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712話・悪党とチンドン屋

 勇者トシヒコは、グレン・メルトエヴァレンスの出現に、攻撃の手を止めざるを得なかった。


 表情こそは変えなかったものの、真〝濡れ烏〟のオーラを消し、通常モードに戻した。


 死んだはずのかつての相棒との再会は、飄々としている勇者トシヒコに明らかな動揺を与えていた。


「不死人になって戻って来やがったか。あの世からお払い箱にされたのか?」


 煽りながら、トシヒコは〝濡れ烏〟を振るい、グレンの胴体を薙ぎにいった。


 ひらり、と曲芸のように空中回避で斬撃を空振りさせた道化師は、指先から光弾を五つ放った。


「真の力を封じたナマクラじゃあ、俺は斬れんぞ。もっとも〝存在〟を消し去る斬撃で俺を消し去れば、お前さんは勇者でいられなくなる。魔王討伐の功績は、半分は俺のおかげだからな」


「恩着せがましいチンドン屋だな。死人の癖にぺらぺらとよくしゃべる」


 追尾式の光弾を、解呪で打ち消しながらトシヒコはグレンに斬りつける。


 かつての仲間とはいえ、不死者(アンデッド)となった存在に対して、剣を振るうこと自体に躊躇はない。


「グレン団長! ヒナちゃんをどうしたの? まさか……」


 騎神姿で霍去病と戦闘中の小夜子も、グレンに声をかけた。


 しかし彼女は霍去病から目を離したわけではなく、怪物化した霍去病との戦線を維持したまま、注意を彼に向けた。


 小夜子にとってもグレンは恩師であり、共に命をかけて戦った仲間だったからだ。


「お人好しのヒナ嬢は、俺のダミーを羽交い絞めにしてるだろうさ。それにしても何だその変な甲冑は?」


「神経ガスの中で戦ってるから、トシちゃんがロボットに乗せてくれた!」


 小夜子はトシヒコから授けられた聖剣〝愛羅武勇〟を豪快に振り下ろす。


 三首の怪物と化した霍去病のうち、猿の首が落ちた。

 しかし過去改変能力によりその事実はリセットされ、元の姿に戻る。


「どうするトシちゃん」


 機神に乗り込んでいる小夜子だが、さすがに疲労は積み重なってきている。


「そのまま。小夜ちゃんは霍去病をつぶしてくれ。ヒルコちゃんは斬らないように。こっちのチンドン屋は俺様が引き受ける。ただし機神の制限時間が過ぎたら速やかに退避してくれ! 毒ガスの中を裸で戦わせるわけにはいかねえ」


 トシヒコは小夜子に指示を出した。

 

 ともに魔王を倒した仲間たちの中では、意外にも彼女がもっとも作戦遂行能力が高い。


 その点はトシヒコも安心していたが、過去改変能力はあまりにも厄介だった。

 ただ、どれほどの能力であったとしても、継戦能力には限界がある。


 勇者はそれを計算に入れて、波状攻撃を仕掛けるつもりだった。


「小夜子が箱入り娘かよ。相変わらず女には甘い奴だ」


 グレンは軽口を叩きながら最後光弾を放ち、同時に複数の短刀を投げつけた。


 しかし重力操作能力を持つトシヒコには届かず、短刀は惑星のように彼の周囲を巡っていた。


「なあチンドン屋、恥知らずを殺しに行ったんじゃなかったのかい?」


 トシヒコは太刀〝濡れ烏〟を通常モードに戻して斬りつけるが、グレンもマントの下から出した長剣で受け流す。


 柔らかな戦闘スタイルの両者の剣戟は、さながら舞踊のようだった。 


「恥知らずの野郎が思った以上に用心深かった。みっともねぇが仕留めそこなった。で、お前さんと旧交を温めに来てやったって寸法だ」


「“恥知らず”には俺様も手を焼いてるんだ。まったく仕方のねえ、世の中になっちまうなぁ」


 互いに剣を打ち合いながら、言葉を交わす。 


 トシヒコにはグレンの心情がまったく分からなかった。

 

 敵の錬金術師と死霊使いによって肉体を生成され、死者の魂を縛り付けられた不死人であるグレンだが、呪いで魂を呪縛される通常の死霊とは異なり、かなりの自由意志を残している。


 いまのグレンは、ネオ霍去病の過去改変も含めた異能で作られた不死人であることは間違いないが、それにしてもなぜクロノ王国の〝七福人〟に味方をするのか、トシヒコには理解できなかった。


「なぜクロノにつく? お前さん、顔は極悪人だが、無差別に街を焼き払う奴らに味方をするようなタマじゃねえはずだ」


挿絵(By みてみん)


 トシヒコはつばぜり合いに持っていってグレンに尋ねた。


「……俺が決めたことだ」


 グレンは答えなかったが、トシヒコは剣先にかすかな震えを感知した。


 勇者はその感覚に彼の葛藤を感じたが、グレンの視線がトシヒコから外れた。


「!?」


 トシヒコも後ろ手で強力な魔法反応を感知した。

 空間転移の魔方陣が描かれている。


「こらー♪ 怪我人が動いちゃダメですわー♪ トシオさん♪」


 キンキン声でまくし立てるのは、鬼畜令嬢エルマだった。

 すぐその背後に控えるのは魚面と、虎仮面──。


「トシオじゃねぇよ、ト・シ・ヒ・コな!」

 

 勇者は首筋をかきながら訂正したが、エルマは聞く耳を持たなかった。

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


知里「ちっ。アボカドまた外れたわ」


直行「見た目からだと食べごろかどうか微妙に分からないよな」


知里「売り場で商品をベタベタ触るのもよくないから、ちょっと触っていい感じなのを選ぶと硬かったり中身が変色してたり、アボカド難易度高いよね」


エルマ「皮の色が緑じゃなくて黒々してるの選べばいいじゃないですか?」


直行「ポイントはヘタらしい。とある園芸農家さんの動画だと、ヘタの周りに隙間があって、ほんの少し触るとグラグラするのが食べごろらしい」


知里「でもさあ、ヘタが取れてるモノも多いじゃない? アボカド美味しいけど何気に食べるの難しいよね」


エルマ「そもそもアボガドなのかアボカドなのかでも迷いますしね♪ 次回の更新は7月18日を予定していますわ♪」

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― 新着の感想 ―
エルマ嬢! 最高のツッコミですね!(*^^)v
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