表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/733

87話・異界風を救おうか


「それにしてもエルマが死刑判決? 何の罪で?」


 神聖騎士団・飛竜部隊に連れ去られた時は『重要参考人』だったのに……。

 いつの間にか逮捕されて……。

 死刑判決だと……?


「聖龍教団を侮辱した大逆罪だってさ。詳しいことは分からないけど……」

「……そうか」


 正直、俺には実感がわかなかった。

 いくら性格がアレとはいえ、13歳の少女に死刑判決なんて、元いた現代社会ではありえない。

 この世界の法律はよく知らないけど、ましてや彼女は貴族の娘でもある。

 

 何かの間違いじゃないのか、としか思えない。


「死刑執行は、2か月後の収穫祭の時。まだ猶予はあるけど、どう動く?」


挿絵(By みてみん)


 知里は、俺を試すような視線を向けた。


 一報を知らせてくれたのは知里だが、なぜかBAR異界風(いかいかぜ)の店主が同行してきた。

 髭で坊主頭という、意識高そうなイメージだった店主は、急に猫なで声で俺に「店を救ってくれ」と哀願してきた。


「直行しゃま~。エルマお嬢様もご心配でしょうけれども、私を破産から救ってやってくだしゃいませぇ~」


 その理由も、俺にはよく分からなかった。 


「破産って……。エルマが処刑されると、なんで異界風さんが破産するの?」

「ロンレア家が断絶してしまいましゅぅ~」

「ちょっと待って。伯爵家と異界風さんに、どんな関係が?」

「仕入先の農園が、確保できなくなってしまうからでしゅ~」

「他に探せばいいのでは?」


 確か、ロンレア家の領地から肉や野菜、ワインなどを仕入れている話は聞いたことがあるけど……。

 取引先を変えればいいだけではないか?


「少し、面倒な話なんでしゅう……」


 店主はそう前置きしてから、話し出した。


「ロンレア家の領地を管理しているのが、ディンドラッド商会なのはご存じでしゅか~?」

「ああ。三男の〜何とかフィンフさんには会ったことがある」


 名はディルバラッド・フィンフ・ディンドラッドというのだが、どうも覚えづらい。

 エルマは「お気楽な三男さま♪」と言っていたが、少しも抜け目のない商売人だった。


「私どもは、その彼を通じて、ロンレア家の領地で()()の食材を手配してもらっていたのでしゅ~」


 なるほど、確かにややこしい。

 異界風の店主が言うところの()()とはつまり、俺たちが来た世界、現代日本ということだ。


「だったら、その彼フィンフさんに言って新しい農園を紹介してもらえば……」


 旧王都~勇者自治区の街道沿いにも、広大な農地や果樹園がたくさんあるのが見えた。

 あれだけの広さのものが多数あるなら、仕入れ先を工面するのも難しくはないはずだろう。


「しゅぅ~……」


 だが、異界風(いかいかぜ)の主人は浮かない表情だ。


「旧王都の近くにある土地は、おおかた保守派貴族のモノでしゅ~。転生者は嫌われているんでしゅ~」

「……って、あんた転生者だったのか?」

「申し遅れました。私ツネタ・ワドァベルトと申しましゅ~。前世は外資系の金融マンでした」

「飲食業とは全然関係ないんだ……」

「転生先の両親が、ここで酒場をやってたので後を継がせてもらいましたでしゅ~」

「……魔王討伐軍には入らなかったのか?」

「とんでもないでしゅ~。私とっても逆境に弱いんでしゅ~」


 いかつい外見に似合わず、メンタルが弱いということか。

 異世界転生者だからといって、誰もが魔王討伐を志したわけではない。

 確かに、向いていないことをする必要はどこにもない。


「6年前に勇者トシヒコ様ご一行が魔王を倒されてから、この世界はちょっとした転生者ブームになったんでしゅ~。当店も時流に乗ってリニューアルしたんでしゅよね」

「……商機とみて勝負をかけたのか」


 異界風の店主は、もじもじしながら頷いた。

 居丈高ないつもの調子とは別人のようだった。


「ところが! でしゅ~。食材の確保などには苦労しまして……。くじけそうな毎日。そんな中で便宜を図ってくれたのがエルマ様だったんでしゅ~」

「あいつがねえ……」

「タピオカ風ミルクティーを再現することを条件に、ロンレア家の農地で()()野菜の栽培を勧めてくれました」


 しかし、よくもあのロンレア夫妻が許可を出したものだ。

 エルマが転生者だということは秘密だったはずだ。

 いや、黙ってやったのかも知れないな。


「ただなあ……俺とロンレア家とは現在、良好な関係どころじゃないし……」


 俺は小夜子の方をチラリと見た。


「直行君?」


 彼女の炊き出しの援助物資を送ってくる貴族や商人と交渉すれば、新たな仕入れ先を確保できるかもしれない。


「小夜子さん、この件をどう思う?」

「どう思うも何も、エルマちゃんは心配だし。困ってる人がいたら助けるべきじゃない?」

「俺の力じゃ、どうしようもないんだ」

「わたしにできることなら、もちろん協力するけど!」 

「……小夜子さんのコネで、この人の仕入れ先に新しいツテをつくりたいんだけど……話を通してもらうことは、できる?」

「そのくらいならお安い御用ね。でも、相手がいることだから交渉は直行君が上手くやらないとね!」

「ありがとう! またまた恩に着る」

「気にしないで! みんなが幸せになるのって最高だもん!」


 小夜子の親切には、感謝しきれないほどだ。

 異界風の仕入先については、どうにかなる可能性が出てきた。

 

 エルマの件は難しいとしても……。


「分かった。異界風さん。保証はできないけど、いくつか伝手(ツテ)を当たってみる」

「恩に着ましゅ~。直行しゃま~! 小夜子しゃま~! よろしく、よろしくお願いしましゅ~!」


 猫なで声で、異界風の店主=ツネタは頭を下げた。


「……あたしとしても、行きつけの店がなくなるのは困るから、手は貸すよ。用心棒くらいしかできないけどさ」

「直行君、知里、がんばろうね!」


 知里に発破をかけられ、小夜子の協力も得られれば、この件ならば解決しそうだ。

 俺としても、獣肉バルとドライ風ビールは味わいたいからな。


「異界風さん、頭を上げてくれ。まだ保証はできないけど、いい知らせができたら持っていく」

「ありがとうごじゃいまする! ごじゃいまする!」


 俺とツネタは手の甲を合わせるこの世界式の握手を交わして、その場は別れた。

 

 ◇ ◆ ◇


「大将! 有力な情報をつかみやしたぜ!」

「……ククッ。吾輩の諜報力を見くびってもらっては困る」


 ちょうど異界風店主と入れ違いに、2人が現れた。

 盗賊スライシャーと、属性魔術師ネリー。

 

 彼らにはそれぞれ、古物商『銀時計』と、『謎の召喚師』について調べてもらっていたのだ。


「有力な情報……だと?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] やはり例の三男坊はやり手な男でしたね。 [一言] この新情報が良いものであればいいのですが……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ