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706話・ターンオーバー

 小夜子とトシヒコにネオ霍去病を任せた俺は、レモリーを伴い一路ロンレア領をめざした。


挿絵(By みてみん)


 ミイラ男のような外見の細い男のシルエットが、軽く手を振ったような気がした。


 ☆ ★ ☆


 ピンク色の戦車は砂塵を巻き上げて街道を爆走し、そろそろロンレア領に入る。

 焼け焦げた臭いが鼻についた。


 視界に広がった焼け野原を、さらに踏みつける軍馬の蹄跡──。


「ひどいな」


 クバラ翁たち農業ギルドが何十年もかけて育んだ肥沃な農地も、たった一日で変わり果ててしまった。

 文字通り皆の人生が吹き飛ばされた光景に、俺は両拳を握りしめた。


「大地の精霊力が衰滅しています。この地が再び蘇るためには長い年月が必要でしょう……」


 精霊力を感知したレモリーが伏し目がちにつぶやいた。


 農業ギルドの皆が味わった絶望感はどれほどのものだろうか──。

 勝ったとしても、再起は容易ではないだろう。


 それでも、戦いを終わらせなければ皆の命までも奪われてしまう。


「停戦は絶対条件としても、復興までの足がかりも掴みたいものだな……」


「……はい。それも厳しい道のりかと思われますが、私も尽力いたします」 


 旧王都で従者をしていたレモリーにとって、畑仕事はあまりピンと来ないかも知れないはずだけれど、彼女は気丈にそう答えた。

 

 現状、勇者自治区も空爆でかなりのダメージを負っており、両陣営は復興という問題を抱える。


 ピンク色の戦車をさらに走らせると、シェルターのある場所を取り囲んだクロノ王国軍の陣営が見えた。 

 

 戦闘が行われた形跡がないことは幸いだった。


「エルマ。俺だ。敵の陣営が見える位置まで来ている」


 俺は通信機を取り出してエルマを呼び出した。


「どちら様ですか? あたくしには“俺”なんて名前の知人に心当たりはありませんわ♩」


「エルマよ、茶番はいいから。いまどこにいる? ヒナちゃんさんたちとは合流しているのか? 前法王との停戦合意はどうなった」


「ヒッ……じゃあ表にあらわれた法王庁の野戦病院は、むっつりスケベのジュントスさんじゃなくてあの恐ろしいラー前法王さまの差し金ですか……」


「野戦病院だと?」


「ただちに確認して参ります」


 レモリーはそう言うと光の精霊に姿を変えて戦車を飛び出していった。


「こちらからはクロノ王国の陣営に遮られていますが、その先に天幕が幾重にも広がっており、法王庁の旗印が立っています」


 上空に出たレモリーから通信機ごしに報告が上がった。


 彼女の話だけでは要領を得ないけれど、複数の天幕(テント)と、法王庁の旗印、エルマの野戦病院? という言葉から判断するよりほかはない。


「……まてよ。ひょっとしたらラー殿下による会談場所の設営か……?」


「ヒィィィ……あの恐ろしいラー前法王が来ているのですか? 地獄じゃないですか? カンベンしてくださいですわ~……」


「あれ? 停戦合意の話は言ってなかったっけ?」


 ガルブルなエルマの反応は置いておいて、俺は大きく目を見開いた。


 ──また何か状況が変わっているのか……?


 『未来視』の能力により、俺は最悪な状況を避けるために打てる手を打ってきた。


 エルマたちには先にロンレア領に入ってもらい、勝手に降伏したジュダイン・バートを止めてもらい、さらにヒナとミウラサキにはグレン・メルトエヴァレンスを牽制してもらう。


 ロンレア領の降伏とギッドの死を回避した俺だが、それに加え本格的な停戦合意のためにクロノ王国の王子でもあったラーを交渉役に巻き込んだ。

 

 たたでさえ複雑な『未来視』を、ネオ霍去病による『過去改変』の中で行っていたので、頭がこんがらがって来そうなのは確かだった。


「直行くん。ラー・スノール殿下をまた巻き込んだのね」


 通信機にヒナが割り込んできて、あきれたような口調で言った。


「ヒナちゃんさんこそ、グレン氏とは会えなかったの?」


「…………」


「それがプイッといなくなってしまったんだよね。ヒナっちの魔力感知でも分からないんだ」


 少しの沈黙の後に、通話口からミウラサキの声が響いた。


「もう。グレン団長、何を考えてるのよ」 


 突如戦場にあらわれた野戦病院と、忽然と姿を消したグレン・メルトエヴァレンス……。


 野戦病院については、法王庁の旗印からラーの仕業である可能性が高い。

 彼に通信を入れればすぐに分かることではあるが、問題は消えたグレン氏の方だ。


「レモリー。重大な話がある。すぐに戻って来てくれ」


 俺は再度『未来視』を発動させつつ、レモリーを呼んだ。


 そして彼女の帰還までの間、ヒナたちにこれまでの経緯を説明する。

 ラーと共同でクロノ王国の本国との停戦協定を結び、“七福人”から戦う理由を奪う。


 七福人は、先王ガルガの側近集団だが、政治的な基盤は弱い。

 だから本国とまず切り離して、それでも戦うというなら各個撃破する。


 でたらめな人体改造や量産型魔王、過去改変能力者の専横は認めない。

 それが、俺とラーの間で一致した見解だった。


「ヒナちゃんさんも自治区代表として交渉に参加してほしい」


 俺は事情を説明しつつ、勇者自治区にも参加を促した。


 法王庁と聖龍殺しの勇者自治区は取り返しがつかないほど対立しているが、クロノ王国を噛ませれば対話は可能だ。


 クロノ王国との停戦交渉に、ラーを、勇者トシヒコと死闘を繰り広げた前法王を充てるのは曲芸のような政治だけど、現状これが俺たちのベストな落としどころだと思われる。

 

「無理よ。ヒナは処刑されたことになってるから、カレム君に行ってもらうのでいい?」


「本音を言えばトシヒコさんがいいんだけど、彼はいま小夜子さんと霍去病に当たっているから無理だなぁ……」


「いま何て言った? トシって? 彼がいるの? 何でママといるの? ヒナ聞いてないよ、本物なの? どういうことなの???」


 動揺を隠しきれないヒナの声に、俺も吊られたように驚いてしまった。


 ヒナちゃんさんは、勇者トシヒコの復活を聞いていない──?

次回予告

※本編とは全く関係ありません。


知里「ガンダムGQuuuuuuXけっこう面白いんじゃない」


エルマ「さすが知里さん♩ 褒めるときも上から目線ですわ♩」


知里「まあね。主人公がアンタよりも狂犬だし、現段階では8話まで公開されたところだけど、結末が楽しみね」


小夜子「メガネつながりでシムス中尉の再登場は嬉しかったわ!」


直行「作中では大尉になっていたな。ああいう1stの割とマイナーなネームドが出てくるのはオールドファンには嬉しかったり」


知里「竹先生のキャラデザは『刀語』世代のあたし的にはツボだったんだけどね」


直行「1stパートとの落差も含めて、いろんな楽しみ方ができる面白いアニメなんじゃないか」


エルマ「次回の更新は6月7日を予定しています♩ 『ガ○ダムに魂を縛られた者たち』お楽しみに♩」

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