681話・未来を盗んだ外道
俺の想像が正しいなら──。
グンダリが見た未来で、ヒナと魚面、虎仮面の死亡が確定している。
だからヒナを本陣に向かわせ、俺や小夜子に見向きもせずに、執拗に魚面と虎仮面を狙う。
この二人を倒す戦略的な価値はほぼないにも関わらず──。
グンダリの目的は、未来視で体験したものを確定させることに間違いない。
「うぐッ……!」
魚面のボディスーツが再度切り裂かれ、血しぶきが舞う。
屈強な肉体を誇る虎は、彼女をかばいながら斬撃の雨を受け止めている。
「くそがぁぁぁ」
虎はかつての仲間を守ろうと、グンダリに体当たりをして斬撃の軌道を逸らせる。
しかし、長く伸びた蛇腹剣は変幻自在に軌道を変えて、二人の肉体を同時に切り刻む。
「魚ちゃん! 2人とも下がって! この騎士は私がやる」
小夜子が戦闘に割って入るが、その行為もグンダリには見えているようだ。
進行方向に蛇腹剣を打ち込み、彼女の踏み込みを防いだ。
「小夜子さん! ちょっと落ち着こう」
俺は小夜子の方まで駆けていき、彼女の肩をつかんだ。
伸縮が自在で攻防一致もできるの蛇腹剣と〝未来視〟の相性はよすぎて、うかつに攻めても未然に回避されてしまう。
ならば作戦を変え、予想外の手段、予知できたところで抵抗できない攻撃手段を取るべきだろう。
「でも、このままじゃ魚ちゃんたちが死んじゃう……!」
小夜子は俺を振りほどこうとしている、その気持ちは分かる。
虎仮面が強靱なミノタウロスの腕を持ったとしても、グンダリに蹂躙されるのは時間の問題だった。
「小夜子さん聞いてくれ。敵の『未来視』をキャンセルする方法は何かないの? 実はたぶん、ヒナちゃんさんもヤバいんだ」
ヒナの名前を出したことで、小夜子の注意を引くことができた。
「……〝未来視〟のキャンセル。スキル所持者の命を奪うとか……トシちゃんは重力を操作して能力ごと奪っていたけれど……」
小夜子は俺の耳元でゴニョゴニョと能力にまつわる秘密を教えてくれた。
俺も錬金術師アンナとの付き合いで、何となく知ってはいたのだが、これで裏が取れた。
あとは覚悟を決めて、やるしかない。
まさに〝恥知らず〟の二つ名にふさわしい外道の策だが……。
「小夜子さん、色っぽい表情でアイツに胸を押しつけて羽交い締めにして何秒か動きを止められる?」
「はい?」
小夜子はキョトンとして目を見開いているが、俺は真剣だった。
「ある種のセクハラだし、無茶苦茶なオーダーなのは承知してる。でも、皆の命はこれで救えると思う……」
「救う……皆を」
小夜子は首をかしげながら、自身の胸を大きく寄せて上げた。
「……!?」
一方、ありえないといった表情で俺たちの方を睨みつけるグンダリ。
俺が発想した〝ふざけた未来〟が見えたのか、魚面たちへの攻撃の手を止めた。
作戦は単純だ。
小夜子が悩ましい顔で胸を押しつける。
戦闘中にそんな未来が見えたとしたら、奴はどう反応するだろうか。
ましてや小夜子には全く殺意はなく、悩ましい顔つきで攻撃の意図も不明。
そして次に魚面に出す指示も、〝未来視〟には見えない攻撃になる。
問題は最後に俺がやるべき次の行動だけど──。
おそらく、トリッキーな攻撃を二度続けてからの三手先は誰にも読めないだろう──。
「知里さんが来る前に終わらせてしまおう」
俺は、恥ずかしそうにもじもじしている小夜子の背中を押した。
「えっ? 直行くん、どうして知里? いま知里って言わなかった?」
「あれ?」
……どういうわけか、意図しない名前が出た。
なぜ俺の口から唐突に知里という名前が出たのか、まったく意識していなかった。
言い間違えたか、妙な体験だった。
「ちょっと待て! こんな未来、俺は見てねえ! 俺の未来視は絶対のはずなのに! まさかあいつが書き換えたのか……?」
妙なのはグンダリも同じだった。
執拗に魚面と虎仮面を攻撃していた手を止め、愕然とした表情で天を仰いでいる。
何かがおかしい。
皆、言ってることが微妙にかみ合わなかった。
気のせいか俺の感覚が鋭くなっているのか?
そういえばアンナのところで『回避+3』をつけたときもそうだった。
スキル結晶を埋め込む前に、予知のように体が反応した。
これから先、俺がやろうとしていることに連動して感覚が暴走しているのか?
「これでいいの? 直行くん」
初手、小夜子が超高速移動からグンダリの背後を取り、大きな胸を押しつけて羽交い締めにする。
この未来はグンダリにも見えていたはずだが、思った通り、予想外すぎて対応できない。
「魚面! 呪縛魔法で奴の動きを止めろ!」
次いで俺は魚面に指示を出した。
ヒナよりも威力は弱いかも知れないが、数秒でいい。
俺はゆっくりと深呼吸しながら、グンダリの方へ近づいていく。
そして眼帯を外すと、右目に指を差し入れる。
「んな……嘘だろオイ! テメェ恥知らず!」
「ちょっと直行くん! 何をする気なの……?」
小夜子とグンダリが戦慄しているけれど、俺は妙に冷静だった。
「人の目玉をえぐるなんて何度もやることじゃねえけどさ」
俺も自分で何を言っているのか、よく分からなかったけれど、不思議と躊躇はない。
グンダリの右目に指を突っ込み、スキル結晶を取り出した。
指を伝う脈拍と生暖かい感触が、精神にこたえる。
「ぐうあああああ!!」
グンダリの悲鳴が、耳に残る。
小夜子も何か言っているようだけれど、よく聞き取れなかった。
俺の手には、紫色のスキル結晶が握られている。
浄化魔法を使いたいところだが、あいにくヒナはここにはいない。
最悪、感染症になるかもしれないが、いまは確定した未来のキャンセルが最優先だ。
俺は〝未来視〟のスキル結晶を首の後ろにあてがった。
「……いや、そっか待てよ」
ただ、俺は直近でスキル結晶『理性+3』『回避+3』を埋めている。
同一箇所に立て続けに三個も埋めると、よくないという話は錬金術師アンナから聞いていたような気がする。
少し考えてから、俺は脳天にスキル結晶を当てがった。
「未来はただ見るもんじゃないな。頭にたたき込んでおくものだ」
時間の感覚が前後して、溶けていくような奇妙な体感の中、俺は……『未来視』を手に入れた。
次回予告
※本編とは全く関係ありません
エルマ「このお話がアップロードされたのは24年12月のクリスマス前でしたわ♩」
直行「俺たちぼっち組には寂しい季節だよな知里さん」
知里「まあね」
小夜子「二人ともそんなこと言わないで! 今年こそ皆でパーティしましょうよ! トシちゃんもヒナちゃんもネンちゃんも皆で!」
知里「……ヒナが来るならあたしはパスでいいや」
エルマ「あたくしも……」
ヒナ「ガーン……ヒナちょっとショックなんですけど」
エルマ「たまにはヒナさんもクリぼっちはいかがですか? クリスマスには神社に行くのもおすすめですわ♩」
直行「次回の更新は12月24日を予定しています。『戦場でヘヴィクリスマス』お楽しみに」




