674話・退魔〇? 小夜子
来るべき決戦に備えて、俺は衣装を召喚してもらった。
防刃仕様で対魔法能力を備えたボディアーマー。
回避能力はあっても戦闘力が一般人並みの俺としては、即死だけは避けたいものだ。
「結構いいんじゃない。ママも着る?」
衣装を召喚したヒナも自画自賛だ。
一方、小夜子はうなずきながらもあごに指を当て、首をかしげている。
「うーん。これ男の人が着たらカッコいいけど、わたしの場合スキル発動しないかも」
小夜子は俺のボディスーツをまじまじと見つめながら言った。
彼女の能力は「恥ずかしいと感じれば防御力が上がる」という珍妙なもので、戦闘時はビキニアーマーを愛用している。
「じゃあヒナがそれっぽい衣装にチェンジしよっか。コンセプトはくのいち」
そう言ってヒナが召喚したのは、小夜子が能力を発動させやすいようにリデザインされた装束。
アンダーアーマーは全身タイツとなり、胸元に大きく切れ込みを入れた大胆なデザインにアレンジ。
ベストの代わりに申し訳程度の金属で胸元と腰回りを覆っている。
もちろんお尻はTバックでテラテラタイツと相まってかなり刺激的だ。
「ゴ、ゴクリ……」
ヒナちゃんさんに知識があるのか知らないが、その姿はまるで成人向けゲームの女忍者の装束。
しかも戦車内は蒸し風呂状態だから、ボディスーツもあっという間に蒸れ蒸れだろう。
「ああん……直行くんが獣のような眼をしてるわ」
「いや、してないしてない。そんなことよりヒナちゃんさん、ドローンとか飛ばして戦局を確認しよう」
現在、俺たちは戦車で街道を行き、クロノ王国方面にいるはずのレモリーたちとの合流をめざしている。
一方で、勝手に出陣した魚面の別動隊? も、クロノ王国軍を目指している。
彼女たちの動きはまったく予測できないが、召喚した手持ちの魔物部隊の規模から考えて十中八九ゲリラ戦を展開すると思われる。
これに対して敵軍は1万50000。レモリーとの通信によればミウラサキに撹乱され、総崩れになったものの死傷者はおらず早急に軍を立て直して追尾するだろう。
量産型魔王の動向も気がかりだ。
グレン・メルトエヴァレンスが噂通りの戦術家なら、予想外の運用をしてくる可能性もある。
戦争において、情報は生命線に等しい。
「OK直行くん。じゃあヒナのとっておきの召喚獣ハーピーを飛ばすわ」
ヒナが目を閉じて左手を大きく挙げると、指先から半人半鳥の女性型モンスターがあらわれた。
ギリシア神話に登場するハルピュイア、英語名ハーピーだ。
ゲームなどでは乳房がむき出しの個体もあるが、ヒナの持っているハーピーは花柄ビキニで真っ白な翼のポップでガーリーな感じだった。
「あー懐かしいわねー。魔王領ではすごくお世話になった子よ」
「偵察ならドローンよりも高く自由自在に飛べるし、この子の力を借りましょう」
ヒナは鷹匠のようにハーピーに指示を与え、大空に飛ばす。
白い翼が舞い上がり、青い空に消えていった。
「さてと、偵察が戻るまでお昼にしましょうか」
偵察に出している間、俺たちは戦車の上で軽食を取ることにした。
ヒナが勇者自治区から持ってきたのは、ポークタマゴおにぎりと鶏ささみフライのおにぎりだ。
水筒にはほぼ熱湯になってしまった麦茶が入っている。
「ヒナちゃんなにこれ、珍しいわねー」
小夜子は目を丸くしていた。
保存用のランチョンミート(ハムの塊の缶詰?)を厚焼き玉子でサンドしたものを海苔で巻いた、沖縄地方のソウルフードで、葉唐辛子みそが入るとさらに美味しい。
俺も修学旅行で沖縄に行ったときに食べたきりで、ほぼ記憶から遠ざかっていたものだ。
しかし、それはいいとしても、この食材は大丈夫なのか?
「ヒナちゃんさん、戦車の中サウナ並みに暑かったし。おにぎり、痛んでないか?」
「大丈夫、ちょっと待ってね、いま浄化魔法をかけるから」
俺の心配は杞憂だったようだ。
ヒナの浄化魔法で、食材に繁殖した悪い菌だけを駆除できるようだ。
「魔王領ではこうしないと水も飲めなかったからね。じゃあ、フライおにぎり、いっただきまーす」
小夜子があっけらかんと言って、鶏ささみフライのおにぎりにかぶりついた。
「鶏ささみフライは〝おにささ〟の愛称で知られてるのよ」
ヒナも美味しそうに〝おにささ〟を頬張る。
意外というか、最初に会ったときは高級レストランで食事をしたために、ジャンクっぽい食事とは無縁だと思っていたけれど、彼女は回転ずしやラーメンなども好んでいた。
それにしても、戦時下の街道のど真ん中で、肌も露わな女子2人と悠長にランチをするなんてどうかしている……。
「えっ!?」
ヒナが小さな悲鳴を上げた。
そんな俺の不安は的中した。
上空から、よろよろと傷だらけのハーピーが戻ってきた。体中を鋭利な刃物で引き裂かれ、息も絶え絶えの様子だ。
すぐに回復魔法でハーピーを治療するヒナは、同時に視界共有で偵察の成果を確かめる。
「直行くん、魚面さんがまずい!」
青ざめたヒナが指さした先には、真っ黒な煙が立ち上っていた。
次回予告
※本編とはまったく関係ありません。
エルマ「このお話がアップロードされた24年11月1日はハローキティの五十周年でしたわ♪」
小夜子「わたし、キティちゃんのモノトーンシリーズ大好き!」
知里「あれ発売されたの87年だからお小夜の時代ね」
エルマ「知里さんはクロミちゃんの方が好きなんでしょうけどね♪」
知里「まあね。でも可愛い系女子はもちろん、世界のセレブから地方のヤンキーまで虜にするキティの影響力はすごいよね」
直行「次回の更新は11月7日を予定しています」




