730話・復活のちーちゃん
「お……おお……さがして……いた……」
レモリーを地面にたたきつけたヒルコが、いつの間にか知里と対峙していた。
瞬間移動みたいに、移動した形跡もなく、あらわれた。
「『神速通』のヒルコ。ついにあたしと会えたって」
「私は……貴女だ」
ヒルコはそう言って、触手のようなモノを知里めがけて伸ばしてきた。
「知ってる。何となく分かったよ。でも、そうはさせない。アンタにとっては残念だけど」
知里はそれを一瞥もせずに青い炎で燃やし切った。
何の詠唱もしていない、まったくのノーモーションだった。
ヒルコと知里が交わした会話はまったく意味不明だった。
心が読める能力があるにせよ、話が飛びすぎていて理解が追いつかない。
知里は、四つの腕で捕えようとしてきたヒルコを回避し、ラーのそばに転移した。
「そんなことより法王さま。新しい聖龍さまを連れてきたよ」
いつの間にか、彼女の頭上にはふたつの魚類が浮かんでいた。
エンゼルフィッシュとシーラカンスのようにも見える。
それは彼女が『処女懐胎』したという新たなる聖龍だった。
しかし俺の記憶が正しければ、一体はシーラカンスではなく別の古代魚だった気がするが……。
ともかく、花火大会の決闘によって失われた聖龍が残した新たな命だ。
にもかかわらず、前法王のラーは難しい顔をして腕を組んでしまった。
「……さて、どうしたものか。余は現在、退位した身だ。」
「ジュンちゃんが法王って、あのエロ河童がマジで!? 大丈夫なの」
「……ああ見えて実務能力と政治力はあるし、腹芸もできる。神の代理人としてはラー殿下のカリスマ性には及ばないけれど、今後の世界を見据えたら」
「『今後の世界』……。まさにそうだな」
俺と話すときのラーはちょっと嫌そうだったけれど、おそらく同じ未来が見えていると思う。
「……えぇー。二人ともジュンちゃんの評価高っ……。それにしてもアンタたち、変な関係だね」
知里だけが、ふしぎそうに首をかしげていた。
生粋の冒険者で、世界の舵取りなど微塵の興味もない彼女にとっては、政治的な枠組みなど、まるで興味の外の出来事なのだろう。
「……それで、知里には量産型魔王の軍勢を打ち破る方法があると?」
ラーはイナゴのように空を埋め尽くす魔王の編隊を睨みつけて言った。
現在、量産型魔王は三手に分かれて進軍中だ。
まずはロンレア領、次いで法王庁、最後に勇者自治区が壊滅する『未来視』が見えた。
勇者パーティ、ラーが応戦したものの、数の圧力には叶わず、全滅する未来が見えた。
「効率よく敵をさばくには司令塔が必要だ。この局面を打開できる人物は二人しかいない。グレン・メルトエヴァレンスと勇者トシヒコ……」
「余に勇者を蘇生させろと?」
「時間がないから移動しながら聞いて。トシヒコの心臓に埋め込まれた精霊石をあたしが解除するから、殿下の回復魔法とエルマお嬢の臓器再生で〝あの男〟を」
知里の念動力で強制的に宙を飛ばされていた俺は、まさかのエルマの名前にギョッとした。
奴が編み出したという、人体再生術が、世界屈指の魔導士たちに高く評価されていることに驚いた。
と同時に、あの得意げなカン高い笑い声が聞こえたような気がして複雑な気分だ。
「あー♪ 知里さんだー♪ ご出産おめでとうございます♪ コレ内祝いですわ♪ どうぞ♪」
案の定というか、邪悪な笑みを浮かべたエルマは「内祝い」と称してあまり美味そうじゃない飴玉を差し出した。
知里も全部わかっている様子で、苦々しい笑みを浮かべた。
その一瞬の間隙に、ヒルコの触手が伸びる。
しかし、知里の青い炎を出すまでもなく、スローモーションで伸びた触手は滅多切りにされていく。
「知里! 久しぶりー」
そこにあらわれたのは、元気な声で両手剣を振るう小夜子。
瓦礫を装備して局所を隠すという、とんでもない格好でお尻なんかはほぼ丸出し。
後ろから見たらほぼ全裸だ。しゃがむと大事なところまで丸見えで、目のやり場に困る。
「ちーちゃん、ボクのこと覚えてる? カレムだよ!」
ミウラサキは子供のように(実際、体感年齢は12~3歳か?)知里めがけて飛び出してきた。
小夜子の恥ずかしい格好をスルーして、ピョンピョン飛び跳ねている。
「トシヒコを蘇生する間、ヒルコを止めてて。……にしてもお小夜、なんて格好してんのよ。ビキニアーマーじゃ飽き足らず、瓦礫を装備して戦う女戦士って……」
呆れる知里と、無表情でスルーするラーと、粘着質な笑みを浮かべるエルマ。
「あ、ああああーーーっ!!! 見ないでぇーーー!!」
小夜子は我に返ったように、大事なところを手で隠した。
「この方が防御力が上がりそうだから放置しましょう♪」
エルマがそう言って、三人は勇者トシヒコの方へと飛んで行った。
「……ちーちゃん」
その様子を、グレン夫妻と対峙しているヒナが、何とも言えない複雑な表情で見送った。
彼女にとっては追放した元パーティの一員が、自身が殺めた聖龍の次代を連れてやってきたということに、様々な思いが去来するのだろう。ここからでは細かい表情の変化まではうかがえないが、何となく微妙な空気は俺にも伝わってきた。
「さて、直行にもやってもらうことがあるからね。あたしでは勝てない相手と戦ってもらう。いまは覚悟だけ、しておいて」
俺の心の中に、知里の声がテレパシーのように響いた。
次回予告
※本編とはまったく関係ありません。
直行「いやぁ、25年の秋はクマによる被害で大変だな」
エルマ「小夜子さんなら素手で倒せるんじゃないですか♪」
小夜子「わたしを金太郎みたいに言うのやめてよ!」
エルマ「金太郎より露出度高いんですけどね♪」
知里「どうでもいいけど、本編のアンタっていま瓦礫を装備してアウトな部分を隠してるんだよね。さすがにみっともないから次回で着替えよう。マイクロビキニに!」
エルマ「次回の更新は11月14日を予定しています♪ 『お小夜の最終衣装は金太郎』お楽しみに♪」




