704話・ミイラ男と銀の鎧
「そこにいるのは誰?」
「何者だ? 姿を現せ卑怯者!」
小夜子とネオ霍去病が同時に叫んだ。
敵同士で対決している二人の声が重なり合い、奇妙なハーモニーを奏でた。
「恥知らず。この場は彼女に任せて、貴様はロンレア領で停戦に合意せよ」
くぐもった声は森の中から聞こえた。
男の声で年齢までは分からないが、なぜか俺を名指しで言った。
先に見えた包帯の男からの指令、なのだろうか──。
一瞬、グレン・メルトエヴァレンスの罠かもという疑念も浮かんだが、分からない。
『未来視』を発動させてその後の状況を伺ってみたところ、思いもしない情景が浮かんだ。
焼け野と化したロンレア領──。
クロノ王国軍が取り囲む中、前法王ラーと俺が和平の調印を行っている。
シェルターの入り口にはエルマとギッド、クバラ翁たちが仁王立ちしていた。
住民の姿はみえないから、地下に避難しているのだろうか、あくまでも脳内映像なので詳細までは分からない。
召喚獣の〝鵺〟に騎乗した魚面は上空を旋回している。
この映像から推察すると、何かを警戒しているようだ。
敵将グレンや残った〝七福人〟らの奇襲に備えているのだろうか──。
──これはあくまでも無数に存在する可能性のうちの一つに過ぎない。
この世界の仕組みがどうかは分からないが、俺たちの生きていた地球では運命論は否定されている。
すべては不確定で、未来は確率によって基本的には予測不可能だ。
だから俺が見ている未来は可能性のひとつに過ぎない。
少しややこしいが、もしグンダリのように俺が目に『未来視』を埋め込んでいれば、視界内で起こりうる現象をキャッチできるだけなのだろう。
しかし俺がスキル結晶『未来視』を脳内に直に挿入したことで、可能性を先に体験できる。
最悪の未来があらわれたら、そうならないように最悪の可能性を潰していった。
そうやって小夜子たちを助けられたのだが……。
今度は逆に、和平を達成した未来が見えたので、そこにゴールを設定して、そうなるように行動を積み重ねていく。
これが現在、俺にできる『未来視』の活用方法だが、問題は同時に起こりうる複数の事態に対して並列的な対処が難しいことだ。
俺がこの場を離れてしまえば、未来視による小夜子のサポートができなくなる。
要するに、「あっちを立てればこっちが立たず」的なもので、神経ガスと過去改変能力をもったネオ霍去病に単騎で戦う小夜子が気がかりだった。
「……ていうか、小夜子さんがいない」
空を見るとセーラー服の意匠が施された女神像? という銀色の立像があらわれていた。
その胸元に、まるで十字架にかけられたようなポーズで小夜子が宙に浮かんでいる。
「おのれ! まとめてひねりつぶしてやる!」
ネオ霍去病は両腕の武器をぶん回して小夜子もろとも銀色の女神像に攻撃を続けている。
「レモリー! いったい何がどうなっている?」
俺は通信機に声を張り上げ、そのさらに上で援護していたレモリーに尋ねた。
「信じがたい現象ですが、あれは精霊術です」
要領を得ない答えが返ってきた。
普段は的確な物言いをするレモリーには珍しく、声が震えていた。
「あ、ああああん」
一方、戦闘中だったはずの小夜子はちょっと誤解してしまうような艶めかしい声を上げて、宙に浮かんだ銀色の立像に取り込まれていった。
「え……?」
一瞬、小夜子の全裸姿が見えたかと思うと、身につけていた近未来くノ一衣装が落下していく。
彼女の姿は銀色の立像に吸い込まれ、消えた。
「レモリー、ちょっと意味が分からない。なんで小夜子さんはあの立像に吸い込まれた? そもそもあれは何だ? さっき聞こえた声は何だ? 」
俺が未来を体験している時間は、現実世界ではほんの一瞬のはずだった。
しかしめまぐるしく状況が動いたのは過去改変の能力も関係しているのかもしれない。
とにかく、俺の想像を超えた動きがあるのは確かだが、俺と同じく動揺している割にはレモリーに警戒心が感じられないことは気になっていた。
「レモリー、急に出てきた銀色の女神像が、精霊術だっていうのか?」
魔法も闘気も使えない俺には、いまこの場で起こっている現象を追うことができなかった。
もどかしい思いに駆られて何度も彼女に尋ねてしまうが、通信機から聞こえる彼女の声は次第にいつもの冷静さを取り戻していった。
「……私もあのような精霊術ははじめてです。ですが私の知る限り、このような変則的な精霊術を扱う人物はひとりしか該当しません」
そう言われて、はじめて俺にも理解できた。
しかし、まさか〝死んだはずの〟彼がこの場にあらわれているとは驚きだ。
勇者トシヒコが復活している、というのか──。
今回のデザインはふじわらしのぶ様からいただいたFA
『UR 純愛戦士 ゴッデス小夜子 』を本編に登場させていただきました。
いつも素晴らしいデザインワークをありがとうございます。
量産型魔王から魔槍トライアド、『天魔化身 NEO霍去病』などなど、もはや合作?
いつも描いていて楽しいデザインで、改めてふじわらしのぶ師匠の発想力には多くを学んでおります。
武器やモンスターデザインにそこまで含蓄がなかった私に新しい道を拓いて下さってありがたき幸せです。
拙作もいよいよ最終章ですが、最近では更新が週一になってしまい心苦しいばかりです。
次回の更新は5月22日を予定しています。
長い長い物語に付き合って下さっておられる読者様に心からの感謝を込めて。




