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728話・負の遺産

 俺に取りつこうとしていたネオ霍去病が消えた。

 視界が明らかになり、『未来視』も本来あるべき「先の世界」を映し出した。


 ──ところが、事態はより悪いほうに動きつつある。

 ネオ霍去病が残していった量産型魔王の編隊が各都市を焼き払っている映像が見えた。


 ロンレア領は小夜子、勇者自治区にヒナ、法王庁をラーが守るが、数が多すぎる。


 さらに最悪な未来が脳内に飛び込んでくる。


 四肢をもがれた末に消し炭になったヒナ・メルトエヴァレンス──。

 ダメージを未来に送り続けることで無敵の障壁を誇った小夜子も、処理が追い付かずに霧散した。

 隕石を操り、広範囲で防衛していたラーも魔力が尽きた刹那に、あっけなく握りつぶされて血煙となった。

 

 無秩序に破壊活動を続ける量産型魔王に押し切られ、三人とも絶命する、どうしようもない未来──。


 勇者トシヒコも〝濡れ烏〟の真の力を開放し、量産型魔王の存在自体を消し去ろうとするが、元々満身創痍だったために力尽きて絶命した。


 世界屈指の強者たちが力負けして無残に命を散らしていく光景に、胃液が逆流しそうになった。

 戦略でどうこうなる問題ではなかった。


「みんな! やみくもに突っ込むな! 最悪な未来が見えてる!」


 俺がそう叫んで、レモリーが声を届けたとしても、どうにもならなかった。

 ヒナたちを止めたとしても、すでに量産型魔王による一斉掃射は確定していた。


 そして不気味なのが怪物化したヒルコの存在だ。

 彼女は敵なのか味方なのか、何かを探している──?


「……そうだ」


 俺も、気づいた。

 

 ネオ霍去病は霧散したが、『宿命通』の気配は残っている。

 見えないが、確かにまだ漂っている。


 俺は魔力を感知できないが、ネオ霍去病に乗っ取られそうになったことで、『宿命通』の残滓のようなモノが体に残っているのを感じた。


 自身の中にある、微かなそれを頼りに手探りで何もない空間を探る。


「それはあってはならない。〝あの方〟にたどり着く存在には、させない」


 掌が何かをつかんだとき、俺の右手首から先が消えた。

 ヒルコの〝声〟と、どちらが先だったのかもわからない。


「うあああああああっーー」


 骨ごと円形に切り取られた右手から鮮血が噴き出る。

 いまさらになって『未来視』が脳内に湧いてきて、いまの惨状を映像として見せる。


 これは、ヒルコの攻撃が『未来視』よりも早かったのか、それとも「時空」を超越した能力なのか分からない。


 自分の右腕が吹き飛ぶ体験を二度も見せられて、想像以上に俺はショックを受けたようだ。

 頭から血の気が引いて、後ろにのけぞってしまった。


「いいえ。直行さま、あきらめてはいけません!」


 しかし光と化したレモリーが、ヒルコからスキル結晶を奪い取ってやってきた。


 彼女が口にくわえているのは、ネオ霍去病の『宿命通』だ。消えかけていて存在自体があやふやだが、すさまじい力を宿しているのが直感的にわかる。


「ウウウウーーー!!」


 その後方から、サイレンのような耳にへばりつく奇声を上げてヒルコが追ってくる。

 彼女はレモリーの下半身を引きちぎったように見えるが、見間違えだろうか──。


「直行さま。これは貴方がお持ちください。失礼いたします!」


 レモリーは『宿命通』を口にくわえたまま、俺の真正面に飛び込んできた。

 光の化身となった彼女は、ちょうどキスをするタイミングで、俺の口内にスキル結晶を残し、そのまま体をすり抜けていった。


挿絵(By みてみん)


「『宿命通』はお前が持っていてもいいんじゃないか」


「いいえ。私よりも直行さまの方が相応しいでしょう。未来も過去も、あなたが統べるのです!」


 口移しで『宿命通』を受け取った俺は、ほとんど直感的に『宿命通』のスキル結晶を飲み込んだ。

 

 どう作用するかは未知数だが、『未来視』に加えて『過去改変』の能力を得れば、現状を打開できる。


「させねえぜ〝恥知らず〟。こんな大層なオモチャはテメェさんにゃ似合わねぇ」


 しかし、グレン・メルトエヴァレンスが死角からあらわれ、剣を振るった。

 怪物化したヒルコの影に隠れていたようだ。


 至近距離で繰り出される斬撃──。


 だが、これは現実に起きたことではなく、『未来視』だ。

 俺は状況を予測して、『回避+3』によってグレンの剣を回避した。


「残念。それは幻術さ……」


 凛とした女性の声は、グレン氏の妻カレン女史。

 ヒナが量産型魔王の討伐に向かったことで、完全にフリーになってしまった。


「じゃあな〝恥知らず〟。テメェさんとの知恵比べは楽しかったぜ」


 横薙ぎに振るわれたグレンの長剣が、俺の頸部を断ち切った。

 切り離され、宙を飛んだ頭部から、血しぶきを上げる自分の胴体を見た──。

次回予告

※本編とは全く関係ありません。


エルマ「いよいよ3I/ATLAS が地球に最接近しますわね♪」


小夜子「なーにそれ?」


知里「別の太陽系からやってきた恒星間天体に分類される彗星で、25年10月29日に地球にもっとも接近するんだ」


直行「ただの彗星ではなく、赤く光っていたものが緑に変わったり、日に日に光が強くなっていたり、人工物の可能性がある、なんてオカルト界隈では結構盛り上がってるよな」


小夜子「宇宙人がやってくるのね! 地球危うし!」


直行「彗星の影響を受けなければ次回の更新は10月31日を予定しています」

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― 新着の感想 ―
ええええ???!!! どうなるのでしょうか??
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