676話・グンダリVS魚面&虎仮面
※今回は三人称でお送りします。
隻眼の騎士グンダリの斬撃が魚面に迫る。
「死……」
騎獣グリフォンの首をはねられた彼女は、地上へと落下していった。
即死を免れない高さだが、さらに落下中に蛇腹剣の斬撃が襲いかかる。
空中では姿勢勢制もできないため、回避は不可能。
斬撃により深手を負い、落下による即死のイメージが魚津らの脳裏をよぎった。
「うおおおおーー!!」
ところが、魚面の前に、突如あらわれた大きな影。
虎仮面は魚面をかばい、蛇腹剣の斬撃を小手で受け止めたのだ。
さらに刺さった剣を引き、グンダリの体勢を崩そうとした。
「その未来は見えていたぜ!」
しかしグンダリは虎仮面の背後に回り込んでいた。
落下中にもかかわらず、足で宙を蹴り、逆方向に飛ぶ。
「闘気をまとった足で空気を蹴って跳んだ……だと!?」
予想外の攻撃手段に虎は驚きの声を上げた。
虎の動きを完全に予知し、グンダリは背後から虎仮面を蹴り飛ばした。
「こう……か!?」
地上に叩きつけられたかに見えた虎だが、闘気を込めた拳で空を殴ると、まるでそこに空気の壁があるかのように力場が生まれた。
「ほう、闘気にこういう使い方があったとはな」
虎仮面はそれを押して反動で横に飛び、軽く着地すると再度空をうかがい、グンダリに向かって再度跳躍し、闘気を込めた拳を放った。
「技をパクりやがったか虎野郎!」
グンダリは蛇腹剣をあさっての方向に投げると、両手のナックルでカウンターパンチを決める。
しかし虎はひるむことなく、両者による拳の打ち合いが続いた。
「面白れぇ! ケンカってのはこうじゃねえとな!」
ガルガ国王を見殺しにした後ろめたさや、ミウラサキに圧倒された屈辱を好敵手との戦闘で晴らすかのように、嬉々とした表情を浮かべ、戦闘に興じる。
一方、高度から落下していた魚面は地面に向けて衝撃波を放つことで激突を緩和し、自身を守った。
虎がいなければ間違いなく絶命していたと思うと、背中に冷たいものが走った。
「うそ!!」
魚面が体勢を立て直す間もなく、蛇腹剣が迫る。
辛うじて避けたものの、剣先が大腿部をかすめ、鮮血が飛んだ。
見当違いの方向に剣を投げた先はずなのに、自分の移動先に斬撃が飛んできていた。
それは全く思いもしない一撃った。
──あの片目騎士、虎と戦いながら、ワタシが衝撃波を出して落下ダメージを避けた着地先を知っていタ?
同時に魚面はグンダリの言動に疑問を感じていた。
彼は仮面姿の魚面に対し、「花火大会で腹をかっさばかれた姉ちゃん」と呼んだ。
ボディスーツで女だと分かるのならまだ分かるが、なぜ新調した仮面に隠された素顔を知っているのか、蛇腹剣の騎士に底知れない雰囲気を感じる。
「なぶり殺すのは趣味じゃねぇが、ジワジワと削らせてもらうぜえ!」
虎仮面と近接戦闘を繰り広げながら、グンダリは時折思い出したかのように蛇腹剣を拾いにいく。
そして虎とはまったく見当違いの方向に投げつけると、我に返ったように虎に殴りかかる。
「グギャッ!」
「グボボッ!!」
グンダリがそうした意味不明に蛇腹剣を投げつけるごとに、魚面と虎仮面の召喚獣たちが血祭りにあげられていった。
見当違いの方角から投げられた蛇腹剣に、まるで自分から当たりに行っているように、オーガやミノタウロスといった屈強な魔物たちが斬撃を受け、致命傷を負わされていく。
「何なんだ! お前の戦い方!」
虎仮面は絶句した。
隻眼の騎士と素手で一騎打ちをしているはずが、適当に投げられた蛇腹剣で一体、また一体と手持ちの召喚獣を葬られていく。
奇妙で、ありえない戦闘方法だった。
「オイオイ、よそ見をしてるとおっ死ぬぜ虎野郎」
グンダリは虎仮面との近接戦闘を装いながら、クロノ王国の味方を援護し、召喚獣たちを潰していく。
この奇妙な戦法に魚面たちが気づいたときは、手持ちのオーガもミノタウロスも壊滅していた。
「……虎、敵将、未来ガ見えている……?」
魚面は夢中で叫んだ。
そうとしか考えられない戦法だった。
「ついでに言っておこう。お前らはここで終わりだ。虎野郎は四肢を落とされ、魚女は内臓をぶちまけた上に仮面をはがされて死ぬ」
グンダリは悠然とそう言い放つと、蛇腹剣を元の形に収め、腰をかがめる。
「ふざけるんじゃねぇ!」
あまりにも隙だらけの状態で挑発的な態度に、虎仮面は激高して顔面を蹴りにいく。
しかしすでにその場にグンダリはおらず、蛇腹剣を振り回しながら魚面の方へ歩き出していた。
そして鞭のようにしなった蛇腹剣が虎仮面の右足の膝から下を切断した。
「これは確定した未来だ。俺には見えたんだぜ?」
「うぎゃああああ」
鮮血が吹き出し、虎仮面の絶叫が響いた。
それをまったく意に介さず、グンダリは無慈悲に魚面を指さす。
「次はおまえだ魚女。もうすぐここに恥知らずたちがやってくるが、間に合わねえ。お前は最期に言うんだぜ。『法王にやられたのと違ウ、今度はもう助からなイ』とな!」
魚面の腹部が爆ぜた。
鎖帷子のプロテクターがはじけ飛び、赤黒い鮮血が流れる。
とどめを刺そうとしたグンダリだが、突如それを止めて蛇腹剣を上空へと向ける。
右足を失った虎仮面は少しの戦意も失ってはいなかった。
残された左足で跳躍し、闘気を込めた両腕で敵を狙う。
しかし未来視でそれを見ていたグンダリは蛇腹剣でその両腕を切り裂く。
「だから何だ!」
それでも虎仮面は止まらなかった。
虎の仮面に隠された口から毒霧を吹いた。
暗殺者集団〝鵺〟に伝わる、きわめて致死性の高い猛毒の霧は、無色透明でもあるためグンダリの未来視には映らなかったのだ。
「未来が見えるだと? だから何だって言うんだ。見えない毒はテメェの体を蝕み、死に至らしめる。断末魔の悲鳴も上げずに、テメェは死ぬんだ」
両手に損傷を負い、右足を失った虎は、残された左足で着地を決める。
さらに腹部に致命傷を負った魚面が、トドメとばかりにグンダリに緊縛魔法を放った。
凄惨をきわめた元〝鵺〟対〝七福人〟グンダリの死闘は、誰も予期しなかった相打ちによる全滅かにみえたのだが……。




