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701話・和平協議あるいは認知戦争

「余が仲介者となり、クロノ王国の侵攻を止めさせろと申すか」


 通信機ごしにラーはそう言った。


挿絵(By みてみん)


 声色からは感情の変化は分からない。

 ただ前法王を抱き込んでの和平交渉に、いきなり拒絶されなかった点は安心した。


「見返りに、こちらからは再生医療技術に加えて勇者自治区からの技術援助も約束します」


 取引として、こちらが提示できる〝価値〟は現時点ではこのくらいだ。

 俺は通信機ごしにラーの反応を待った。


「……そなたは本気で言っているのか。何のために我ら法王庁が異界人たちの片棒を担ぐような真似をしなければならないのか」


 彼は即答を避けた。


 前法王の立場としては、そう言うより他はないのは当然だろう。

 しかしラー個人としてはエルマの再生医療技術に乗ってきたあたり、関心がないわけではないはずだ。


 この点を抑えた上で、俺はあえて話題を変えてみた。


「魔王討伐軍の軍事顧問だったグレン・メルトエヴァレンス氏をご存じですよね。死んだはずの英雄が蘇り、我々と対峙しています。さすが稀代の戦術家です。いやあ手ごわいのなんの……って」


「〝七福人〟の中に死霊使いがいることは知っている。禁忌の術で大物を呼び寄せたというわけだな」 


 俺の予想通り、ラーはこの話に食いついてきた。

 前法王としては、看過できない問題であるはずだ。


「過去を書き換える能力のネオ霍去病と死者を操る死霊使い。こんなのを放置していたら世界は収拾がつかなくなりますよ」


 ただでさえエルマが開発した再生医療技術によって、この世界のバランスは崩壊する。


 この異世界で人間は〝死〟をも超越した存在になれるのかもしれない。 

 しかし、何かしらのルールや規制がない状態では〝何でもあり〟になってしまう。


「…………」


 前法王ラー・スノールは黙っていたが、当然それを理解しているはずだ。


「すでにクロノ王国の一部は異界人の技術と人体改造、死者の復活と使役とやりたい放題です。クロノ王国自体をなくしたいわけじゃない。過激な連中をどうにかしないと、収拾がつかなくなると言っているのです!」


 俺はキッパリと言い切った。


「兄が築いた新王国を滅ぼすために異界人のそなたらと組めと? だが、われらの世界が異界人どもに飲み込まれていくのを耐えがたく思う人々もいるのだ」


 それに対してラーは煮え切らないような答えを返した。


 彼の個人的な問題意識も含めて、価値観は揺らいでいるように思えた。


「確かに代々受け継がれてきたこの世界の価値観は大切でしょう。それを守るために法王庁は存続すべきだと俺は思います」


「それぞれの受け皿を用意しろ、ということか」


「価値観によってこの世界を分割統治しませんか? 棲み分けというか、たぶん、それぞれがよりどころを持てれば、お互い接触しあわないで生きられないかなと思うんです」


「領分を侵犯した者は罰すればいい、という考え方で問題はないな」


 ラーは暗に勇者自治区のことを言っているのだろう。

 トシヒコがいない現在、ヒナたちの政治力ならば俺でも十分に制御可能だ。


「それで構いません。何卒すみやかな和平をお願いします」


 この人は俺とは違い、人を欺くことはまずないだろう。


 戦闘では手も足も出ないが、政争の舞台ならば俺にも勝ち目のある相手だ。


「承知した。では停戦の使いは余みずからがロンレアに赴こう。不死者として蘇ったグレン・メルトエヴァレンスにも興味がある。クロノ王国への交渉はいぶき氏に一任しよう。立場上、余は部下にあたるためそなたが直接命じてくれ。()()()()()()()親書は余が書くから問題なくクロノ王国上層部と接触できるはずだ」


 ラーには交渉で勝てる。

 そう思っていた矢先、予想外の提案が飛び込んできた。


「……俺に選択肢はないですよね。いぶきに代わってください」


 チクチクと痛む胃の辺りを撫でながら、俺はいぶきが通話口に出るのを待った。


「クロースが偉そうな口を聞いてスイマセン。電話代わりました」


 いぶきはどこまで知っているのか、とぼけているのかは分からない。

 あるいは本当にラーの正体を知らないのかもしれない。


 それは確かめようがないことなのでスルーをして、俺は()()()に用件を伝えた。


「……要するに〝クロノ王国第二王子で元法王のラー・スノール殿下〟からの親書を渡して和平して来いってご命令ですね?」


「いぶきがどこまで〝本当のところ〟を知っているか、あえて詮索しないけど、頼まれてくれるか」


 俺はカマをかけるような口ぶりでいぶきに告げた。


「恐れ多くもコイツがラー殿下のフリをして、直行さんも信じているのは知っていますよ。ただ、クロノ王国の上層部が騙せるかどうかは分からないでしょう。もし親書が偽物だとバレたら、首を刎ねられるのは僕なんですからね」


 いぶきがどこまで分かっているのか定かではないけれど、俺も彼も腹の探り合い的な会話に声が弾んでいた。


「命がけのハッタリ勝負だよ、いぶき。停戦に合意できたらシン・エルマ帝国の幹部の地位は保証するよ」


「死亡フラグを立てるのやめてくださいよー。まぁ、自業自得ですけどね」


 通信機ごしに響く彼の声は、後ろ向きな言葉とは裏腹に力強い決意に満ちているように思えた。 

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


エルマ「最近はスーパーでもマンゴーがお手軽に買えるようになりましたわね♪」


知里「そうね。宮崎産のはめちゃ美味しいけど高いからね。タイ産の恋するマンゴーとかお手軽に買える値段だし良いよね」


直行「タイ産のはナンドクマイ種だな。93年に輸入が解禁されたんだ。昔はゴールデンマンゴーとか言ってたな」


小夜子「昭和の時代にはマンゴーなんてまず食べられなかったからね」


知里「次回の更新は5月3日を予定しています。『恋する恥知らず』お楽しみに」

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― 新着の感想 ―
ラー・スノール殿下をこちら側に引き寄せたなら勝ち目ありですよね(^_-)-☆
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