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699話・異形の霍去病

 禁忌の神経ガスによって、ネオ霍去病を葬ったはずだった。

 しかし敵は異形の怪物へと姿を変えた。 


「……なんだよあの化け物は!」

 

 双眼鏡越しに見る俺の手は震えている。


 その姿は巨大で、木々よりも頭一つ抜け出しており、体躯はゆうに五倍以上に膨れ上がっている。

 肩口から双頭の蛇状に伸びているその先には猿と鶏の頭がついてゆらゆらと動いていた。


 右手には『西遊記』の沙悟浄が持っているような降魔の宝杖──。

 左手は青い大剣を握りしめている。


挿絵(By みてみん)


 さらに四肢は獣化──と、いうよりもクマムシのようなグロテスクな肢を中国風具足で覆っている。


「…………グあぁァァァ!!」


 怪物へと姿を変えた霍去病はこちらに気づいた様子はなかった。

 苦しそうにのたうち回り、悲鳴を上げている。


「エルマお前、いったいどんなガスを射出したんだ!?」


 通信機越しに、俺は尋ねた。


 この変身は奴が浴びせた毒ガスの影響なのか知りたかったからだ。


「放射能などではなく、単に致死性の高い神経ガスですわ♪」


 エルマは投げやりな口調で答えた。

 俺は腕を組んでため息をついた。


 そんな俺を見かねたのか、小夜子が身を乗り出してきて双眼鏡を手に取った。


「私にも見せて! うわー、これ強そうなやつだ」


 言葉こそ能天気だけれど、彼女の全身からは闘気がみなぎって臨戦態勢だ。 

 普段のおおらかな雰囲気が一変して、隙のない戦士の身のこなしに一変している。


 それだけあの怪物は強力な敵ということか──。

 だとしたら俺たちはみすみすと敵を強化させてしまったことになる──。


「でも直行さん♪ 無色透明な神経ガスを充満させた空間を、逃れられるとは思いませんけど♪」 


 エルマはそう言うが、あの三つ首が気がかりだった。

 肩の先から出ている鶏の首が、痙攣の後にぐったりと崩れ落ちた。


 ──かと思うと、それらは本体の霍去病ごと姿を消した。


 そして瞬間移動したかのように、元いた場所からあらわれた。

 まるで「セーブしたところからやり直した」かのように、巨体が湧いて出てきた。


「……これが、過去改変?」


 未来視でも現実でも時間差はほぼなく、同じことが繰り返された。

 鶏の首は再度毒を食らい、もがき苦しみだした。


 まるで炭鉱のカナリアのように、先行して絶命する鶏の首。

 それを道しるべとしながら過去を改変し、生存への道を模索している。 


 霍去病は鶏の首で毒の位置を探っているのか──。


「レモリー! 上からナパームで奴を焼き払ってくれ」


 俺はドルイドモードで上空に待機していたレモリーに指示を出した。

 

 先ほどの戦闘でグレン氏がやった戦法をそっくり真似る。

 増粘剤は応酬押収して彼女に持たせておいた。


 我ながら非道な攻撃を畳みかけるようにするのは気が引けるが、手段は選んではいられない。

 最悪な未来を回避するためなら、俺はどんなことだってやるつもりだ。


 気がかりなのはなぜ、霍去病が怪物化したのだが──。


 異形の存在へと姿を変えるのは何度か目の当たりにしているとはいえ、敵の総大将に近しい存在までが怪物化するとは思いもしなかった。


「これは毒か⁉ おのれ、卑怯なり!!」


 怒り狂ったネオ霍去病が雷鳴のような叫び声を上げた。

 毒に気づかれてしまった。


 俺の未来視に、こちらに突進してくる霍去病の姿が浮かんだ。

 遅かれ早かれ気づかれる。


「ヒナちゃんさん! 怪物化した霍去病がこちらに気づいた! 手を貸してくれ!」


 俺は通信機ごしに救援を要請した。


「ゴメン直行くん! こっちもグレン団長と交戦中!」


 しかしヒナから返ってきた答えは、向こうも切羽詰まった状況だった。


 グレン氏が再度あらわれるとは想定外だが、彼の狙いは多分ヒナたちではない。


 俺の未来視によれば、量産型魔王を引き連れて、ロンレア領へ再度の空爆を仕掛ける。

 そして降伏勧告により、味方のジュダイン・バートは俺たちを裏切り、ギッドの首を差し出す。


 俺は額に手を置いて、深く呼吸をした。

 冷静に考えないといけない。


 状況から考えると、グレン氏の役目は最高戦力であるヒナやミウラサキの足止めだ。

 その間に別動隊のソロモン改が空爆を仕掛ける。


 この戦局に怪物化した霍去病がどこまで関知しているのかは分からないし確かめるすべもない。


「ヒナちゃんさん! 優先順位を考えよう。グレン氏の役目は足止めだ。まずはロンレアの空爆を防ぎ、住民の命を守る! それとロンレア領に降伏をさせないこと!」


 俺は通信機越しに声を張り上げた。

 交戦中なのか、ヒナの荒い息遣いと金属音がきこえている。


「怖いのは霍去病だ。まずコイツをどうにかしないと過去改変で戦局がひっくり返される。グレン氏は後回しで、霍去病を倒そう!」


 向こうは戦闘中かも知れなかったけれど、俺は構わず声を張り上げた。

 

「無茶を言うわね! 団長を放置してそっちに行けってこと?」 


 通信機からヒナの声が聞こえた。

 俺の言葉は届いていたようで少し安心するけれど、だからといって打開できる状況ではない。


「レモリー! 量産型魔王が見えたらすぐに連絡してくれ!」


 俺は上空のレモリーに指示を出した。


 次いで隣にいる小夜子を見た。


「小夜子さん。あの化け物を止められる?」


「やってみるわ!」


 小夜子は大きな胸を震わせて頷いた。

 とはいえ、神経ガスの中に彼女を突入させるのは危険すぎる。

 ガスマスクがあるとはいえ、もう少し引きつけてから対処する必要があった。


 小夜子に怪物化した霍去病を当てて時間を稼ぎ、その間にエルマとヒナで再び霍去病を倒す。

 ミウラサキにはグレン氏を止めながら空爆の量産型魔王を足止めしてもらう。


 魚面と虎仮面は対毒の結界や戦車周辺のカバーを行ってもらう。


 そして俺は通信機でクロノ王国に潜入したいぶきを呼び出し、前法王ラー・スノールを呼び出す。


 ラーがどんな理由でクロノ王国に潜入したのかは置いておいて、本国の方と和睦して七福神を孤立させる。

 

 おそらく、この泥沼の戦争を終結させる唯一の手段がそれだ。


 どの局面ひとつでもしくじれば〝詰み〟だが、俺の未来視をフル活用すれば勝機はみえてくる。

 ここが正念場だと俺は腹をくくった。

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


ヒナ「ねえママ、コレ可愛くない?」


小夜子「これ私が学校で着てたジャージとそっくりじゃない!」


ヒナ「あずき色のダサさが可愛いじゃん。ねえちーちゃん?」


知里「〇ンキで売ってる芋ジャージね。けどヒナって〇ンキ好きだよね。実はギャルなの?」


ヒナ「品揃え多いし何気にコスメ可愛いしパーティグッズもあるからいいよね」


知里「ちっ。何か腹立つわ」


エルマ「ボン♪ ボン♪ ボン♪ ボンキー♪ ボンキ♪ ポーテー♪ なんでも売ってる激安ジャングリャー♪ 次回の更新は4月25日を予定していますわ♪』

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― 新着の感想 ―
息詰まる攻防戦にいつもドキドキさせられています。 毒ガスとは真反対な事柄でも息が詰まってしまうのですね(^_-)-☆
 変身したネオ霍去病が大活躍(?)して嬉しい限りです。読んでいて、彼には「これは毒か⁉おのれ、卑怯なり‼」とか言って欲しかったです。
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