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633話・崩壊のロンレア

 俺の脳内に映し出された『未来視』では、最悪な結末が予告されていた。

 コマ送りの映画のフィルムのように描かれたそれらは、強烈な臨場感と共に、未来の記憶として意識に焼きついていく。


 ロンレア領のシェルターの入り口を、クロノ王国の兵たちが取り囲んでいた。

 生首を持った男があらわれて、膝をついてそれを差し出した。


挿絵(By みてみん)


 首を差し出した男には見覚えがあった。

 確か農業ギルドに所属する元冒険者で、名前はジュダイン・バート。


 しかし、そんなことよりも首の方が問題だった。

 ギッドの死──。

 ロンレア領の内政を担当する彼が、どうしてこんなことになったのかは分からない。


 ただ、この状況が意味するところは一目瞭然だ。


 元冒険者のジュダイン・バートが代表となり、ロンレア領は降伏した。

 ギッドは殺害されたのか、それとも自らの意志でそうしたのか。

 ただ、他に抵抗した者がいなさそうなところをみると、ギッドが犠牲となることでこの戦争を収束させようとした可能性が高い。


 エルマの話ではとっておきの留守番がいたそうだが、俺の脳内に浮かんだ映像には出てこなかった。


 次いで頭に浮かんだのは旧王都の光景だ。

 ここは以前と何も変わらない。

 ロンレア領は副官のギッドの首で和平が合意、クロノ王国に併合され、シン・エルマ帝国は僭称と認定。


 俺たちは指名手配される。

 

 しかし奇妙なのは三つの場所から得た『未来視』が微妙につながらない点だ。


「……あれ、ここは……?」


 俺は地面に敷かれた毛布の上で目を覚ました。

 いつの間にか意識が飛んでいたようだ。


 上体を起こして周囲を見渡すと、ここが街道から外れた森の中だと気づいた。

 戦車は茂みに隠されているようだ。


「直行くん、何を見たかヒナたちに教えて頂戴……」


 ヒナが俺の顔をのぞき込んで言った。

 その隣には小夜子とミウラサキ、やや離れた位置に魚面と虎仮面が座り、俺の背後にある岩にはエルマが腰かけていた。


 とりあえずは敵襲を避けられたのかと安堵する。

 その一方で『未来視』については皆と共有しておかなければならない。


「時系列がグッチャグチャだけど、ありのままを話すよ──」


 気は重いし言いづらいことだが──。

 俺は今しがた体験した最悪な未来の出来事についてを語った。


 ヒナも小夜子も魚面も、あのエルマでさえ真剣な表情で耳を傾けてくれている。

 

「でも待って。最初に見た『未来視』では、数万体の量産型魔王が世界を焼き尽くし、ヒナたちの自治区は崩壊する。次いで直行くんのロンレアも滅亡してエルマさんたちは指名手配……」


「ギッドさんが打ち首って、あんまりですわ……」


「ジュダイン・バートはワタシと虎を尾行していた男ダ。まさか裏切るトは……」


 皆の反応はそれぞれではあったが、驚きを隠せないようであった。


「とにかく、これは絶対に確定させちゃダメなやつだ! ボクも全力で力を尽くすよ」


 時間操作の能力を持つミウラサキの一言は、俺の『未来視』をキャンセルできる鍵になるかもしれない。


「はい。私も直行さまのために命を惜しみません」


 レモリーにはもう少し自分を大切にしてほしいところだが……。

 それでも俺たちは心を一つにして難事に立ち向かおうと誓った。


「……なあ、ちょっと、いいか」


 そうした状況下で、虎仮面が一人だけ異を唱えた。


「何かよォ、全部が全部、都合が良すぎるんだよな……いいか?」


 彼はそう前置きした後、忌々しそうに、吐き捨てるように言葉を続けた。


「俺たち〝鵺〟は、お前らをかなり苦しめただろう? 最初のロンレア襲撃なんて、裸女がいなければまず間違いなく勝っていた。つぎの蛇、猿の襲撃にしてもな。だが相手が悪かった」


「裸女って言い方……」


 小夜子がそこにツッコもうとしていたけれど、ほぼ事実だし、話が進まないのでヒナも含めた俺たちは華麗にスルーをした。


「ともかくだ。テメェら〝勇者パーティ〟を相手にして一方的に勝ちを収めるなんて不可能だ。魔王討伐者は伊達じゃねえと知った」


「ヒナたちをお褒めにあずかり恐縮ですけど、いまは人を褒めてる状況ではないんじゃなくて?」


 ヒナは苦々しく語る虎仮面に対して首をかしげて言った。


「違うんだ。いいか、俺が言いたいのは恥知らずの『未来視』は、敵にとって都合が良すぎるんだよな……。そこに、秘密があると……思って……い……」


 そのとき、虎仮面が大量に喀血し、移植した両腕が風船のように膨れ上がった。

 この現象には見覚えがある。


 強い呪いが、虎仮面の肉体を急速に蝕もうとしていた。


「グッ……アアアアアア!」


 断末魔のようなうなり声を上げる虎仮面に、エルマとヒナが同時に魔法を発動させる。


「3、2、1、&GO!」


 ヒナがしなやかに虎仮面の周りを舞い、ステップの跡にエルマが魔法陣を描き加える。

 回復魔法と人体再生の召喚術を組み合わせた合成術が、瞬く間に虎仮面の肉体を修復していく。


 この攻撃はかつて俺と魚面が〝猿〟の呪いにやられた強力な呪詛だが、エルマとヒナの合わせ技で呪いをかき消した。


「ふう、助かったぜ……ありがとよ……」


 とはいえ体力の限界に加えて即死級の呪詛を受けた虎仮面はその場に倒れ込んでしまった。

 

 俺は彼が言いかけた「『未来視』は敵にとって都合が良すぎる。そこに秘密がある」という言葉の意味に考えを巡らせた。


 そこに、最悪な未来をキャンセルできる鍵があると信じて──。

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。

※※下ネタ注意


エルマ「直行さん♩ 公園を歩いていたら『○んぽ道』という旗があってギョッとしましたわ♩」


直行「『さんぽ道』って旗だろう。『さ』が裏返って『ち』に見えたのか」


エルマ「活字の構造に問題があるんですわ♩ 『さ』がつながっていなければ裏返しても『ち』に見えませんから♩」


知里「人間は自分が読みたいように解釈するものだから、そう見えるわけで」


直行「次回の更新は3月14日を予定しています『ち。─変態の発想について─』お楽しみに」

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― 新着の感想 ―
確かに鍵ですね! 先の展開は??
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