726話・ネオ霍去病のなれ果て
歪んだ空間に、変容したヒルコが立っていた。
怪物化したネオ霍去病の肉体を奪い、自らと同化させた彼女は異様な姿へと変わり果てた。
勇者トシヒコは「ヒルコを助けたい」と言っていたが、どう見てもヤバそうな見た目になってしまった。
そして顔の半分を奪われたネオ霍去病も、胴体がクマムシのような存在になり、おぞましい姿へと変化した。
「何ですか霍去病のオジサン、キンモー♪」
エルマはドン引きしているが、シレっと放射性物質を流し込む鬼畜戦術を続けている。
とはいえ、クマムシには高い放射線耐性があるらしいので効果のほどは未知数だ──。
もっとも、ネットが使えない環境では俺もうろ覚えで確かなことはわからないのだが……。
「恥知らずよ。まるで状況が読めない。『未来視』を伝えよ」
上空で量産型魔王に対処していたラー・スノールの声が届いた。
ともすると忘れてしまいがちなのだが、いま戦場の上空では無数の量産型魔王が三方に飛翔している。
法王庁、勇者自治区、ロンレア領──。
クロノ王国の兵たちを改造した量産型魔王は、俺たちの拠点を壊滅すべく動き出していた。
俺は『未来視』を発動させ、量産型魔王の編隊が行う破壊活動を先読みしようとした矢先、
「………うぐっ!?」
後頭部に衝撃が走り、見えかけた『未来視』が消し飛んだ。
「……よう、やく……たどりついた、貴様の『未来』……とやら。我が……書き換えて……やる」
そして頭の中に浮かんだのは、おぞましい姿となったネオ霍去病。
顔の半分が溶け、クマムシの胴体に呑み込まれたような姿の怪物は、蠅のような翅をはためかせて俺の未来にまで干渉してきた。
「何で俺の『未来視』の中に霍去病がいるんだ!」
「単純な罠に騙されるな恥知らず! 奴はそなたの視線の先に回り込んで挑発しただけだ」
ラーの一喝に我に返った俺は、改めて『未来視』を試みる。
しかし、脳内にあらわれるイメージをキャンセルするかのようなノイズが走り、視界内をクマムシ姿の霍去病がジャックする。これは軽く悪夢のような光景だ。
「ちがう! 霍去病は『未来視』をジャックしてます!」
俺はラーに向けて叫んだ。
「そんなら俺様が引っぺがしてやろう!」
そこに割り込んできたトシヒコ氏が『重力操作』により、俺の『未来視』にへばりついた霍去病を引き剥がしていく……。
「お前らの好きなようにはさせねぇ!」
しかし、グレン氏が小夜子を振り切ってトシヒコの射線に飛び込み、重力波を弾き飛ばした。
「グレン団長! 一緒に戦った仲間なのに、どうして」
一瞬、後れをとった小夜子だが、グレン氏を羽交い絞めにする。
「お前ら異界人は調子に乗りすぎだ。ある意味で魔王よりも厄介だ」
「だからってよォ、チンドン屋! イカレ霍去病を放置してたら世界が滅ぶだろう!」
トシヒコはかつての仲間を諭しながら、『重力操作』によって俺の視界にへばりついたネオ霍去病を引き付け、容赦なく踏みつぶした。
「がふっ……」
短い断末魔を上げ、クマムシと化したネオ霍去病は霧散した。
彼がその場にいたところには、黒い血だまりが広がっていった。
あまりにも呆気ない最期に、俺は一瞬フリーズしてしまった。
「霍去病のオジサン……」
「……やったの? トシヒコ君? もう時間遅延、解除していい」
エルマとミウラサキも、きょとんとした表情で血だまりを見つめている。
「トシヒコさん?」
俺は、〝勇者〟に確認をとるように尋ねた。
「俺様もけっこう被爆しちまったな……。まぁ、小夜ちゃんが無事ならそれでいいか」
血だまりに立つ包帯姿のトシヒコは、もはやネオ霍去病のことなどなかったかのように、小夜子にウインクを飛ばすと、その前方にいるグレン氏に太刀を向けた。
「さて。チンドン屋。あの世からわざわざ戻ってきたかと思ったら、俺たちの国づくりを全否定しくさったな」
「ああ。だからわざわざ化けて出てきてやったぜ」
グレン氏もその反応を待っていたかのようにニヤリと笑う。
羽交い絞めにしていた小夜子の鳩尾に肘打ちを浴びせると、不意を突かれた彼女は障壁を発現させる間もなくお腹を押さえて咳き込んだ。
「野郎! 俺の大事な小夜ちゃんに腹パンしやがって!」
「フラれた女の尻をいつまで追っかけ回すんじゃねぇぞ馬鹿野郎!」
グレン氏と勇者トシヒコは罵り合いながら剣と太刀をぶつけ合い、さらに激しく打ち合った。
「ママ!」
「おっと、お行儀の悪い娘は、お仕置きしてあげなくちゃ。メルトエヴァレンスの名に懸けてね」
一方、乱入しようとしたヒナにカレン女史が割って入り、マフラーを駆使した魔法戦を仕掛ける。
「何をしている〝恥知らず〟! 状況は何も変わっていないぞ『未来視』だ。量産型魔王の動向を追え!」
ラーの言う通り、この乱戦は進捗していない。
「直行サン! ヒルコが不気味ダ……」
ネオ霍去病の怪物化した部分を吸収したヒルコは天を仰ぎ、何かを探しているようだ。
それに対して攻撃を仕掛けようとしている魚面と虎仮面──。
混乱きわまるこの局面に、あまりにも呆気なく退場したネオ霍去病──。
いくら勇者トシヒコが相手だったとしても、散々俺たちを悩ませた『過去改変』を使う動作もなく潰れたのは妙だ。
ましてや俺の『未来視』をジャックしかけた──。
何か、歯車が上手くかみ合っていないような、奇妙な感覚があった。
次回予告
※本編とはまったく関係ありません。
エルマ「万博に行ってきましたわー♪」
直行「混んでたな。二十万人はいたかもな」
知里「コミケより人が多いところに行ったの初めてだった……」
小夜子「お手洗いにも行列ができていてパビリオンかと思ったわ」
エルマ「あたくしの敬愛する独〇国家トルクメニスタン館も二時間待ちで地獄でしたわね♪」
直行「イタリア館なんて五時間だもんな。当然そんな時間並んでられないけど」
小夜子「でも楽しかったわよね! 串カツに朝たこ焼き、万博会場の『えきそば』」
知里「まあ万博スシローは270組待ちで入場制限かかってたけど。前日にはUFJにも行ったし、翌日はサムハラ神社にも行けたし、楽しかったよね」
直行「さて次回の更新は10月31日を予定しています。次回予告は例の彗星ネタかな?」
知里「次回予告の次回予告してどうすんのよ」




