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716話・エルマの計略

挿絵(By みてみん)


「手品師のオジサン、ナパームより恐ろしいモノをご存じですか?」


 鬼畜令嬢エルマはおもむろにグレンに問うた。


「鬼畜の嬢ちゃん、お前さん今の状況が分かってんのか?」


 グレン・メルトエヴァレンスはため息をついた。

 

 状況的にはエルマたちは詰んでいる。


 最高の戦力だった勇者トシヒコと女戦士小夜子が共に戦闘不能──。


 元暗殺者だが臨機応変さに欠け、戦闘巧者とはいえない魚面と、味方かどうかもおぼつかない虎仮面の護衛で、歴戦の戦闘巧者グレンと過去改変能力を持つネオ霍去病を迎え撃たなければならないエルマに、万に一つの勝ち目もないように思えた。


「ハッタリと度胸は亭主譲りだな。まったく世も末だぜ、せっかく俺様とあいつらで築いた平和を、お前らのようなデタラメな連中がぶち壊していきやがるとよ」


 グレンはぼやきながらも、決して隙は見せなかった。

 〝恥知らず〟直行に二度も出し抜かれたことは歴戦の戦術家の心に刻みつけられていた。


「ここに放射性物質があります♪ アンデッドのオジサンには効くか分かりませんけど、霍去病のオジサンはおしまいですわ♪」


 そんなグレンをあざ笑うように、エルマは無造作に召喚術式を繰り出した。

 コピー&ペーストで描かれる手抜きの魔法陣が幾重にも折り重なり、複雑な数式と共に異界からの召喚魔法が起動されていく。


「放射性物質、だと?」


 グレンの顔が一瞬青ざめた。


「異界の超兵器だそうだな。興味がある……」


 霍去病は能面のような三つ首の目を輝かせた。

 あわよくば奪取できはしないかとほくそ笑む。


「………でしょう♪」


 エルマは意味ありげな含み笑いを見せた。


「お前さんだって無事じゃ済まねえだろう」


「仕方がありませんわ♪ 勇者パーティを道ずれに、あたくしは冥府魔道へと旅立ちます♪ どうせ直行さんはレモリーと再婚するんでしょう♪ 幸薄い13年の人生でした♪」


 そう言いながら、エルマはレモリーにアイコンタクトを送る。


「……お嬢様」


 レモリーは小さな声で呟いて、両手の拳を握りしめた。


「お父さま♪ お母さま♪ 先立つ不孝をお許しください♪」


 エルマによる魔法陣は球体に変化し、グレンやネオ霍去病までも包み込んでいった。


 一方、それらからはやや外れた機神の残骸下──。


「う……うぅ……ごふっ、ごふっ……」


 機神に挟まれた小夜子は、おぼろげな意識ながら目を覚ました。


 太ももと腹部に鈍い痛みが残っている。気を失った際に受けたダメージのため、障壁が発現しなかったようだ。内臓に損傷を受けたようで、せき込む際に赤黒い血液を吐いた。


「……小夜ちゃんすまねえ。君を回復できる余力がねぇ」 


 トシヒコは胸を押さえながら、弱々しい足取りでやってきた。


 ポッカリと穴の開いた心臓部分は、エルマの複製によってスペアが装着されていたが、拒絶反応がすさまじく重力操作と回復魔法によって無理やり命をつなぎとめているようなありさまだった。


「大丈夫……。そんなことより、エルマちゃんが言ってること、本当?」


 エルマとグレンとの会話の内容は、レモリーによる風の精霊術によって届けられている。


 目を凝らすと、派手な魔法陣も見えた。


「……どうだろうな。現代社会から放射性物質を召喚するのって難易度高すぎるだろう。ハッタリだと俺は思うぜ……」


 トシヒコは傷口を修復しながら、おぼつかない足取りで小夜子の方へと向かった。


「たぶん鬼畜嬢ちゃんは君の援護をアテにしてる……」


「私の……?」


「小夜ちゃんのバリアが放射能まで防げる確証はねえ。能力の拡張は君次第だけど、さすがに〝恥ずかしいから放射能も遮断します〟。なんてことは無理だろう。自己犠牲と見せかけた、強制離脱を目論んでいる」


「……エルマちゃんが逃げるサポートを、私にしろって求めているの?」


「幸いというか、チンドン屋は鬼畜嬢ちゃんを異常に警戒していて、俺たちにさほど意識が行ってねえ。霍去病の野郎も、異界の『放射性物質』とやらに興味津々……。うかつには動けねぇ状況を作った」


 トシヒコは重力操作で機神を持ち上げると、小夜子を圧迫していた破片を浮かせる。それでグレンたちから身を隠す盾を作り、回復魔法を使い、彼女の出血を止めた。


「ごめんよ。心臓を動かすので手一杯で……」


 自身の心臓を適合させつつの魔法の同時詠唱は、かなりの負担だった。


「大丈夫、無理しないで。私はもう元気。まだ、戦えるよ……」


 小夜子は笑って見せたが、彼女も顔面蒼白で息も絶え絶えだった。


「鬼畜嬢ちゃんがどう動くか全く読めねえ。けど、俺が使い物にならなねぇ以上、この局面を打開できるのは小夜ちゃんしかいねえ。嬢ちゃんは何か合図をしてくるはずだ」


 トシヒコがそう言った矢先、エルマは思いもしない行動に出た。

 ポーチから通信機を取り出し、声を張り上げた。


「直行さーん♪ 詰みました♪ 助けて下さーい♪」


 風の精霊と化したレモリーはその声を届けながら、小夜子の体を宙に上げた。

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


エルマ「カムチャッカ半島の地震には驚きましたわね♪」


知里「あたしは普段テレビなんか見ないけど、病院の待合室で津波情報を見てびっくりした」


直行「ネットではたつき諒先生の『2025年7月の大災害』が再燃してトレンド入りしたり」


エルマ「科学的根拠のない話に惑わされてはいけませんわ♪」


知里「あたしたち『時空オカルト研究会』が言うことじゃないと思うけどね」


小夜子「次回の更新は8月8日を予定しています。お楽しみにね」

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― 新着の感想 ―
これはどうなるのか??? 楽しみに待っています(^_-)-☆
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