731話・復活のビキニアーマー!
知里が俺に言ったことが、いつまでも頭の中に残った。
──あたしでは勝てない相手と、戦ってもらう?
誰のことを言っているのだろう、政治的な駆け引きのことなのだろうか──。
新たな聖龍を受胎し、生み出したことで知里の魔力は以前とは比べ物にならないほどに上昇している。
魔法が使えない俺には分からない領域だけれど、花火大会のときの勇者と法王の決闘を超えているような気がする。
いまの知里からはすさまじいオーラを感じる。
ヒルコは同化? しようとして触手を伸ばしてくるが、それらを青い炎で一瞬で焼き切る。
バトル漫画みたいな超高速と、〝人の心を読む〟能力で怪物化したヒルコを圧倒している。
「ちっ。しつこいし。このヒルコってやつ、手強い……」
圧倒的な能力を持っていながら、知里は攻めあぐねているようだ。
彼女の目的はヒルコの殲滅ではなく、まずはトシヒコの治療──。
しかし、超高速で攻撃を受け流しているにもかかわらず、ヒルコもまた一歩も引かない。
幾度となく触手を焼かれても、一歩も引かずに怪物化した身体から触手を伸ばしてくる。
まさに〝妄執〟と言ってもいいような連続攻撃が果てしなく続いていた。
ヒルコとは何者なのだろうか。知里は〝もう一人のあたし〟だと言っていたけれど──。
「知里! 援護するわ!」
「ちーちゃん! ボクも手を貸すよ! のろまでせっかち!」
「お小夜、カレム、助かった!」
小夜子とミウラサキが飛び出してきて、加勢する。
ここで生まれた一瞬の隙で、知里は勇者の元へと瞬間移動──。
仰向けに寝そべったトシヒコの上に浮かぶと、心臓の上辺りに手を差し出す。
「トシヒコ! 少し痛いけど我慢しな!」
勇者の心臓にまとわりついた結晶化した精霊石を、青い魔力の炎で焼き切った。
「殿下! お嬢!」
次いでエルマとラーのコンビに声をかけると、待機していた二人が
エルマは太歳肉霊芝から生きた心臓を創出する。
「ラー殿下♪ 勇者さまを助けていいんですか? この世界をわが物にするチャンスじゃないですか♪ あたくしと殿下で、世界を二分しませんか♪」
前法王の躊躇を見透かしたように、エルマが邪悪な提案を持ちかけた。
「〝鬼畜〟のふたつ名の通り面白い提案だが。知里が新たな聖龍を握っている以上、余は彼女に逆らうことはできない……」
「……お嬢。アンタも大した玉だ」
エンジェルフィッシュとシーラカンス。ふたつのチビ〝聖龍〟を従えた知里は苦笑いする。
勇者を治療することにラーは抵抗があるものの、新たな聖龍の存在をチラつかせられたら従うしかない。
「命を削り合った相手を蘇生するのは皮肉なものだ。できれば兄上をお助けしたかったが……」
ラーはブツブツ言いながら回復魔法で勇者の治療を進めていく。
その苦々しい表情から、心の底から不本意、なのだろう。
とはいえ〝千年に一人の魔道の申し子〟は伊達ではなく、回復魔法による心臓移植という前代未聞の新治療術を完遂させた。
連携したエルマも、
ところが、そんな俺の脳裏に〝つまらない未来〟が見えた。
俺は勇者トシヒコが繰り出す拳の動線に自分の手を置いて、彼がラーを殴るのを阻止した。
「〝色男〟余計なことをするんじゃねぇよ」
「余計な未来が見えたから止めただけです」
実際、未だラーとトシヒコの間には張り詰めた空気が漂っている。
重傷者だったときには感じなかったトシヒコへの敵意が、ラーから感じられた。
前法王でカリスマ天才魔導士と言っても、二十歳の青年だ。殺し合った事実は、やはり重い。
「……まあ、ちーちゃんも鬼畜令嬢もクソガキも、骨を折ってくれたことは感謝する。ありがとよ」
そんな雰囲気に、勇者トシヒコは大人の態度を見せた。
「……トシヒコ。そんなことより現状かなりマズいことになってる」
心が読める知里には、二人の間にあるわだかまりが、俺よりも高い解像度で見えるのだろう。
何とも言えない切なそうな表情で言った。
「ちーちゃんで何とかなんねーか。おれ様は病み上がりで調子が悪ぃ。命を取り合ったクソガキに助けられてやる気も出ねえ。おまけに死んだチンドン屋夫婦までゾンビで戻ってきやがった。最悪だぜ」
「減らず口はいいから、この状況を打破する秘策を考えて頂戴。世界の命運をかけた司令塔なんて、アンタかグレンにしかできない」
「そんじゃまあ、ちっぱいちーちゃんはともかく。ヒナちゃんと小夜ちゃんにTバックビキニ鎧に着替えてもらおうかな」
「はあ──?」
思いもよらない提案に、その場にいる誰もが絶句した。
あのエルマでさえ、驚いて目を丸くしていた。
「ふざけている場合ではない! 量産型魔王の脅威が、三勢力に迫っている。それぞれの領土が焦土と化す。我々の力では一人数十体まで対処できるが、数が多すぎる。〝恥知らず〟の見立てでは、魔力が尽きて我々は全滅する未来が見えているそうだ。そのような状況で女人の肌を曝せという。どうかしている!」
ラーが声を荒げた。少し頬を赤らめながら言ったのが、不覚にも俺はかわいいと思ってしまった。
そんな俺たちの様子に、知里が生暖かい目を注いでいた。
「ふざけてるわけじゃねぇよ。世界の命運をかけた大勝負だ。一世一代の大舞台。小夜ちゃんに瓦礫をまとわせて戦わせるのも不憫じゃねぇか。彼女は量産型魔王殲滅戦の鍵になってくれる戦術の起点だ」
勇者トシヒコの目が、勝負師のそれのように輝いていた。
〝鉄壁〟の防御を持つ、小夜子を起点にして戦術を組む、それは俺も理解できた……
「でも、ヒナちゃんさんは関係ないんじゃ……」
現在彼女は迷彩パンツと白タンクトップでグレン夫妻を押さえているが、魔導士だしビキニ鎧を着る必然性はまったくない。けれど──。
「お気遣いありがとう直行くん。ヒナならOKよ。見られて恥ずかしいものなんてついてないから、ママと同じ衣装で、ラストステージを盛り上げようじゃない。メルトエヴァレンスの名に懸けて、ね」
グレン夫妻と戦っていたヒナがこちらにやってきて、自ら召喚魔法で衣装を変えた。
小夜子と共に、きわどいTバックビキニ鎧だ。
俺とラーは目のやり場に困り、互いに気まずそうに顔を合わせるが、勇者トシヒコは嬉しそうに刀を抜いて臨戦態勢をとった。
次回予告
※本編とはまったく関係ありません。
直行「ちょっとした緊急告知なんだが、作者がタコスを食べようとして危うく火事になりかけたんだ」
知里「なにそれ?」
直行「タコシェルっていう、ドリトスの大型のチップスをトースターで温めてたら火を噴いたんだ」
エルマ「箱の裏にトースターNGって書いてあるじゃないですか♪」
直行「字が小さくて読めなかったみたいだ。それに、まさか燃えるとは思わなかったって」
小夜子「燃えるって、焦げるとかじゃなくて?」
エルマ「文字通りトルティーヤが火だるまになったみたいですわ♪」
知里「これを読んだ人はタコシェルのトースターは絶対NG! 電子レンジだと大丈夫っぽい」
エルマ「さて次回の更新は11月21日を予定していますわ♪」




