83話・迎撃準備とスキルについて
昨夜の会食(打ち合わせ)の中で、今後の方針が決まった。
「直行ちゃんには、ここの2階に住んでもらおうかね」
まず俺は潜伏先を変えることになった。
高級宿屋『時のしずく亭』では、疑惑の一つとなっている古物商『銀時計』に近すぎるためだ。
小夜子とカーチャが炊き出しの準備に利用している厨房。
その冒険者の店の2階はかつて宿屋として使われていたので、俺はそこに住むことになった。
「ここも昔は多くの冒険者たちで賑わったものだけどね……」
「わたしの寝泊まりしてるところとも近いし、何かあったら助けに行けるわ」
孤児院から離れているために、敵に襲われても子供たちには被害が及ばない点。
普段は空き家で、小夜子の住まいにも近いため、安全性が高い点もメリットだ。
「銭湯も隣にあるし、悪くないかも」
俺はここを拠点にして、普段は炊き出しの手伝いをしたり片づけを手伝ったりする。
「知里さんにもいろいろ助けてもらうことになると思う。もちろん仕事として」
「あたしは基本的に夕方は異界風にいるから、用があったら訪ねてきてよ」
「助かる」
◇ ◆ ◇
その一方で、以前世話になった冒険者3人組……。
ボンゴロ、ネリー、スライシャーにも仕事を頼んだ。
属性術師ネリーには、上級悪魔を召喚できるレベルの召喚術師のリスト作成。
「フフフ……。吾輩に任せろ。魔術師ギルドから野良の冒険者まで、しらみつぶしに調べて見せよう」
前回は瀕死の重傷を負わせてしまったけれども、元気になって何よりだ。
もっともこの人、デフォルトで顔色が悪くてゾンビみたいなのだが……。
盗賊スライシャーには古物商『銀時計』についての情報収集。
「あの店の顧客リストや仕入れルート、裏の顔などを洗ってみますぜ」
戦士ボンゴロには遊軍として、ネリーとスライシャーの補助。
俺の買い出しも手伝ってもらうことにした。
「まかせてくれお! がんばるお!」
彼らは冒険者ランクこそ高くはないものの、責任感があり人柄も誠実で、信頼できる1級品だ。
情報収集は彼らに任せて、俺は迎撃準備を進めることにした。
◇ ◆ ◇
いつ敵が攻めてくるか分からない状況で、俺に戦闘能力がないことは非常に問題だった。
もっともエルマの話によれば、『恥知らず』という性格スキルを持っているらしい。
だが、戦闘用のスキルは持ち合わせていない。
そのことについて、小夜子たちに尋ねてみると、スキルについて興味深い話が聞けた。
ちょうど炊き出しの手伝いを終えて、お昼を食べている時だった。
「『スキル』には大ざっぱに3種類あるの」
「へえ?」
俺はスープを飲みながら、首を傾げた。
ちなみに今日の炊き出しメニューはショウガと鶏のスープ。
この世界ではポピュラーなもので、ネギのような野菜が入っている。
小夜子は説明を続ける。
「持って生まれた『性格スキル』と、訓練して発生した『能力スキル』、そしてレアなモノも含めた『特殊スキル』」
俺の『恥知らず』は性格スキルというやつか。
レモリーは『几帳面』だったな。
「性格スキルっていうのは、得意なものや向いてる能力と合わせると+-補正がつくの」
「たとえば?」
「たとえば『大ざっぱ』な性格スキルを持つ人は、打撃武器なんかとは相性がいいけど、魔方陣を描くのが苦手とかね。もちろん克服することもできるけど」
「俺は『恥知らず』だと言われた……」
「ネガティブな性格スキルがついても、相性のいい能力スキルと組み合わせれば強みになったりするから」
小夜子の説明はとても実感がこもっていて分かりやすかった。
「天才たちばっかりの魔王討伐軍で、わたしは才能的にはパッとしなかったから……」
「そうは思えないけど?」
「トシちゃん=勇者は、わたしが生き残れる可能性を必死になって考えてくれて、工夫していまの能力を創り上げてくれたの」
「小夜子さんのバリアは……特殊スキル?」
「そう。異能力は特殊スキルに分類されるわ。わたしの『乙女の恥じらい』や知里の『他心通』とかもね」
なるほどエルマの『複製』も特殊スキルか。
「知里みたいに生まれつきスゴイ異能力を持ってる人もいれば、わたしみたいに努力や工夫で生き残った人たちもいる」
「魔法とはまた別の考え方なんだ」
「剣術も魔法も訓練で発生するから能力スキルになるわね」
そういえばエルマは独学で召喚魔法を学んだと言っていたな。
「なあ小夜子さん。俺も戦いについて学びたい」
正直言って、まともに戦えるようにならないと、この先厳しい。
初陣の飛竜戦でさえ知里がいなければ詰んでいた。
「上級悪魔は無理でも、せめて飛竜とは戦えるくらいの戦闘力がほしい……」
「さすがに無理よ。短期間では……」
小夜子は困惑していたが、急に何かを思いついたように俺の手を取った。
「勇者自治区でトシちゃんに頼めば『スキル創造』で、戦える能力を与えてくれると思うわ」
小夜子はサラッと言うけど、トシちゃんって……。
「勇者トシヒコさんのこと? ご本人に頼むってこと?」
「しばらく会ってないけど、たぶん協力はしてくれると思う」
「いや、ちょっと待って。ありがたいけど、相手が大物すぎてビビる」
それに、勇者本人との接点を持ち、借りをつくることのリスクも考えないといけない。
ヒナちゃんさんの件もそうだけど、勇者自治区との接点は正直に言えば怖いのだ。
いぶきとの取引でさえ、街道に飛竜と悪魔を召還されたくらいだから……。
「せっかくの申し出だけど、ゴメン」
「……だったら、とりあえずアンナに相談してみるのも悪くないかもしれない」
アンナ? 初めて聞く名前だ。
小夜子の知り合いならば、元・討伐軍だろうか……?
何となく歯切れが悪いのが多少、気になったけれども。
「その人は、どんな人?」
「……町はずれに住む錬金術師よ。知里の友達で、例のホバーボードを作った人」
「おお! それなら街道を越えなくて済むし、いいね」
炊き出しの後片付けを済ませたら、さっそく俺たちは支度をして『アンナ・ハイム研究所』に向かうことにした。
途中、BAR異界風に立ち寄り、知里にも同行してもらうことになった。




