表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
679/733

675話・野に解き放たれた虎と、もう一人の蛇

今回は三人称でお送りします。

 魚面と虎仮面が敵の一団に遭遇したのは、森を抜けた先にある穀倉地帯だった。

 この地は元々クロノ王国傘下の領地であったが、ガルガの親政により直括地となっていた。

 現在は兵糧を本陣に送る兵站の重要地点ともなっていた。


 彼らがここを攻めたのは単なる偶然に過ぎなかった。

 クロノ王国の侵攻部隊が、捕虜だった英雄ミウラサキらの逃走劇によって攪乱され、取り残されたこの地の守備隊が浮いてしまったことが、魚面たちの目にとまった。


「ちょうどいい規模じゃねぇか! ここを叩いちまおうぜ!」 


「敵将を一人でも潰すのが最優先ダ……」


 ロンレア領を抜け出し、かつての同胞であった敵将の虎仮面を釈放し、独断専行で奇襲をかけた魚面にとって、最重要課題は敵将の暗殺だった。


挿絵(By みてみん)


 ──自分たちは暗殺を生業としてきた。


 魚面にとっては思い出したくもない日々だが、日向の世界に居場所を与えてくれた直行たちのために、自分たちの住む場所を守るためならば、手を汚すことも命を投げ出すことも惜しくはなかった。


「直行サンたちができなイことをやる」


 魚面は手持ちのオーガ4体と虎仮面のミノタウロスに前衛を任せ、敵陣の正面から攻め立てさせた。

 そして自身は純白のグリフォンを駆り、上空から敵陣中枢に電撃魔法を浴びせかける。


「て、敵襲──!」


 浮き足だった敵の側面を突くのは、現状の最高戦力である虎仮面。


「オラオラオラァ」


 敵陣に単騎飛び出していった虎仮面の男は、雄叫びを上げながら斧槍を振り回す。


 大型武器に絡めとられた兵たちは、かき分けられて宙を舞い、地面に叩きつけられる。


 牢獄に囚われていた時間ごと弾き飛ばすように、虎男は戦場で心を躍らせた。

 虎仮面の下で、男は笑い、舌なめずりする。


 ──戦場こそが己の天地よ。


 暗殺者集団“鵺”は、基本的に闇に潜み、個人を抹殺する戦法を得意とする。

 

 そうした中で“虎”は異質な存在であった。

 対集団を得意とする一騎当千の荒武者だった。


 組織では大規模な破壊工作や、騒乱をしかける陽動役を担ってきた。

 現にロンレア領襲撃事件では、工場の破壊を受け持ち、小夜子と激闘の果てに敗れた。

 

 裏切り者で、組織を内部崩壊させるキッカケとなった魚面に服従するのは癪だった。


 しかし牢獄に囚われたまま朽ちるくらいなら、天地と見立てた戦いの場で存分に暴れる方がいい。


 敵陣に突入し、渾身の力を込めて斧槍を振るう。


 血煙が舞い、肉片が爆ぜる。

 兵らの断末魔の声をかき消すように、虎男は雄叫びを上げながら敵陣を割っていく。


 闇に生きる者として、戦場は度過ぎた花の舞台。


 一方、魚面は上空でグリフォンを旋回させながら、下の様子をうかがっていた。

 三方向から攻め立て、敵を攪乱して指揮官をあぶり出す。

 

「なかなか面白そうなやつがいるな!」


 軽口と共に現れたのは、隻眼の騎士グンダリだった。


 あいさつ代わりに振るった蛇腹剣は奇怪な軌道を描き、虎男の真後ろから斬撃を繰り出す。

 虎仮面は前方に飛んで回避するが、それを予知していたように先回りに、大男の顔面に膝蹴りをたたき込んだ。


「背後からの斬撃とは! およそ騎士らしくもなさそうだ」


「人のこといえた義理かよ! 嬉しそうに兵どもを切り刻みやがって!」 


 虎仮面は足を使って顔面蹴りの衝撃を受け流しながら、反対方向に跳躍した。

 大男とは思えない俊敏な動きに、隻眼の騎士グンダリは口笛を鳴らして感心して見せた。


「あー、一応大将なんで名乗っとく。我が名は〝七福人〟グンダリ・アバター。お前さんとは気が合いそうだが、これも定めだ。死んでもらう」


「俺は鵺の虎。望むところ──だっ!」


 そう言いながら、虎仮面は持っていた戦斧を投げつけた。

 変幻自在に斬撃を繰り出すグンダリに対して、長い得物では不利と判断した虎が、格闘スタイルに変化させるためだ。


 しかし斧を投げた場所にグンダリはいなかった。


「拳闘士か! いいねえ! ガキの頃を思い出して付き合ってやる!」


 グンダリは変幻自在の蛇腹剣を背中の鞘に収め、拳闘スタイルに戦術を変化させた。

 ポケットから取り出したのは鋼鉄製のナックルダスター。


 自身の幼少期、貧民窟でケンカに明け暮れたことを懐かしみながら、拳を振るう。


 一方、拳闘に絶対の自信を持っていた虎にとって、隻眼の騎士の挙動には違和感しかなかった。


 暗殺者の性として、敵の死角を狙うのは虎に染みついた戦闘スタイルだ。

 敵が隻眼ならば、当然死角になる方から攻撃を繰り出す。


 体格も虎の方が一回り大きい。

 拳闘士として鍛え上げた技術もある。


 しかしグンダリには攻撃が届かない。

 拳闘士としても、相手はスラム街のケンカ拳法の域を出ない。


 徒手空拳の暗殺術を極めた虎とは比較にならない技術の差がある。


 ──バカな、なぜ当たらない。


 未来予知のできるグンダリには、攻撃の軌道が見えていた。


「どうしたい? お得意の拳を食らわせてみろよ?」


 グンダリは笑いながら自身の頬を叩き、虎仮面を挑発した。


「今ダ!」


 そこへ上空から狙い澄ました魚面の電撃魔法が炸裂した。

 虎仮面との連係攻撃は、グンダリの意表ついたはずだった。


「あー、法王に腹かっさばかれてた姉ちゃんか!」


「!!」


 魚面は絶句した。

 グリフォンの頭が薙ぎ落とされ、鮮血が飛んだ。 

 上空まで跳躍してきたグンダリの、蛇腹剣は止まらない


 グリフォンの首をはねてなお、斬撃は自由自在に宙を舞い、落下していく魚面に襲いかかった。

次回予告

※本編とはまったく関係ありません。


知里「作者は新作の取材のために石垣島と西表島に行ってきたようね」


エルマ「水牛車に乗って由布島に行ったり、呑気なもんですわね♪」

挿絵(By みてみん)

直行「剥製だけどイリオモテヤマネコも見たようだな」

知里「別の子だけど、イリオモテヤマネコは上野の国立科学博物館にも展示されてたよね」

挿絵(By みてみん)

小夜子「マングローブも見たり、島草履で砂浜を歩いたり、何の取材なのかしらね」

挿絵(By みてみん)

エルマ「次回の更新は11月14日を予定しています。お楽しみに♪」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お写真!! 目を奪われる青と緑ですね!!(*^▽^*)
673話〜 ピンクタンクかわいいですね! 戦車といえば『SAND LAND』にもこんなの出たらもっと楽しかったろうな♪ あれは鳥さには珍しくギャルが出ませんからね、おっさんばっかり笑 無限軌道とか描…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ