、〝銀時計〟は怪しい。けど、『魚面』との接点までは見えてこないな……」


 双方ともに用心深いならば、そう簡単に尻尾は出すまい。

 ここから先の諜報活動は難航するだろう。


 しかし、知里はまるで簡単なことのように、こう言った。


「なら、あたしが一緒に〝銀時計〟に行くから、直接聞いてみればいい」

「え?」


 ……。

 そうか、確かに〝人の心を読む〟彼女の特殊スキル『他心通(たしんつう)』の前では、内心を隠し通すことは難しいだろう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 知里のスキルで老紳士の心が分かれば手の打ちようもあるかもしれませんね。 少しづつですが話が動いていく予感です。
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