表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
713/733

709話・尚書令ギッド

 量産型魔王によるロンレア空爆が迫っている。

 その数は千体以上だという──。


「ばかな、あり得ぬ。我が国はそこまでの戦力を保持していないぞ?」


「ネオ霍去病の仕業か? だがそんな量産技術は知らぬ。予算も通した覚えはない……」


「蘭陵王! 貴様も関与した企みか?」


 クロノ王国の伝令兵からもたらされた一報に、誰もが驚いていた。

 当事者たる高官たちにとっても、想定外の事態のようだ。 


「さぁてね。俺の知ったことじゃねぇな……」


 ざわめく彼らは蘭陵王ことグレン・メルトエヴァレンスに詰め寄るが、道化師は口元をゆがめて答えを濁した。


「恥知らずよ。グンダリから奪った『未来視』で、()()が見えたのだな」


 背後からラー・スノールが問いかけた。

 グレンの方を見ていた俺は振り返り、強くうなずいた。

 

「……はい。最悪の未来の一つです。ただ、そこへ至る課程がつながらない」


 この世の終わりのような光景だった。

 空を埋めつくすように巨大な群泳から、隕石を連想させるような火球が降り注ぎ、一切を焼き払う。


 彼らが所持していた量産型魔王は数体のはずで、なぜそれほどの数が大破壊を行うのか、誰の意図を受けてのことなのか、つながらない。

 

 思案している俺の肩をつつく手があった。


「そなたが見た未来を余に共有できないか? 『未来視』の能力で、それらが起こりうる蓋然性(がいぜんせい)までも見通せるのか知りたい。知りたいな、ああ気になる……」


 ラー・スノールは子供のような表情と態度で俺に詰め寄ってきた。

 災厄への危機感、というよりは単純な好奇心のような反応だと思った。


 前にも思ったが、この人は難しい言葉は使っても性根はすこし子供っぽいのかもしれない。


「ラー殿下。ひとまず当座は覚書を交わして、戦を収めましょう。しかる後、戦える者は現場に急行するのが肝要かと。後日正式な条約の調印といきましょう。この世界が存在していれば、の話ですが……」


 前のめりになっているラーを、ギッドが諫めた。

 

「尚書令ギッドか、左様だな。恥知らずよ。よい部下を持ったな」


 我に返ったラーは少し照れたようにうつむき、ギッドにうなずいて見せた。

 

「クロノ王国の皆様も、まずは事務方のみで停戦合意を済ませてしまいましょう」


 ギッドは頼りになる男だ。うまくこの場を取り仕切って、停戦の流れに持っていけた。


挿絵(By みてみん)


 一応というか、現在ギッドの肩書は尚書令ということになっている。


 シン・エルマ帝国なんてふざけた名称で、古代中国を模しているのはネオ霍去病のようで本意ではない。エルマが勝手に決めたことなので俺としては訂正したかったが、定着しつつあるのは仕方がない。


「ギッド。この場で宰相の権限を与えた上で、文書作成を一任する。頼むぞ」


 ともかく、俺は交渉の権限をギッドに一任すると、天幕を出て空を睨んだ。

 まだ青空が広がっているが、言い知れない異様な雰囲気を西から感じた。


 向こうで光ったのは、小夜子と霍去病の戦闘だろうか。

 勇者トシヒコと思われる包帯男も加勢してくれているため、最悪な事態には至らないと思う。


 とはいえ、ネオ霍去病の動向も予断を許さない状況だ。


「直行さま。量産型魔王の大軍、私が直接見て参りましょうか」


 精霊化したレモリーが、俺の頭の上まで浮き上がって言った。


「いや、単騎先行は止そう。せっかくラー殿下がやる気満々なんだ。彼には積極的に関わってもらおう」


 レモリーの提案はもっともだった。俺が見た「最悪な未来」とクロノ王国の見張りが見たモノの答え合わせをしたい気持ちは分かる。


 ただ、現実だとしたら千体の量産型魔王は脅威以外の何物でもなかった。

 一体を倒すのにレモリーは生身の肉体を手放すような決断を迫られたのだ。


 戦うには万全の戦力がいる。

 あえてラー前法王の名前を出したのは、好奇心旺盛な彼をたきつけて、さりげなく味方戦力に加えるためでもある。

 

 おそらく天幕の中で、彼は俺たちの会話を聞いていると思われる。『天耳痛』は最強の地獄耳だ。


「なるほど。承知いたしました」


 レモリーは理解したのか、ゆっくりと地上に降りてきて俺の手を取った。

 

 天幕に戻ると、当のラー前法王がロンレアに派遣された司祭に杖を渡しているところだった。

 

「前法王の立場では権限はないが、余が枢機卿たちには事後説明しておく。法王の名代として和平の調停者となれ」


「……い、以下同文ということで、皆様はよろしいですかな?」


 以下同文の司祭で知られる彼は、相当にいい加減な人間だ。

 好色漢ジュントスといい、法王庁には姫騎士リーザのような狂信者でなければ残念系の人材しかいないのだろうか──。


「ラー殿下の同行、心強く思います」


「恥知らずよ、余を捨て石に使う算段であろうが、聞き漏らしはしないぞ」 


「滅相もありませんよ、ラー殿下」 


 図星を指された俺は、苦笑いしながらヒナとグレンたちのいる方を見た。

 

「直行くん。数千体の量産型魔王への対処、この人にも協力してもらうから!」


「はい?」


「冗談じゃねぇぞ、ヒナよ。お前さんはいつから俺の娘になったかと思ったら飼い主になりやがったんだ、ええ?」


 俺は目が点になってしまった。

 死神装束だったグレン氏が道化師の格好になっていた。

 しかも首輪をつけられて、ヒナの手首に繋がれている。


 いったい何がどんな経緯なのか分からないが、ヒナがグレンを鎖で繋いで言いなりにしている。


 俺はミウラサキの方を見たけれど、彼は少年のような笑顔で全力の「???」な表情を浮かべていた。


「よく分からないが、グレン殿も現場に向かうということでいいのか? 俺を殺すってのはナシで頼みたいが……」


 量産型魔王に対処するため、戦える者は現場に向かう。

 俺は戦力にはならないが、未来視ができるために同行し、対策を練る係だ。

 レモリーは俺のボディガード兼、精霊化による通信役の任を負う。


 ラー・スノール、ヒナ・メルトエヴァレンス、ミウラサキ。

 花火大会では死闘を繰り広げた彼らが共同戦線を張る。


 これに、まさかのグレンがヒナによって強制参加させられて、メンバーが確定した。

 

「直行どの。貴方はもはや世界の命運を担う存在になってしまいましたね」


 書記席から立ち上がったギッドが、俺を見送ってくれた。


「ご武運を! 直行どの」


「ギッドも、責任を負いすぎるなよ。お前を失ってしまったら、戦後かなり困ることになる……」


 俺とギッドは硬く抱擁した。

 ヒナが目を丸くしているのが気になった。


「やっぱりあの噂は本当だったんだ……」 


 彼女がつぶやいた〝噂〟の件はともかく、突如量産型魔王が増殖したという謎の現象を突き止めるため、俺たちは停戦を強行し、現場へと急行する──。


次回予告

※本編とはいっさい関係ありません。


エルマ「何とあたくしたちは宮古島に来ていますわ♪ マンゴーいただきましょうね♪」


直行「ホントは次回作の取材なんだけどな」


知里「生まれて初めて南十字星を見た」


小夜子「八重干瀬でシュノーケルもするんでしょ」


直行「沖縄だから当然ヤギも食べるぞ」


エルマ「次回の更新は台風が来なければ6月27日を予定していますわ♪ 『南の島からこんにちは♪』お楽しみに♪」


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
……素晴らしい景色ですね(*^。^*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ